第5話 告白されたのは男子から
翼君は中腰になって僕の両肩に手を乗せ、物凄く真剣なまなざしで言ったんだ。
「涼、俺はお前のことが好きだ。愛している。俺と付き合ってくれ!」
やっぱり来た。一番考えたくなかった事。男の子同士の恋愛に誘われるとか信じられない。
ああどうしよう。翼君の事は好きだけど男同士ってのは本当に困る。
混乱している僕は即答出来ずにちょっと違うことを聞いてみた。
「いつからなの」
「多分小学校のころからだよ。お前のその美しさに惚れちゃったんだと思う。色々悩んでた。男同士で恋愛とか間違っているからこんな気持ちも間違っているとかさ。中等部に入ってから、お前がその、人気投票で一位になっただろ。あれを機に自分の気持ちをはっきりと自覚したんだ。もう自分に嘘はつけないって。ごまかせないって」
ああやっぱり出てきた。
僕の黒歴史。
ここ竜王学園では毎年秋に文化祭が行われる。その時に人気投票があるんだ。
ミス竜王学園。中等部と高等部で学園一の美少女を決定するイベント。どこの学校でもやってるんだろうけど、うちの学園では同時に『彼女にしたい男の娘』『彼氏にしたい女の子』の投票がある。僕は、そのイベントで、二年連続で、『彼女にしたい男の娘』一位を獲得してたんだ。
決定後には女装してステージに立った。もう恥ずかしすぎる。イベント後に僕をからかう輩はいたんだけど、翼君が庇ってくれたのはよく覚えている。覚悟を決めて僕は話し出した。
「翼君。僕はね。君のことが好きなんだ。いつも庇ってくれるし助けてくれる。その一本気な性格も好き。だけど、これは恋愛とは違う。さっき恋愛はわからないみたいなこと言ったけど、男同士の恋愛とか想像もできないんだ。ごめんね。先月だけどね。五月がライトノベル貸してくれたんだ。読んでみると内容はボーイズラブだった。全部読めなかったんだ。五月には読めなかったって謝って返したよ。怒るかなって思ったんだけどそんなことはなかった。五月もそういうの苦手だって言ってた」
翼君は黙ったままだ。僕は話し続ける。
「僕はどうしていいのかわからない。大好きな翼君を傷つけたくない。でも、翼君の気持ちは受け入れられない。もうこのまま会わない方がいいかもしれない」
僕の前で膝をついていた翼君だったけど僕の横に座った。
「どうしてもダメなのか?」
弱々しく言う。
「ダメです。僕は優柔不断な方だけど、これだけははっきりと言うよ。無理です。ごめんなさい」
「ああ、さっきな俺の事傷つけるんじゃないかって言ってたけど、それは気にしなくていいからな。俺はこんなことでは傷つかねえから。フラれた位でこの翼様が傷つくわけないだろ。なっ!」
ワザと明るく振る舞う。覚悟していたのかな。
「ああ、涼、これからも俺とは普通にしてくれるかな。俺はお前を傷つけたくないんだ。お前をいじめたりからかったりする輩がいればすっ飛んで行ってぶっ飛ばす。今日の事は忘れてくれ。ははは」
これは多分、カラ元気……だよね。
「わかったよ。今まで通り普通にするよ」
「ありがとな涼。お前のそんな優しいところが大好きだ」
「うん。わかった。僕は今まで翼君に色々してもらってきたんだ。でも、僕からは何も返していない」
「そんなことは気にしなくてもいいぞ、お前がにっこりと笑ってありがとうって言ってくれるだけで俺は満足してたからな」
「でもね、やっぱり貰ってばかりだったのは間違いないんだよ。だから、一度だけ翼君に付き合ってもいいかなって思ってる。僕が女装して一日デートってのはどう? 他に思いつかないし」
「いいのか」
翼君の顔がほころぶ。
「いいよ。でも一度だけだよ。僕ってバレないようにカツラかぶって変装するからね。それと、コレは内緒だよ。誰にも言わないって約束して」
「わかった。じゃあ今度の日曜にしよう。場所は……考えとく。涼は水族館とか動物園とか好きだよな。博物館もだよな」
「よく知ってるね。ただ自然を眺めるだけみたいなのも大好きだよ。双眼鏡持って遠くの景色とか見るだけでも大満足なんだ」
「ああ知ってる。そういう自然と仲良くする的なところはいいぜ。クラスの女子もな、そういうお前に好感持ってるぞ」
「そうなの、全然気づかないんだけど」
「そうなんだよ。今までは五月フィールドに阻まれてたからな。最近女子に告白されてるだろ」
「知ってたんだ」
「ああ」
「あ、さっき誰にも言わないでって言ったけど、服とか用意しなくちゃいけないんで、翠さんに相談するよ、多分衣装も用意してくれると思う。今度の29日だよね。もし段取りがうまくいかなかったら連絡するよ」
「ああ分かった」
嬉しそうに翼君が頷く。これで良かったのか疑問は残るけど、約束してしまったからにはやり遂げなければいけない。僕は翼君と別れ階段を降りる。下駄箱付近で待っていた翠さんと合流した。
僕は翠さんに女装の手伝いをして欲しいとお願いした。さっきあった事をすべて話したんだけど、翠さんの反応は芳しくない。
「安請け合いしたものです。涼様にその気が無いならば、安易にその様な行動をすべきではありません。相手に余計な期待感を与え更に傷つける事も考えられます。それから、涼様がレイプ被害に遭う可能性も否定できません」
「男同士でも、レイプになるの?」
「そうですよ男性同士でレイプは成立します。ふむ。涼様、まずはご自身の立場というものをご理解される必要があります。不本意かもしれませんが、文化祭において人気投票『彼女にしたい男の娘』第1位なのですよ。つまり、いつ襲われても仕方ない位に人気があるのです。分かっているんですか」
意外と強い口調で問い詰められる。
「はい、すみません。わかってませんでした」
僕は素直に頭を下げた。
「それともう一つ。実は涼様は性別違和ではないかと疑っていたのです」
言葉の意味が分からず僕はキョトンとしている。
「性別違和の意味が分からないようですね。私、以前の文化祭における異性装があまりにも適合しすぎている感がありまして、ひょっとしたらそちらの方の疾患ではないかと疑っております。簡単に言うと体の性別と心の性別が一致しない病気のことです」
そういうのは聞いたことがある。性転換手術を行って治療するんだとか。
「私、涼様のメイドとして誠心誠意お仕えしております。涼様にお仕えして早五日、四六時中ご一緒し無防備な姿を晒しまくっておりますのに、一向に押し倒して頂けません。お風呂でお背中をお流しした時も、目の前で着替えた時も無反応。まさかまさか、女性ではなく男性に関心を持たれているのではないかと危惧しておりました。今週の私はその様な不安感にさいなまれ悶々としておりましたところ、それが、その不安が、本日見事に的中。このような裏切りに遭うとは夢にも……」
膝まずいた翠さんにジロリと睨まれる。
「あ〜それは誤解です。デートの約束をしたのは翼くんを傷つけたくなかったからです。男の子に興味はありません」
「本当に?」
ジト目で見つめられる。
「ほんとのほんとであります。男の子とエッチしたいと思った事はありません。エッチするなら女性相手しか考えられません」
僕は気を付けの姿勢で必死に訴える。
「それは例えば涼様の母君? あのグラマー美女には女性でも憧れてしまいますわ」
「は、は、母親相手にエッチな事など考えられません」
「じゃあ、最近こっちに来たミサキさんはどうかしら。あの豊満な胸を押し付けられて、涼様は相当ニヤケていらっしゃいましたわ」
「そ、そ、それは、あ、あ、あんな立派なモノを押し付けられたら、す、す、少し位は嬉しいですよ。僕だって男の子なんだし」
目が泳いでいるのが自分でもわかる。
「あ、あんな強引なのは恥ずかしいし、す、好きじゃないです」
「じゃあ巨乳のお姉さんは嫌い?」
「き、き、嫌いじゃないですけど、す、少しは好きだと思うけど、ご、ご、強引なのよりは控えめな方がいいです」
しどろもどろになりながら答えている自分が恥ずかしいんだけど、翠さんの質問は終わらない。
「じゃあ、五月ちゃんはどうかしら。控えめというよりは、随分積極的よね。今週はずっとお弁当作ってましたし、良いお嫁さんになれそうだわ」
「五月のことは嫌いじゃないけど、やっぱり積極的すぎるって言うか強引すぎる所は勘弁して欲しい。恥ずかしいから」
「そう。じゃあ、おさげで胸元が控えめで、性格もちょっと控えめな」
「控えめな?」
「私なんかどうかしら?」
「す、す、好きかもです」
「かも?」
「好きです」
見事な誘導に引っ掛かってしまった。そんな僕を見つめながら、翠さんは満足そうに微笑んでいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます