第9話 おれの証明

「あーーーーーーもうっ!」

天使が頭を抱え、不満を漏らす。

「二人とも子供!こっちは今日中って言われてるんだからはやく済ましてよ!」

天使の言葉で一つの疑問が浮かぶ。


なぜそんなに今日にこだわる?


そもそも神が天使まで送って祝福を与えようとするのは不自然だ。

今までの冒険でそんなことは初めて…



キィィイッッッィィィン



耳障みみざわりな音が街に響き渡り、思わず耳を塞いだ。


音の鳴る方を向く。


「あれは…!」


街の中央付近の上空が歪み、空にポッカリと黒い穴が空いている。

間違いない。次元の裂け目だ。


「うわっ!もうそんな時間?あれ?まだ23時…。なんでだ?」

天使は慌てふためきながらも何か知っていそうな言動だった。

「どういうことだ!?」

一連の出来事の状況をつかもうと天使に聞く。

しかし次の瞬間には興味をなくした。

それは上空の穴に奪われた。

次元の裂け目から何かが出た。

すぐに穴は消える。


「次元の裂け目は明日の午前2時22分から12秒間この街に現れる予定だったんだ!だから神様は今日中に君に祝福を与えたかったんだよ!」


横で天使が何か言っているがどうでもいい。

穴があった場所からこちらに向かって何かが来ているからだ。


「アリア!デネブ!準備!!!」


「うん!」

アリアは準備完了していた。

「!?」

デネブは寝起きで理解できていないが起きただけマシだ。

神父は腰を抜かしていた。



おれたちの前にフワリと悪魔が降り立つ。

穏やかそうな表情と猫のように鋭い目。手には大鎌を持ち、時折それをもてあそぶ。

退治しただけで分かるどうしようもない力の差。


「むにゃー?なーんで神父の野郎がこんな時間にこんなところにいるんにゃ?」


その言葉に天使が反応する。

「あ!そうか!ぼくが神父さんの祈祷を邪魔してここに呼んだからこの街の神の加護が弱まって予定より早く次元の裂け目が現れたんだ!やばっ!!」


天使が悪魔に聞こえないように小声で独り言を言う。


「子供3人に神父に田舎臭いおっさん…。なーんか妙な集団だにゃあ。」

悪魔はおれらを見渡して言った。

そしておれの剣に注目した。


「ん?それは選別の剣かにゃ?もしかしておまえ…勇者か?」


動かない自分の口に、驚く。


おれは勇者だ。


その言葉が揺らぐ。


おれは勇者なのか?


この世界に平和をもたらせるのか?


この街を守れるのか?


今こいつから…


無理だ。


「…。」


「こんな弱っちそうな奴が勇者なわけにゃいか。」


「!」


「この街の人間は皆、魔王様の奴隷として連行するにゃ。そこの神父以外は。」

悪魔が神父の前に行く。

「おまえらのせいで侵略に手間がかかるんだ!」

悪魔が神父に鎌を振りかざした。

「ひ、ひぃぃ!」



ザンッ



鎌がおれのからだを切り裂いた。



ガクッ



遠のく意識の中、最後の力を振り絞り、全霊の一撃を加える。




「おれは勇者だ!バカヤロー!!!」

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