透明な小説 g
『遊戯の終わり』というコルタサルの小説があるが、読んだことはない。読んだことがあるのは、『石蹴り遊び』という小説で、しかしこれも途中までしか読んだことがない。イマニュエルは東名高速道路を走りながら、『南部高速道路』という小説を思い浮かべる、しかしそれを思い浮かべるのは、得てしてこう、海外で日本の小説がどのような受容のされ方をしているのかを考えるほどに難しく、しかし同時にまた自分たちをマイノリティと考えれば十分な程度には容易である。しかし自分たちをマイノリティと想像することは自分たちをマジョリティと想像することより難しいかもしれない、果たして私にはこうしたカミングアウト的な内面性の発露をする必要があるのだろうか、というところで目が覚めかけて、今朝見た夢の中で、とある元府知事が自分の国語教師をしていて、「国語なんて役に立たない」と言っていたこと、また触発されたある学生が高等部の音楽の授業へと抜け出していき、その授業の中でバッハのシャコンヌを弾いてみせるのだが、そのバイオリンがひどく四角形に歪んでいて、そしてまた授業の中で「いかに音楽を理解するか」を英語で論じようとして、音楽を教えていた外国人講師と以下のような会話を交わしたことなどが想起される。
How many people recognized music?
Yeah! But how can we understand it? How can I inpress it?
それを追いかけてきたその元府知事に諭されて、自分の本心である音大に行きたいという夢を語ろうとしたところで、イマニュエルは目が覚めるのだったが、しかし同時にそれはイマニュエルの現在の職業では断じてなかった。イマニュエルはこうした夢の糧を翻訳する作業に従事すること自体に、とてつもない魅力を感じていたが、そのことはまた周囲に安心感を与えるとはっきりわかった上での実践だった。イマニュエルは夢の翻訳家。そう、憧れの夢の翻訳家なのだった! しかし、そこまでイマニュエルが思ったとき、もはや誰の憧れであったかは不明瞭にされ、わからなくなってしまった。
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