第6話 出発

神父の証明があったというのに村人どもはよそよそしかった。

武具、道具屋のやつらもおれを無視する始末だ。

勇者であるおれと取引できることが、いや話しかけられることが、どれほど光栄なことかが分からないようだ。


「おーいデネブ!お前いつからガキのお守りになったんだ?」

「……。」


デネブにも被害が及んだ。

おれと一緒にいるせいだ。

だからと言って全く哀れむ気持ちは湧かないぞ。

デネブはアリアを突き飛ばしたからな。


デネブはすぐに抜けるだろう。

鈍臭どんくさいし、根性がなさそうだ。

それまでの短い間、罪滅つみほろぼしとして精一杯働いてもらおう。



もうこの村ですることはない。


いよいよ出発だ。


家を出ようとすると母に引き止められた。

「あと少しいなさいよ。もうすぐお父さんが帰ってくる時期だから。」

「時は来たのだ。それは選ぶものではない。訪れるものなのだ。」

「…行くってことね?」

「いずれおとずれる英雄の凱旋がいせんに備えることだ。」

「カイト。その偉そうな態度やめなさい。」

「ふん。おれへの口答え、もはや無礼とは思わん。むしろ無知をあわれむぞ。」


母はおれを理解してくれると期待したのだがな。


家を出ようとすると、母がおれの巾着袋きんちゃくぶくろに何かを入れた。


「こんなものしか無くてごめんね。」


中にはおれの50Gと傷薬が入っていた。


「ふん。村の奴らよりはましだな。」


「頑張るのよ。信じてるから。」






村の入り口に行くとデネブとアリアが待っていた。

「カイト!」

デネブがおれを見つけるなり、嬉しそうに駆け寄ってくる。

「まだおれについてくるのか?」

「?当たり前だ。勇者のパーティーに入って、世界に平和をもたらすだ。」

「ほう。」


こいつは思ったより骨があるかもしれない。


「そして、ぴちぴちでぷりぷりのお嫁さんをもらうだ。」


……。


「おいアリア。なんだその格好は?」


一丁前に旅の準備をしてやがる。

手にはフライパン…。

なめているとしか思えない。


「わ、わたしもカイトと一緒に行こうかな!なんて思ってみたり…。」

「お前は足手まといだ。今すぐ家に帰れ。」

「でもわたし鍛えてるんだよ!昨日も近くの森で魔獣5匹倒したもん!」

「それがどうした。」

「も、もしかしたら、カイトより強いかもよ?」

「それは聞き捨てならんな。よしならばおれに一発でもそのフライパンをくれれば連れて行ってやる。」

「いいの?」

「早く済ませるぞ。」



パコーン



「カイト!大丈夫?」

目がくらみ膝をつくおれにアリアが駆け寄る。

「アリアの実力は分かった。好きにしろ。」

頭痛に耐えながらも頑張ってそれだけは言った。











おれは世界に平和をもたらす勇者カイト。

いくつもの世界を救った。

今回で8回目だが、いまだ予想外の出来事は多い。

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