阻まれた答え
学校が終わりもうすでに辺りは暗い。天城とアイは二人で公園のブランコに腰掛けていた。
公園などという前時代的なものもこの天空都市では一応存在するが、利用者はほぼ皆無と言っていい。その原因は今の子供には両親がいないため、公園での遊び方を知らない子供が殆どだということにある。
そのため今では、公園はただの空き地を埋めるための口実となりつつある。
もちろん二人ともブランコの遊び方など知らないが、それでも二人がここにいるのは天城がアイとの別れを意識し始めたことにある。
天城が施設の他の仲間との別れを悲しいと思っていない訳ではない。それでも天城にとってアイは特別だった。
だから最近天城は夜など、よくアイを連れ出して二人きりの時間を大事にしている。それになにも言わず着いてきてくれるのだから、アイも満更でもないのかもしれない。
十五になって施設を出たら一人暮らしをすることになる。当然誰かと同居することも可能だ。
だから天城は施設を出たらアイと二人暮らしをしたいと考えていた。
そして天城はそろそろそんな提案をしてもいいかもしれないと思っていた。
「もうオレたちも十五か……早えよな。施設では色んなことがあったよな」
「ふふ……そうだね。たとえばたとえば天城がここが空の上の天空都市だって知って、怖がってたこととか。安心させるために私が一緒に寝てあげたこととか」
「そっ、そんなことはどうでもいいんだよ!?」
忘れたい過去の話をアイにされ、狼狽をあらわにする天城。いつだって天城はアイのペースに呑まれっぱなしだった。しかし呑まれてばかりでは、いつまでたっても同居のことを伝えることはできない。
「お前だって布団の中で手がブルブル震えてたじゃねえかよ……そっちこそ、ほんとは怖いから入って来たんじゃねえのか?」
「ふふ……天城も言うようになったね。生意気な口調になって……それでそれでいっちょまえに私を夜のデートにまで誘うようになっちゃって」
そう言ってアイは冷たい鉄の鎖を握る天城の手を、自らの温かい手で握った。そんなアイの行為に天城は自らの心臓が跳ね上がるのを感じる。
相手がアイだからというのもあるが、天城の認識している限りではアイからこんな友達ではなく異性として意識させるような行為をしてきたのは初めてだということが大きい。
そして襲い来る緊張を抑え、天城は意を決して提案する。
「なあアイ……施設から出たらオレたちは離れ離れだ。アイは凡職、オレは返還者……会う機会も減るだろう。だから一緒に住もう! そうしたら今までみたいに一緒にいられるだろ? 今までみたいに馬鹿なことやって、死ぬまで楽しいことが続けられるだろ!」
そんな天城の提案は必至すぎて、はた目からは滑稽に見えるだろう。それでもアイはそんな天城を見下すでもなく、呆れ交じりのため息を吐いた。
「……告白でもしてくれるのかと思ったらいきなり同棲か。やっぱりやっぱりこういうのには順序があると思うんだ私……」
「こっ、告白……どっ、同棲……!?」
アイの紡ぐ言葉一つ一つにたじろぐ天城。天城からしたらそんなつもりはなかったのだが、ここ天空都市の常識で考えても男女が一緒に住むということはそういうことなのだ。
しかし一度発した言葉はもう戻すことはできない。
これ以上にない程動揺をあらわにする天城に、アイは追い打ちをかけるように言った。
「ねえねえ……天城はさ、私のこと好き? 私もね、天城とずっと一緒にいたいよ? だからだから、天城に死んでほしくないし、いけないことだけど私たちの子供の成長も見届けたいって思ってる。もう一度聞くよ……天城は私のこと好き?」
上目づかいで一心に自身を見つめるアイに、天城はゴクリと唾を呑んだ。後一言が言えれば、きっと天城はアイとずっと望んでいた関係になれる。
それでも天城はそのたった一言が中々言えなかった。
そんな天城の躊躇いにより流れた沈黙……
しかしその僅かな躊躇いは、遠方から響いた数発の銃声によって破られた。
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