第10話 亡霊と鉄砲瓜
前回のあらすじ
一番リリオ、地雷原に飛び込みます。
固定砲台の群れこと
「いいですよお嬢様ー。その調子で突っ切ってくださーい」
「あわわわわわわわッ! 死ぬッ! これ死にますッて!」
「大丈夫ですよー、お嬢様の魔力量なら加護が尽きる前に片付きますからー」
「加護が尽きる前に心が死にますッ!」
振動に反応して銃弾みたいな種を射出してくる
当然踏み行った先で次々に種が射出されていくのだけれど、リリオの鎧に付与されている矢避けの加護とやらのおかげで、種はリリオに当たる直前で見えない膜にでもふれたようにそれていき、地面や明後日の方向に飛んでいく。
まあ、当たらないとわかっていても次々と炸裂音とともにとげとげした凶悪な種が飛んでくるのは心臓にわるかろう。とはいえリリオにしかできないことなので私にはこうしておやつ食べながら応援することしかできない。
「うる、ウルウッ! あとでおぼえっ、あッ、ちょまっ、あばばばばばばッ!」
どうやらすっころんだらしく、激しく前転しながら
そんなアクシデントが何回かあったものの、リリオは無事に畑の中を走り回り、
もちろん、あんまり大きな音を立てたらわからないが。
ぐったりと倒れこんだリリオに、種を射出してしおれてしまった瓜の実を与えてやると、倒れたままもそもそと食べるが、あまり美味しそうではない。
甘いは甘いようだが、射出するのに水分をすっかり吐き出してしまう上、炸裂する成分が実全体に広がってしまって、なんだか渋みとえぐみがあるらしい。
さて、ここから先は私とトルンペートの仕事だ。
トルンペートは実に洗練された仕事ぶりだった。庭師の仕事も武装女中には叩き込まれるのかもしれない。剪定鋏のようなものを手に、するりするりと体重を感じさせない足さばきで
緊張はしているようだが、その手つきはまるで怯えを感じさせず、確信をもって仕事しているようだった。
見事なもんだなあと思って眺めていたら睨まれたので、私も仕事を開始する。
とはいえ私の方は緊張することもない。
何しろ《
ゲームの仕様上囲まれると回避率は駄々下がりするし、範囲攻撃は避けられないけれど、少なくとも単発の植物の種位なら避けられない訳もない。
必然レベルで避けられない、例えば押さえつけられた状態で殴られるとか、完全に体勢が崩れた状態で攻撃を喰らうとかはどうしようもないけれど、
なので気楽にぷちぷちと実をもいでいると、何やら視線を感じる。ふりむけばトルンペートが目を剥いてこちらを見ている。そう言えば一応パーティとして認識しているから、《
見えると言えばパーティ認定しているならステータスが見えるなと思って、トルンペートのステータスを覗いてみて、今度はこっちが目を剥いた。
以前リリオの数値を見た時はレベル三十八だった。その後の戦闘とかで三十九に上がっていたけど。
他の人間は数値は見えないまでもそこまで強いようにも感じられず、辺境の人間が特に強いものだと思っていたが、トルンペートの数値を見れば、なんとレベル五十二。
三等武装女中でレベル五十二。二等とか一等はどういうレベルなのだ。戦闘を専門にしている騎士とかはどうなるのだ。
レベルが十違えば相手にならないといわれるくらいだからまだまだ私のところには届かないけれど、しかし私にはプレイヤースキルがない。へたすればこのくらいの相手にもぼこぼこにされかねない。
異世界チートするにはちょっと油断できないレベルがゴロゴロいるらしい。少なくとも、辺境には。最近調子に乗っていたかもしれないと私は気を引き締め、せっせと瓜集めに精を出すのだった。
結果として、うっかりくしゃみしてしまったり、つまずいてぶつかってしまったりなどで何回かの暴発はあったものの、私たちは無事、結構な量の
品質や熟れ具合にもよるけれど一個で
これはトルンペートに言わせれば快挙と言える量だ。
私たちは折角なので、その場で一つずつ食べてしまうことにした。何しろこれだけあるのだ、食べないで済ませるというのは冒険屋のやり方ではない、とリリオが主張したのである。食い意地が張っているとは思ったが、なるほど冒険屋の流儀と言えば確かにそうだ。たとえこれが一人一個ずつしか手に入らなかったとしても、冒険屋なら余程金に困っていなければ食べてしまうだろう。
瓜の仲間と言うからメロンのようなものを想像していたのだが、まずそのようなものと思って間違いはない。サイズはまあ拳を四つか五つ重ねたくらいで、青々とした緑の表面はつるりとしている。
分厚く丈夫な皮にナイフの刃を立ててみると、ぶつりぶつりと厚手の革のような皮が割れていき、半ばほどまで切り込みを入れたところで指を入れて左右に割ってみると、ばりばりと裂けてみずみずしい身が姿を見せる。
中身は鮮やかなオレンジ色で、指先がたっぷりと濡れるほどに水気があふれている。そしてまた、その甘い匂いと言うのが凄まじく濃厚だった。
種を射出するときの匂いも大概甘いのだが、あれは少し、焦げ臭い。
しかし種を射出する前は、その炸裂する成分が化学反応だか魔術反応だかを起こしていないようで、とにかくただ甘い香りがする。煮詰めたような甘い香りだ。
リリオはかぶりつき、私とトルンペートはスプーンで頂いた。
スプーンは驚くほど柔らかい果実にするりと突き刺さり、その柔らかさたるやまるで寒天か何かのようだった。フルフルと柔らかいそれを口に放り込むと、猛烈に甘い。猛烈に甘いのだが、それがするりと溶けていく。甘さも溶けていくし、果実も溶けていく。
気づけばするんと喉の奥に消え去ってしまって、舌の上にはあの猛烈な甘さはなく、ただ甘い香りだけがふわりと残っている。
こらえきれずまた一匙、もう一匙とやっているうちに、あっという間に皮の白いところまでスプーンで削っている始末で、これは成程高値で売れるわけだった。
私は一つで満足してしまったが、女子二人は物足りなそうだったので、四十一個では三人で割るには中途半端だということで、残り二つ減らしてしまうのはどうだろうかと提案したところ、極めて合理的だという理性的判断のもとにもう二つが彼女たちの胃袋に納められ、私たちは無事三十九個の
最後の一仕事とばかりに、私たちは気だるい満足感に足を重たく感じながらも、延焼を防ぐために下生えを刈り取り、種を集めてひとところに集め、着火してその全てを焼き払った。
用語解説
・極めて合理的だという理性的判断/極めて合理的な数学的判断
物は言いよう。
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