第十二話 白百合と石合戦
前回のあらすじ
「そこ突っ込んじゃうんだ」という話題でまさかの一話使いきりである。
結局、なぜ石が現れるのか、なぜ同じ見た目の石なのか、納得できる説明はできそうにありませんでした。
ウルウとしても、そう言うものだから、という以上の説明は持ち合わせていないようでした。
「自分でやってるのにわからないんですか?」
「そういうのは製造者に問い合わせてほしいなあ」
正気をなくすかもしれないからおすすめしないけど、とはウルウの談です。
謎は解明できないまでも、とりあえずこの段階では石が出てくるというだけのことでしたので、私たちはこの問題を棚上げしてしまうことにしました。とにかく、石はそこにあるのです。石自体は特殊なものではないのです。となれば先程の一戦で見せた謎は、なぜ石が当たるのかという点に尽きるわけです。
とはいえ、石を拾うだけでここまで謎が溢れかえってしまって、しかも本人には説明できないのです。投げる方も同じことでしょう。
みんなが見守る中で、ウルウは石を一つ手に取りました。
「じゃあ、次ね。次行くからね」
「おう」
「お願いします」
「ちゃんと見てるわよ」
「じゃあ、こう……石を投げるね」
的となるようなものが何もない荒れ果てた前庭でしたので、しっかりと構えたツィニーコに向けて、ウルウが軽く石を放ります。
そしてそれは問題なくツィニーコの手の中に受け止められました。
いたって普通です。
何かおかしなことがあったようには見えません。
しかしツィニーコが動き回っているところを狙うと、話が変わってきました。
ウルウが石を放ります。するとツィニーコに当たります。
言葉で言えばこれだけのことなのですが、実際に目にすると何もかもおかしな光景でした。
「おまっ、おかしいだろいまのは!?」
「私投げただけなんだけど」
「だからおかしいんだろうがッ!?」
そう、ウルウは投げるだけなのです。
投擲の専門家であるトルンペートでなくても、素人の私から見てもしょぼい投げ方にもかかわらず、ウルウの投げる石は必ずツィニーコに届くのです。
物を遠くに投げるのって意外にコツがいるもので、ウルウみたいに肩を使わずに手首だけで放るような下投げで遠くまで届くわけないんですよ。
にもかかわらず、ツィニーコがどこでどう動いても当たりますし、なんなら後ろにいても当たります。
ウルウが立っていようが座っていようが、何なら横たわっていようが、ツィニーコを狙って投げると、必ずツィニーコに当たるのです。
しかもどんなに力が入っていないように見える投げ方でも、ウルウの手を離れた瞬間、決まった速度で飛び出して決まった威力でツィニーコに当たるのでした。これはツィニーコも認めるところでした。
試しに私やトルンペートが、同じ石を使ってツィニーコに投げつけてみても、当たるか当たらないかはその時次第です。ツィニーコが本気で避けたらまず当たりません。その威力もまちまちです。
なのにウルウが投げると、ツィニーコが止まっていようと動いていようと、当たる直前で避けようとしても、必ず同じ威力で命中するのでした。
「どうッいうッことだァァァアアアアッ!?」
「私が知りたい」
最終的にツィニーコは不貞腐れて地面を転げまわり、フォルノシードに回収されていました。
そうして暴れまわった結果、前庭の騒動を聞きつけた庭師のエシャフォドが途中で怒鳴り込んできてしまいました。あちこちに石を散らかすもので、最低限埋めるだけ埋めて心の傷をいやしていたエシャフォドが怒り心頭で、一人か二人殴り殺さねば収まりそうにないような具合でした。
私たちが何とかなだめになだめて、これこれこういう事情でしてと説明すると、エシャフォドはそんなわけあるかと一喝しました。私もそう思います。
仕方がないのでウルウが実演してみせると、エシャフォドはしばらく石を眺めて、怒りを納めてくれました。
「お前さん、同じ粒の石を大量生産できるんじゃな。玉砂利が欲しかったとこじゃ」
ウルウの労働が決定しました。
庭を荒らした罰として、ウルウはひたすらその場で石を拾い続け、私たちはその石を回収して袋詰めし、倉庫に収めていきました。連帯責任で全員やらされました。
私、一応この家の令嬢なんですけれど、むしろその分働かされた気がします。いやまあ、いままでのこと考えればこの中では私が一番庭壊してますし、なんならお父様がこの前壊滅させましたし、仕方ないかもしれません。
エシャフォドが満足するころには、ウルウは珍しくすっかり疲れ果てて、倒れ込んでしまいました、
「うう……《
「なんですかそれ」
「なんていうか、こう……頑張れる度的なやつ……」
「的なやつなんですね……」
休めば回復するみたいですけれど、それが切れちゃうともう何にもやる気が出ないらしいくらい疲れるみたいでした。ウルウがここまで消耗したのは初めてかもしれません。
仕方がないので屋形に運び込み、暖かな暖炉の傍でトルンペートが膝枕をしてあげることになりました。
「あたし二等に昇格したんだから、そのご褒美ね」
「ううん……? なんか逆じゃない?」
「いいのよ、これがあたしにはご褒美になるんだから」
「なんか悪いからお祝いは用意するけど」
「それはそれで貰うわ」
「そういうとこトルンペートって感じがする」
「いい女でしょ」
「ほんとに」
せっかくのご褒美なので、私は邪魔しないように庭に戻って、特等たちと遊ぶことにしました。今回私結構暇だったので、運動不足気味なのです。
まあ遊ぶと言っても、さすがに特等武装女中、普通に強いので遊んでもらってるって感じです。
ツィニーコは軽く組手してくれましたけれど、さすがに一日動きっぱなしで疲れたみたいで、すぐにフォルノシードと交代しました。
フォルノシードも気疲れしたとかで、小難しいことはせずに力比べの手押し相撲をしてみました。
ウルウに言わせるとフォルノシードは糸遣いの技巧派らしいんですけれど、さすが
四つ腕のうち二本だけで私と組んで押し合うわけですけれど、いやまったく、この私でも押し切れない相撲上手です。まあ
「……お嬢様とは普通の相撲は組みたくないですねえ」
「そうですか?」
「小さくて怪力って、結構怖いですよ」
そういうものなんでしょうか。
さて、それでアパーティオはというと、この人はまた立ったまま寝ていました。
「何かのご病気ですか?」
「んにゃ、
「冬眠してるのになんで来たんですか?」
「そりゃ、養成所のためさ。寝てるとは言え特等が一人でも残ってちゃ、留守番組も息抜きにならねえだろうさ」
ツィニーコがそう言うので部下思いなのだなあと感心していたら、当のアパーティオは寝ぼけ声でむにゃむにゃ言いました。
「……残ったら仕事全部任されそうだもん……」
ああ、そういう……。
用語解説
・庭師のエシャフォド
トチ狂った当主が帰ってきた嫁と喧嘩して三年がかりの庭に大穴ぶち開けて壊滅させやがり、ようやく穴埋めだけでも終わらせてみたところ武装女中の試験とかでど真ん中を爆破され、おちおち寝込んでもいられねえと思って顔を出してみたらどっから沸いたのか石を散らかされて脳の血管が何本かプッツン行きかけつつも、粒のそろった石を大量にしかもただで仕入れられるという思わぬ僥倖ににっこりしている、今後の災難をまだ知らない老庭師。
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