透明な小説 2

 『透明な人参』というタイトルの小説があるのを知っているだろうか。ここから先は僕の想像の引き出しだが、透明な人参とは存在しない人参、存在しない収穫物のメタファーなのである。

 あるとき父が僕に話した中国の逸話がある。文化大革命の後、農作物の収穫量は激減し、それにもかかわらず政府には収穫量の向上を報告しなければならなかった。そこで、生産量が上がっていることの証拠として山積みされた米俵やら野菜やらを写真として撮り、収穫されたものとして提出したのだ。しかし実際の収穫量は激減しており、数値としては下がっていたのだ。「透明な人参」とは、写真に映っただけの空虚な存在のメタファーなのである。

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