『透明な人参』



 莫言(モーイエン)の小説。『中国作家』に一九八五年に発表された文壇デビュー作である。もう言えん。もう何も言えん。こっから先は、先祖代々に渡って語り継がれてきたわしの物語に挿げ替えてやる。わしは今、何を言った? わしは、わしなのか? はてまた、わしは何を物語ろうとしているのか? わしは何を突然なことを言い出そうとしているのか? わしに語る物語があるか? あるとすればそれはわしの物語か? わしの物語はわしの物語か? わしの語りは、わしに従属するか? わしの語りはわしの思い通りか? わしはわしに何を残そうというのか? わしが語ることで何が生まれるというのか? わしはいかにも今、謎に包まれた慎ましい語り部だ。事実として、莫言のやつはもう何も言っとらん。いや、今日何がしか喋ったかもしれない、喋りが蝶のように舞って、蜂のように刺すかもしれん、そうすれば「ギョッ!」と悲鳴を上げかねん、悲鳴を上げれば世界は消えかねん、観念は消えかねん、飴色の語りはこうしてどこまでも進み、ついに人の波に飲み込まれて消えかねん、そうじゃろう、わしはもう言えんと言いつつ言うかもしれん、もう何も言えんと言いつつ言っているかもしれん。もう言えんことは一通り言ったかもしれず、それがためにもう言えんかもしれない。しかし、まだ喋るぞ! さあ喋りよ蝶のように舞い上がれ! 喋りよ台風の目となってわしの書き散らしたことを吹き消したまえ!

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