悩ましいモテ期
第4話 モテ期?
僕はモテ期に突入したかもしれない。
おばあちゃんが言ってた。人生にモテ期は三回あるんだって。
「生まれた時。結婚する時。お葬式の時」
言われてみればそうかもしれない。
「沢山の人にお祝いされて、沢山の人に悼まれて、心からの賛辞をいただけるのはこういう時だけ」
なんだって。
ごもっともな意見だと思うけど、現状の僕の状況とは趣が異なる。
僕は普通の中学三年生だ。
背が低くて、地毛が金髪なだけで、後はいたって普通のつもり。今までもモテた経験なんてないし、バレンタインデーでも義理チョコしかもらったことがない。仲良くしてくれる女子は幼馴染の五月だけだった。ところが、今月に入ったとたんに状況は一変した。
僕の従妹が二人、留学生として僕の家にやってきた。僕の母の兄の娘で米国人。姉のミサキさんは黒髪でどちらかというと東洋系の顔立ち。グラマーな体形が目を引く美女だ。二つ年上で高等部二年生。彼女のスキンシップは過激でやたら抱擁してくるしキスも遠慮ない。妹のララは金髪が目を引くが背が低く体形も幼い。時代劇に夢中で恋愛には興味ないといった風なのだが、四六時中僕にくっついている。そして睦月君の専属メイドの
こんなプチハーレムになっただけでも仰天状態なんだけど、なぜか僕に告白してきた女子がいた。今週で5人。皆、良く知らない人なので丁寧にお断りした。付き合うとか恋人になるとかよくわからなかったし、僕の中ではうまく整理できてなかった。
あの事件から三年たった。学校内では僕たちと距離を置こうっていう雰囲気はなくなってきた感じはする。だけど、これは変わり過ぎだと思う。
今日は金曜日。
朝、下駄箱の中に手紙が入っていたんだ。「放課後に屋上で待っている」って書かれていた。名前は書いてなかった。
放課後になり屋上へ向かう。今週これで6人目の告白なんだろう。相手はどんな人だろうとか色々考えてしまう。モテ期真っただ中の不思議な高揚感に包まれながら屋上へ出る扉を開く。
青い空がまぶしい。快晴だ。あたりを見回してみるとそこにはクラスメイトの
僕も翼君を尊敬している。中等部に入ってすぐのHRの時、自己紹介で僕は天体観測が好きだと言ったら皆に笑われてしまった。暗いとか地味とか言われた。その時、翼君は席を立ち笑った人を叱ったんだ。
「人の趣味を悪く言う事は許さねぇ。今、笑ったやつは涼に謝れ! 土下座しろ。文句がある奴はぶっ飛ばす!」
翼君のすごい剣幕に教室は静まり返った。先生がとりなしてくれてその場は収まったんだ。僕は庇ってくれたことがすごく嬉しくて、その時から翼君のことが好きになってた。
「翼君、こんにちは」
「ああ」
「他に誰かいないのかな?」
「誰もいない」
「誰かと待ち合わせなの? 僕と同じだね。あはははは」
ちょっとひきつった笑い方だったと思う。すごく緊張してきた。だって女子から告白されるとばかり思っていたんだけど、其処にいたのは男子で体が大きくて、多分喧嘩もめっぽう強い翼君だったから。
これから起こる事は二つ。僕が翼君にぶん殴られるか、翼君に告白されるかどっちかだと思う。僕は翼君の事が好きだけど、恋愛感情とは違う。できれば逃げたかった。翼君に殴られるようなことしたっけなとか一生懸命考える。もう一つの可能性を打ち消したいからか、翼君に殴られる方向でしか思考できないでいた。
「涼、座ろうぜ」
翼君は屋上に設置してあるベンチへ座って僕にも勧める。僕は頷きながら翼君の隣に座った。
「ちょっと聞いていいか?」
「うん」
「あのメイドのお姉さんは何だ? あの姉さんは睦月の専属だったんじゃないのか?」
眉をひそめながら翼君が聞いてくる。確かにクラスの誰もが違和感を覚えているはずだ。一番違和感があるのは僕なんだけど。
「それは、睦月君が今旅行に行ってて、姉の方の夏美さんが付き添っているんだ。だからじゃないかな」
僕の専属メイドになった事はごまかしながら事実を言う。嘘じゃないぞと心の中で確認する。
「そうか、いきなり熱々カップルみたいにくっついてるから何事かと思ったよ。彼女はあくまでもメイドであって恋人とかじゃないんだよな」
「そうだね。今も下で待ってると思う」
「あのさ、高等部の美女は誰? 昼休みに必ず来て、お前を拉致って学食に行く人」
ミサキさんのことだ。毎日お昼になると教室に駆け込んできて僕に抱きついてくる。その時に豊満な胸が押し付けられほっぺかおでこにキスされる。そして学食へ引きずられるというのが最近のパターンだ。
「僕の従妹でララとは腹違いの姉妹なんだ。名前はミサキ・バーンスタイン。従妹ってだけで特に何もないと思うけど。ああいうスキンシップはアメリカでは普通だとか言ってた」
アメリカ人でもそこまでするのか半信半疑なんだけどね。単にからかわれているだけって思いたい。
「じゃあ五月はどうなんだ? 俺たちの間じゃ、お前と五月は付き合っているってことになっててな。誰もお前たちの間には入れない。今まではそういう雰囲気だったんだよ。それがこの4月から変わった。五月とお前は付き合ってるんじゃない。涼と付き合えるかもしれないってな。周りの女子がそう言いだしたんだ」
確かに、五月の僕に対する接し方は普通じゃない気はしていた。毎日お弁当を作ってくるし、学食に行くときも一緒で他の人と食事をしたことはなかった。しかし、間近で睦月君と専属メイド二人を見ていたから自分の事は気にならなかった。
「俺は、五月が涼の事を守るつーか、他の女子を近づけないようにしていたんじゃないかと思ってる。多分だけどな。五月はな、二人は付き合ってるのかと聞かれるとまんざらでもない返事をしてたんだ」
「それは、五月が僕の事好きかもしれないってことかな? 告白されたりとかないけど」
「ああそうだ、確認してないけどな。お前はどうなんだ?」
「よくわからない。五月の事は好きだけど恋愛とは違う気がする」
うつむいて返事をする。実際自分の気持ちがどうなのかよくわからない。
「じゃあさ。涼には今、特別好きな人がいるってわけじゃないんだな。五月以外の誰かと付き合うってのは可能なんだよな」
翼君が僕の目を見ながら聞いてくる。
「よくわからないけど、多分そうだよ」
翼君は立ち上がって僕の前に立った。
僕の両肩に手を乗せ、僕を真正面から見つめてきたんだ。これは来る。嫌な予感しかしなかった。
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