君と出会う為に
それから“開かずの扉”が相談室である事を知る。
相談室。クラスに馴染めない、いじめを受けている、不登校さまざまな悩みを抱えた人が来る場所。基本的には昼休みと放課後は誰でも利用できるように解放されているが、誰か相談に来れば扉は閉ざされる。
「だから“開かずの扉”か…」
一人で納得してしまった。
そして、僕は“彼女に逢いに”相談室へと足を運ぶのが日課となっていた。
クラスメイトなのだから教室でいつでも会える。だけど、ここにいる彼女に逢いたくて来てしまう。だって…
「野田さんはそのゲームが得意なのね」
「うん。桃ね、お兄ちゃんと対戦して負けた事ないんだ」
相談員の樋口さんと野田さんが楽しそうにゲームの話をしているのを僕は長椅子に座って眺めている。
2人は僕が初めて来た時と同じ椅子に座っている。
彼女は、ここに来ると良く笑う。その笑顔にきゅんとなってしまう辺り、「本当に恋してしまったのだなぁ」と感じる。
彼女と一緒にいる時間は増えた。でも、会話はそんなに増えていない。
野田さんと樋口さん、樋口さんと僕で話す事が多かった。
話しかけたいけど、話しかけられなかった。
ここに来れば教室の時よりは話しかけやすいと思って来ているのにこの始末だ。
ある日。いつものように昼休みを共に相談室で過ごしていると、チャイムのベルが鳴り響く。次の時間の予鈴だ。
「体育か…嫌だなぁ。はぁ…」
元々、体育は好きではない僕からしたら憂鬱な時間だ。
「頑張ってきてね」
樋口さんは優しく送り出してくれた。
「…いってきます」
そう言うと野田さんは小走りで僕の隣を歩く。
向かう先は同じなのだから当たり前なのだが、2人で向かう。
「……」
「……」
会話がない…。何やってんだよ。僕は…と思っていると
遠く後ろから走ってくる足音と煩い数人の男共の声が聞こえてきた。
だいたい、予想はつく。岩倉等のグループだ。
どんなスポーツも出来て、発言力もある。僕からしたら頭はバカだろうと思うが、それでもクラスではリーダーシップ的なのが腹が立つ。
「おー、ラブラブですか~」
「夫婦かよ(笑)」
擦れ違い様にからかう様に言ってきた。いつもの事だ。本当にくだらない事ばかりしてくるなぁと思う。思うが、何故だか、嬉しく思ってしまった。
彼女…野田さんの方はと言うと気に留めていない様子だった。
そのまま体育館に着き、だるい体育の授業が始まる。
樹華 テイル @teiru5
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