第十一話 鉄砲百合と石遊び

前回のあらすじ


ついに接触することになった、他の転生者。

果たして神々は何を望んでいるのか。






 ペルニオ様とウルウがようやく帰ってきてくれて、あたしは心底ほっとしたわ。

 二人が何の話をしてたのか、二人の間にどんな因縁があったのかって言うのは、ものすごく気になるは気になるんだけど、いまはそれどころじゃないのよ。


「もう遅いわよ。あーでも帰ってきてくれてほんとよかった!」

「ええ? なに? そんな喜ばれるとかえって怖いんだけど」


 素直に喜ぶということを知らないウルウは滅茶苦茶怪訝そうにしてたけど、まあ間違いないわ。

 あたしはさっきからツィニーコ様に絡まれて、リリオも同じようにフォルノシード様に捕まってて、そしてアパーティオ様は立ったまま寝てて、とにかくろくでもないのだ。


「おうおうおう! ようやく帰ってきやがッたな! お前よゥ、さっきのはなんなんだよオイ!」


 あたしに絡んでずっと質問攻めにしていたツィニーコ様が、ようやく離れてくれた。逃げようにもなにしろこの人の体術は滅茶苦茶に上手なので、出足から潰されるようにして一歩も逃がしてくれなかったのだ。

 あたしにしてやられたのはまあ策を練ってうまく仕込んでということで認めてくれたみたいなんだけど、ウルウにあっさりやられたのはどうにも納得できないし意味がわかんないってことで、あいつなんなんだよってずっとその繰り返しだった。


「なんなんだよって言われてもなあ……御覧の通りだけど」

「一切御覧の通りじゃねえんだよなア」

「ごく普通の旅人A」

「普通でもなけりゃ旅人でもねエ。オラさっさと吐け! さっきはなにしてくれやがッた!?」


 滅茶苦茶荒っぽい物言いだけど、顔は手品見た子供のそれよね。フォルノシード様はもうちょっとおとなしめの様子なので答えてもらえたんだけど、特等武装女中まで上り詰めると、なかなかしてやられることってなくて、しかも何をされたのかもわからないくらいってなると数えるほどもないらしくって、それが面白くて仕方がないみたい。

 ここで悔しがるだけじゃなくて面白がれるのが、強くなる秘訣なのかしら。


 飛び掛かって捕まえようとするツィニーコ様を、いつものぬぼーっとした調子でひょいひょい避けるウルウ。そしてそれさえも面白いらしくてますます盛り上がる特等方。


オレも選ばれし特等武装女中だ! その特等がああまであっさりやられッちまったんじゃあ面目が立たねェ! せめて手妻のタネくらいは吐いてもらうぜッ!」

「タネって言ってもなあ」


 まあ、そう言われてもウルウも困るわよね。

 本人曰く、この気持ち悪いよけ方は自動的らしくて、自分でもどうやってるのかわからないらしいから、説明もできないだろうし。

 まあお二人とも体術も凄まじい練度にあるから、ある程度まではどういう動きなのかって言うのはわかるらしいのよ。こうして避けられながらも、どうやって避けているのかって言うのはわかるみたい。ただ、これが続いていくと、なんでそう言う避け方をしたのかわからないのが多くなっていって、しまいにはどうして避けられるのかわからないけど運よく避けられたっていう事態に陥る。


 老獪な連中はこの動きを物理的に封じて詰めることが出来るんだけど、あたしには無理ね。このお二方ならできそうなんだけど、そこはそこ、ウルウもそう言う手合いにしてやられ続けてきたから、そういう事態になりそうだと思ったら、自分から滅茶苦茶な動きして、「運よく避ける」やつをするのよね。


 とはいえ、ずっとこの調子じゃ流石に可哀そうだ。面倒臭いって顔に書いてある。


「ほらウルウ。さっきもなんか妙なまじない使ったんでしょ。それ見せてあげたら?」

「あ、そうですよ! 遠くから一方的に攻撃してましたよね!」

「ああ……あれね。まあ、あれでいいなら」


 リリオがきゃいきゃい言うと、すぐに仕方ないなあって顔するんだから、まったく甘い。

 あたしが言ったからかもしれないけど、まあそこは主人を立ててあげるわ。

 どっちにしろウルウは多分甘いだろうし。


 ウルウが了承したので、まとわりついてたツィニーコ様もおとなしくなった。

 そこで、みんなで集まって、ウルウがさっきのまじないを見せることになった。

 この二人に百発百中で石を当てるなんて、いったいどんなまじないなんだろうか。

 あたしにも出来るんなら、是非教えてほしいけど。


「さっきの、ね。《石拾い》と《石投げ》」

「名前が雑なのですね」

「感性が死んでんのか?」

「私がつけたんじゃないったら」


 ウルウは衆人環視が落ち着かないらしく、もじもじとして、わざとらしく空ぜきなどして、それからおもむろに屈んだ。無意識に胸に目が行っちゃったけど仕方ないと思う。その姿勢はそうなると思う。


「まず石を拾うでしょ」


 うん、石を拾う……待って。


「ちょっと今あたし、よく見てなかったかもしんない」

「ええ?」

「あー……オレも見てなかったかもしんねェ」

「すみませんけれど、もう一度お願いできますか?」

「仕方ないなあ……」


 あたしひとり胸を見てたかと思えば、お二方もそう言いだす。

 いや、でもそう言うことじゃないだろうな。

 あたしだって胸に視線がいったからって言う問題じゃない。はずだ。

 今度こそ目をそらさずにあたしはウルウの手元を見る。


「まず石を拾うでしょ」

「待て待て待て」

「いますこし……ゆっくりお願いします」

「ええ……?」


 違うの。違うのよ。別に屈みこむときの胸とか太ももとか、髪をかき上げる仕草とかに目が行っちゃってるわけじゃないの。そういうことじゃないの。言い訳じゃないのよこれほんとに。


「だからー、こうやって、」


 ウルウが屈みこむ。


「こうして、」


 指先が雪面に伸びる。


「まず石を拾うでしょ」


 指先に石がある。


「!?」

「いやいやいやいやいや!?」

「なにさもう……次行っていい?」

「待って待って待って、なんか納得いかないそれ!」

「ええ……?」


 視線が集まって居心地の悪そうなウルウ。

 注目されてさらにもじもじするウルウ。

 かわいい。

 じゃなくって!


「もう一回もう一回!」

「何回やっても同じだよ……」

「同じだから変なんだろが!」


 ウルウがよいしょってかがむ。かわいい。

 片手で髪をかき上げながら、もう片手を雪面にのばす。かわいい。

 そして石を拾う。かわいい。

 かわいいけど、違うそうじゃない。


「おかしいだろ!? なんかおかしいだろそれ!?」

「なんかってなにさ?」

「いやだって……なあ!?」


 ツィニーコ様の物言いはめちゃくちゃだけど、言いたいことはものすごくよくわかる。

 ウルウはまず石拾うでしょって気軽に言うけど、これ、見てよ、この、雪原。土混じりで、荒れちゃってるけど、この前庭、雪で覆われてんのよ。


「だーかーらー、まず石拾うでしょ」

「どこから!?」

「どこから出たのよその石!?」

「何言ってるのかわかんない」

「なんでわかんねーんだよッ!?」


 ウルウが石を拾う。ヤジ入れられて石を捨てる。ウルウがまた石を拾う。また物言いがついてまた捨てる。ウルウがさらに石を拾う。それも意味わかんないのでまた石を捨てる。

 拾っては捨てて、捨てては拾って、それが繰り返されて、捨てられた石が積まれていく。そりゃ、拾って、捨てて、新しいのを拾って、捨ててって繰り返しているんだから、理屈としてはそうなる。でもその理屈は現実とうまくかみ合わない。

 気づけばあたしたちの前に、どこから湧いたかわからない石の小山ができていた。


 ウルウがその石の小山に腰掛けて休んでいる間に、あたしたちは石を拾って検分する。


「……まあ、普通の石、だよな」

「そう、ですね……割ってみても、ただの石のようですね」

「うーん……投げた感じも、ただの石よね。避けられないわけないわよね……」

「味も見ておきましょう」

「リリオ、お腹壊すわよ」

「冗談ですよう……というか噛み砕けることは疑わないんですね……」


 あたしたちが首を傾げていると、眠っているとばかり思っていたアパーティオ様がのっそりとやってきて、おもむろに石を二つ取り上げて、目の高さに持ち上げて眺めた。


「……おんなじ」

「へ?」

「おんなじ石です」


 そりゃあ、そうだろう。石だし。

 そこらへんに落ちてるような、いわゆる石って言う石で……いやまて。

 あたしたちは慌てて石を並べて、見比べてみた。

 それは色も形も大きさも、まったく同じように見えた。


 ペルニオ様が片手に一つずつ持ち上げて、ぽつりと仰る。


「ミリグラム単位で、同じ重量ですね」


 同じ石が、小山になっていた。






用語解説


・おんなじ石

 《石拾い》はどんな場所でも《石》を拾えるが、この《石》はゲーム内アイテムである。

 ゲーム内アイテムは、同種のものであれば全く同じ情報を参照している。

 手抜きといえば手抜きだが、ゲーム内では当然の仕様である。

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