透明な小説 h

 イマニュエルは、夢の中で走っている高速道路が、道路交通法に適っているかがわからなくなってきた。イマニュエルは、曲がり角やカーブに近づくときは、その手前の直線部分で十分スピードを落とさなければならないことを知っていたのに、まさにその手前の直線部分が存在しないことを認めずにはいられなかった。高速のままハンドルを切ったり、ハンドルを切りながらブレーキをかけたりすると、車体が横転や横滑りを起こしやすくなる、なんてことは当然のように知っていたし、ハンドルは急ハンドルにならないようにゆるやかに操作し、道路の中央からはみ出さないようにし、内輪差のために道路の内側にいる歩行者や自転車を巻き込まないようにしなくてはならないことも、十分承知していたし、また高速道路ではだいたい100キロ近く出しているから、少し急ブレーキをかけても27mぐらいは進むことぐらい、理解はしていた。しかし、延々と続く円環のような道路においては、もはや停車することができない。こんなところでは、エンストを起こしたらどうしよう、ということしかもはやイマニュエルは、考えようがなかった。交通規則が次第に加速度的に増えていって、交通網そのものを束縛しているかのようだ、そんなことをイマニュエルは考えた。だが、この仮定が正しいとすれば、つまり道路が無限に続く円環になっているとすれば、どこかで他の車もエンストを起こして止まってくれるはずだ。そうなればそのときに考えればいいと思って、イマニュエルは物事を先送りすることにした。

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