第10話 神父の祝福

薄れ行く意識の中、何度も確認した。

が、おれの斬撃はやつに傷一つ付けれてなかった。


くそっ。


「カイト!」

「カイトォォォォォ!」


倒れるからだをアリアとデネブに受け止められる。

こいつら…。

すぐ後ろに…。

死に際なのに、思わず笑いがこぼれる。


ついて来てやがった。


それだけ確認すれば満足だった。


次第に目の前が明るくなった。



やがて真っ白になり、平衡感覚を失った。








「カイト!しっかりして!」


「カイトォォォ」


「むにゃあ?人間って馬鹿だにゃ。ぼくの力量が分からにゃいなんて。」


「ゆ、勇者だ。彼こそ勇者だ!見ず知らずの私を、命を賭けて救ってくれた!!!神よ!死におびえていた私を許してください!もう私に怖いものはありません!」




ガバッ


「カイト?」

「カ、カイトが生き返っただ!!!」

「違うよ。ぼくは天使だ。あーあ。せっかく約束通りカイトの身体からだを手に入れたのに…。こりゃ返すしかないな。神様との約束が最優先だからね。」


「にゃ?ぼくの攻撃を受けて死にゃにゃい。お前何者だにゃ?」


「あれ?さっき聞かなかったの?カイトの死にぎわの魂の叫びだったのに…。まったく。人の話を聞かないやつは、こうだ!」


ドッゴォォォォ


カイトの身体からだを使った、天使の渾身の一撃が悪魔を打った。


「にょあぁぁぁぁ…!」



「す、すごい。」

「あ、悪魔が吹っ飛んでいっただ…。」

「油断は禁物だよ。あいつの力はこんなもんじゃない。ぼくごときじゃ、あいつは倒せないよ。」

「でもすごいだ!?さすがカイトだ!」

「もう!ぼくは天使だってば!」

「…?カイトは天使でもあっただか?」

「はぁ。」

「て、天使さん。カイトは?カイトは死んじゃったの?」

「ううん。本当なら死んでたけど死に際に、身体からだの所有権がぼくに移ったの。だからぼくが勝手にいじってる。ぼくの魂の強さだと、あれぐらいの傷なら治せるみたいだね。ほら!」

そう言って傷があった箇所を見せる。

「き、傷がなくなってる…。」

「あ!こんなこと言ってる場合じゃない!神父さん!!!今からカイトにこの身体からだを返すから今日中にカイトに祝福を与えてね!でないとぼく、神様に顔向けできないから!」


「も、もちろんだ。願ってもないことだ。」


「じゃあよろしく!」



フッ




















重い。

身体からだってこんなに重かったのか。


『次死ぬ時は、今度こそ君の身体をもらうからね。』


おれが死ぬとでも思っているのか?


『ふふふ。変わらないね。』







遠くから鬼の形相で悪魔が向かってくるのが見える。


「カイト!」

「カイトォ!」


アリアとデネブはもう準備できていた。


デネブのやつめ、さっきまで寝ぼけていたくせに…。


神父は何やら祈っていた。


やるか。


選別の剣を探す。




あれ?




すでに持っていることに気づかなかった。


まるで身体の一部であるかのようだ。







いつのまにか目の前にまで悪魔が迫り、鎌を振りかざしている



からそれを剣で受ける。



ガキィィィィン



鎌と剣がぶつかり合う



グググ



力と力の押し合いから敵の力量がより分かる。


こいつおれより遥かに強え。



ズズズ



どうしようもない力に身体が押される。


おれの身体は天使に使われたせいか、とんでもない経験値を積んでいた。

それでもこいつにはかなわない。

数字で表すとしたら、おれが19でこいつは42くらいだろうか。



ズッ



押される身体が止まる。

アリアとデネブに背中を押された。


カイト!あと少し頑張って!


カイトはこんなやつに負けないだ!おら知ってるだ!


おいおい。ここまできたら分かるだろ?

もう限界だって。


大丈夫!!!行けるから!!!


そうだ!おらたちもいるだから!!!


勝手なことを。






「神よ。


愚かな私の身体で良ければ

どうか受け取ってください。


勇者カイトに祝福を!!!」



そう言い終えると神父は力尽きた。





グググ





あ!





天からの光が、おれに降り注ぐ。





神父の言葉が聞こえる。





『勇者カイト。こんな私のために、ありがとう。』


何勘違いしてやがる!


おれはおれのためにしたんだ。


お前に感謝される筋合いはない!


勝手な真似はするな!


『私も私のためにしたことだ。どうか最高の祝福を与えさせてくれ。』


バカヤロウ。


『私は今、人生で一番大きな仕事ができた。』


バカヤロウが。


『勇者カイトに神の御加護があらんことを。』

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