第2話 暗闇の中の絶望

「では、授業を始めるよぉ」


「さ、さっきの金髪の……」


「おや?成瀬さんじゃないですか!

どうしたんですか?」


「いや、運転手もやって先生をやるって……、すごいなって……」


「それはそれは……お褒めに預かり光栄です」


金髪の青年はお辞儀をして笑う。


「さて、3人も新入生がいることですし、自己紹介をさせてもらうね」


青年は教室にある黒板に名前らしきものを書いていく。


「はい、僕は金元かねもと……名前は秘密だよ♪年齢は38だったかな?」


「さ、さんじゅうはち!?」


見た目年齢より圧倒的に高い実年齢を聞いて成瀬は思わず大きな声を出してしまう。


「……うるさいよ?」


「す、すみません……」


隣に座る黒鬼くんに注意されて俯く。


「じゃあ授業を進めるね!」


「あ、あれ?教科書は?」


「何言ってるんだい?成瀬さんは……

教科書なんて必要ないじゃない?

だって……」


金元は拳銃を取り出して成瀬に向ける。


「え?」


「人の殺し方を学ぶだけだからね」


「な、な……」


「大丈夫、銃弾は6分の1の確率で出るだけ、君が当たる確率は少ないから……」


確かに6分の1なら出る確率は低い……

だが、そんなことは関係ない。

銃口を向けられていることすら、ぶっ飛んでいるのだから……


「さぁ、君は当たるかな?」


「ちょ、ま、まっ――――――」


「発射♪」


カチッ


「あれ?ハズレだね」


「…………」


ハズレだったからよかったものの、実弾が出ていたら……


「……なんてね」


金元は銃の装填口を開いて振る。

だが、銃弾は落ちてこない。

そして、そこには何も入っていなかった……


「始めっから銃弾なんて入ってないよ?

さすがに初日から生徒被験者を殺したら問題になっちゃうからね……」


金元は銃を投げ捨てて言う。


「ちゃんと被験者同士で殺しあってもらわなきゃね?」


「……え?」


殺し合い……その言葉に頭が追いつかない。


「成瀬さん、君にはまだ、殺す覚悟がないみたいだね……?

ま、いつかは狂ってもらうけど……ね?」


金元の目は狂ったそれだった。

殺しを楽しんでいる狂人の眼だ。


「な、なんでそんなこと……」


「君たちには生きる価値がないからさ」


「……へ?」


「君たちはね、全員、両親から見捨てられたんだ!そうでなくちゃここには来れない……」


金元は見下すような目で……

いや、実際に教壇の上から見下して言った。


「帰る場所もない、ゴミ共が……

どうなろうと外の奴らは関心なんて持たない……、なら、せめて国のために働けよ!」


「す、捨てられた……」


金元の放った言葉は弾丸のように成瀬に集中攻撃する。


「さ、少しは……殺す気になった?」


ニヤリと笑う顔はさっきも見た……

黒鬼くんのと同じだった。


「……出来るわけない」


「へぇ〜、じゃあこれを聞いても出来ないのかな?」


「……?」


「月に一回、誰かと殺し合いコロシアムをやってもらうんだけど?」


「……こ、殺し合い……コロシアム?」


「ああ!ランダムで選ばれた生徒はランダムな敵と殺しあってもらう!死んだ方はめでたく人生卒業、同時に廃棄されるよ」


「そ、それって……」


「そう、君は必ず殺しをしなければならない」


金元の顔全部が悪魔のようだった。

いや、ほかの生徒達もだ……

弱いやつが来たと笑っている……


「そ、そんな…………」


「君はどちらかを諦めなくちゃいけないんだよ……『綺麗な自分』か、もしくは『生きている自分』を……ね?」


殺すか死ぬか……どちらかを選べと、直球で言われている気がした。


「…………」


「あれ?絶望しちゃった?

まぁ、いっか!じゃあ授業を始めようか」


授業では銃の握り方、打ち方、扱い方を学んだらしいが成瀬にそれを聞く余裕なんてない。


狂った世界の狂った授業……、恐怖と絶望から言葉さえ出ない。


「おい……おい!」


「え?」


「授業、終わったぞ?」


気がつくと目の前には黒鬼……いや、赤城くんがいた。


「ほら、行くぞ」


「え?どこに?」


「決まってるだろ……宿舎だよ」


「宿舎?」


赤城に手を引かれて学校から少し離れた大きな建物に入る。


「お前の部屋に行って準備してこい」


「私の部屋?」


「……ったく、お前、なんも聞いてなかったのかよ……お前は302の部屋だ!俺はその隣だ」


「えっ!男女別じゃ……」


「当たり前だろ?殺しの前に男と女なんて関係ねぇ」


鍵を受け取って階段を上がる。

部屋は3階の端から二つ目だった。


「じゃあ、すぐに俺の部屋に来い」


「え?あ、分かった……」


事情も聞かされぬまま勝手に約束されてしまった……


成瀬は部屋に荷物を置いてすぐに303に向かう。


コンコン


「あ、赤城くん?」


「開いてる、入って!」


「う、うん……」


成瀬はゆっくりとドアを開けて中に入る。


(…………暗い)


電気は何故かついていない。


「ど、どこ?黒鬼くん?赤城くん?」


ドアを閉めて奥に進む。

暗くて足元がよく見えない。


作りは成瀬のと同じようで奥にひとつの部屋があって他にはトイレだけだ。

風呂は共同のようだ……


「ねぇ、いないの?」


と、その時、後ろで足音がした。


「? だ、だ――――――っきゃっ!」


振り向きざまになにかに押し倒される。

腕を動けないように押さえつけられてしまった。


(こ、殺される!?)


抵抗しようとしたが成瀬の力ではビクともしない。


だんだんと暗闇に目が慣れて、何者かの正体がわかった。


「あ、赤城くん!?」


「くく、せーかい」


「な、何でこんなこと……離して!」


「おい、暴れんなよ」


目はよく見えないけれど声は明らかに冷たかった。


「暗い部屋で男女が二人きり、男が女を押し倒す……女子高生ならこの先、分かるよな?」


嫌でもわかってしまう。


「嫌!やめて!離してよ!」


「それ以上暴れたら殺すぞ?」


赤城は本気のようで近くには銃が置いてある。


「ひぐっ!」


突然首を絞められて息ができなくなる。


「あが……は……」


「安心しろ、気持ちよくしてやるからよ……」


「……!?」


ギリギリで首から離した赤城の手は今度は成瀬の口を覆う。


必死に首を振る成瀬……


だが、ついには縄で手を縛られてしまう。


「抵抗出来ない気分はどうだ?」


赤城は一瞬、口から手を離す。


「ふぐっ!……し、信じてたのに……」


何故か涙が出てくる。


「信じたのはお前の勝手だろ?

俺はお前を信じてなんかいねぇよ」


成瀬の服に手を伸ばす赤城。


「や、やぁ!やめて!こんなの……イヤ!」


必死の抵抗も虚しく赤城は成瀬のスカートを脱がせる。


「……白か、お子様だな」


「ひぐっ……酷いよ……こんな……」


涙がとめどなく流れてくる。


「あっ……や、やめ―――――!?」


赤城の指が成瀬の女らしい体を這う。


「だ、だめだって……ば……」


ついにはシャツに手をかけて一気に破る。


「へ?な、そんな……」


「あ?お前に拒否権はねぇって、まだ気づかねぇのか?」


赤城は成瀬の体を舐めるように眺めて、今度は肩から腰へ指を這わせる。


「い、あ……あっ……や、や……」


成瀬の体が時々、ビクリと跳ねる。


「じゃあ、お前の綺麗な体、汚してやるよ」


「え?そ、それだけは……」


赤城は成瀬の下半身に手を伸ばす。


「だ、だ、だ……」


「あ?」


その瞬間、成瀬は腕を縛っていた縄を解いて拳銃を拾って部屋の隅に逃げる。


「はぁ……はぁ……」


「お前、どうやって……」


拳銃はしっかりと赤城に向けられている。


「なんで私を襲ったの?」


「……言わなきゃダメか?」


「言って!」


「……お前を試しただけだ」


「そんなの信じられるわけないでしょ!?」


「なら、俺がお前に何か危害を加えたか?」


「……服を破られて……」


赤城は近くにあった袋を掴んで成瀬に投げる。


中身は破られたのと同じ服だった。


「本気で襲う奴がこんな準備すると思うか?」


「…………」


「でも、おかげでお前の本気がわかったぞ」


「……本気?」


「あぁ、お前、縄をどうやって解いた?」


「え?あ……あれ?」


「分からないだろ?お前はそれだけ無意識に自己防衛に走ったってことだ、お前の真の力だ」


「……そんな」


「今のお前なら、自己防衛で人でも殺しちまいそうな勢いだな」


「そ、そんなこと……」


「ないっていうならその銃をおろせよ」


成瀬は今更自分がまだ銃を構えていることに気づく。


「ま、そんな持ち方じゃ、俺は殺せねぇがな……」


「……あなたのこと、信用出来なくなりました」


「それでいい……、俺だっていつお前と殺し合わされるか分からねぇからな、

あんまり仲良しごっこはしてられねぇよ」


「…………」


成瀬は服とスカートを掴んで何も言わずに部屋を出ていった。


隣だったから誰にも見られなかったが、初めて男の子に襲われたという恐怖心と抵抗さえできなかった自分の弱さにその日は部屋で、破られた服を握り締めて震えていた。

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