エイトポリス 

「皆さん、おはようございます」

六郎は目を覚まし、四人に挨拶する。

「すいません。寝坊してしまい、身支度して来ます」

だが、美女たちは、

「いいから、いいから、あなたのペースで準備して」

「助けが来るまでに気を張り詰めていたら、解決出来るものも出来なくなるわ」

「ゆっくりでいいわよ」

六郎は「えっ」となりながらも彼女たちの言葉と気遣いに甘え、入念に準備し、五人はそれぞれの車に乗り込み、自分たちの会社の前に現れた巨大な謎の屋敷に向かった。

守衛さんがいない正門、五台の車がそれぞれ門を抜けて、その門の前に立つ。謎の門はまるで、大名屋敷や武家屋敷のようにでかく、圧倒される。

「でっかいわね」

「観光地にある昔の屋敷みたいね」

「門は閉じられているけど、どうやって、入るのかしら?」

「ご立派ね」

扉の近くに進んだ美和と恵理、文子が辺りを探すが鍵などは見当たらなかった。その時、六郎が門の前に立ち、

「ご開門願いまする」

腹の底から開門してほしいと叫んだ。

「ちょっ、時代劇じゃあるまいのに、現実的ではないけど、開いた途端に鬼や蛇みたいな得体も知れない怪物が出てきたらどうするの?慎重になりなさい!!」

和枝が六郎を叱る。「失礼しました」と謝る彼だったが、何も反応が無いことから、ここは無人なのかと考える。

そこで、強固突破と偵察を兼ねて、ある方法に出た。塀の上から屋敷の中を伺うと言うものだ。六郎は倉庫から大きな脚立を持って来ていたので、塀に立てて調べた。

「それでは、僕が調べてみます」

脚立を登る彼を見送る四人だったが…

「わぁ、広い」

六郎が見たのは、縁側や襖や渡り廊下、池や石灯籠、松の木など時代劇に出てくる武家屋敷みたいだった。

「凄い、前に旅行で見た日本庭園みたいだ」

六郎は調査の前に、古風な造りにしばらく心を奪われていた。

「もう、庭なんかに見惚れている場合じゃないでしょう」

すると背後に、文子が両手を腰に当て立ていた。

「お姉様、どうして?」

「和枝さんたちとじゃんけんして、あなただけだと何かあったら危険だから、手伝ってあげなさいって、さあ、調べるわよ」

「そんな、危険なのに」

「あなた、江戸っ子みたくそそっかしいんでしょう。ドジして怪我でもされたら助けられないからね」

文子が笑うと、

「お姉様」

六郎は少しだけ安堵したが、彼女は何かを知っているようだった。

「さあ、時間がもったいないから、先に行きましょう」

「はい」

奥座敷に入る二人、危険を回避するために土足だが、襖を開けるとそこには、

「綺麗」

文子と六郎は、その部屋の天井に壁、柱や梁、畳など全てに目を奪われた。

きらびやかに輝く黄金色の障子や襖、虎や獅子、豹の絵が描かれており、天井には、菊や桐、松、桜が赤、緑など彩りどりの色彩が施されている。

まるで、お城の御殿のようだ。

「本丸や奥御殿みたいで壮大です。豪華絢爛な世界です」

六郎は、かつて名古屋にある本丸御殿を見たことがあるが、ここはそこと引けを取らない造りだった。

文子も、

「私も旦那と結婚式を挙げた式場に似ているわ」

「左様ですか、姉様、ここはもしかして、式場かもしれません。こんな素晴らしい所、桃源郷や極楽浄土のような世界が具現化されているのですから、ここは、本当にお殿様やお姫様のような方が座する場所かもしれないのなら、きっと、その様に祝い事をする場所だと思います」

文子と六郎は、豪華絢爛なこの世界の財宝にしばし、いや、完全に心を奪われてしまった。

この異世界は、彼らの世界にない、いや見つけることも作ることも出来ない魅力を秘めているのかも知れない。













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アクアポリスで逢いましょう。 古海 拓人 @koumitakuto1124

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