ツジギリーズ
@isiyeaaaaar
第1話 About A Boy
「一目見た時から好きでした!僕と付き合ってください!」
「え…無理です」
その日俺は20回目の失恋を果たした。雪がちらつくような真冬日にふさわしく、彼女の態度は冷たかった。
「そんな!どうか話だけでも……。そうだ一緒に食事でもどうですか?それからでも…」
「いやスイマセン…ホントに無理なんで、ついてこないでください!」
「そんな…待って!」
彼女が走り出し自分も後を追う。彼女に思いを伝えられず、ずっと後を追いかけやっとこの路地裏で思いを伝えられたのに、こんな振られ方はないだろう。せめてもっと話を聞いてくれれば、彼女も俺の気持ちに気付いてくれるだろう。
徐々に近くなる背中に、走りながら手を伸ばす。もう少しで届きそうだったその手は、彼女をよけて突っ込んできた車によってかき消された。
耳にブレーキ音が反響し、景色が宙にほどけだ。ごみのように転がる体に鈍い痛みが走る。
「キャー!」「だ、大丈夫か?」「違うんだあいつが飛び出してきて…」
意識が徐々に底に落ちていく。身体から流れる血の量に助からないことを確信した。飛び出した臓器や、ちぎれた筋肉などがなおさら雄弁に死を語っている。こうなるくらいなら最後くらい無理矢理にでも襲っておけば良かったのかもなと、煩悩にまみれたことを考えつつ、この21年の短く、どうでもいい人生に幕を閉じた。
「――――おい」
誰かの声が聞こえる。おかしい、あんな状態から助かるほど人間は強くできてないはずだ。というか生きてたらなおさら悲惨な体になっているんじゃないのか。身体をまさぐってみるが、術創どころか傷跡一つない。
「おい!起きろって言ってんだよ!」
わき腹を思いっきり蹴られた。体が宙に浮き、飛んでいく。……ちょっと飛びすぎじゃないか?
「ぐぅッ!」苦痛に顔がゆがむ。どうやら俺は飛んでいき、壁にぶつかって止まったようだ。元居た地点からは目測10m程度飛んでいた。
(あれが人間の力か!?)
痛む腹を押えつつ、眼前に敵を見据える。俺を蹴とばしたそいつの姿は、伸張170程度のカジュアルな服装をした男で、とても俺を蹴り飛ばせそうな膂力を供えてるようには見えなかった。ただ、顔には歪な顔を模した仮面と、手に身長ほどの長槍が握られていた。
「やっとお目覚めかよ糞坊主」
「お・・・お前は誰だ?というかここは?」
「黙れ。お前は今から俺の言うことだけを聞いてればいんだよ」
周りを見渡すと、ビルの狭間にある空き地にいることに気付いた。しかし、周りは廃墟のようにボロボロで、どのビルも見覚えが無かった。
「お前、仮面持ってんだろ?」男がゆっくり近づいてきながら訪ねてくる。確かにさっきからコートのポケットに何か入っているのを感じた。それより俺の勘がバシバシとこの状況を切り抜けなければヤバいと伝えてくる。
「お…おちつい…」目の前に槍が突きつけられる。槍先から濃い血の匂いが漂ってくる。
「付けろ!」男はイラついたように言い放つ。有無を言わさぬその雰囲気から、返答によっては本当に殺そうとしていることを感じさせた。
「…わかった」コートのポケットから仮面を取り出す。自分の仮面はつるんとしていて凹凸もないシンプルな仮面だった。
深くため息をつき、仮面を顔につける。絶体絶命な状況とは裏腹に不思議と興奮していた。今までのろくでもない人生にはなかった滾りが体を支配していた。日常と別れを告げ非日常に踏み出すために、俺は仮面を付けた。
ツジギリーズ @isiyeaaaaar
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。ツジギリーズの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます