第5話 デネブ
おれは許せないことがある。
この世界に来てそれが多すぎる。
その中でも一番許せないことは…
ドンドンドン
怒りから、ついドアをノックする手に力が入る。
ドアが開いた。
「な、なんだよカイトかよ。びっくりさせるなよなぁ。」
こいつはデネブ。
どこにでもいるであろうただの村人だ。
「お前は、昨日、自分が何をしたか覚えているか?」
「うーん。村のみんなと、カイトを縛り上げたことか?もういいじゃねーか。それに、あれは村長が言ったことだ。おらは悪くないだ。」
「それも許せないが、もっと許せないことがある。」
「…?」
「お前はアリアを泣かせた。おれは見ていたぞ。」
「そ、そんなの知るか!あいつが邪魔だからいけないだ。てかお前らガキのくせにデキてたのか?」
「そうだ。アリアはおれの女だ。2度と触れるな。そして、お前はまだおれが誰だか分からないようだな。いいかおれは勇者だぞ。」
「…ほ、本当にそうなのか?」
「そうだと言っているんだ。だから無礼の無いように気をつけて話すことだ。」
「で、でもよう…。」
おれの身に着けている選別の剣をちらりと見て続ける。
「確かに選別の剣は抜いたけど…。まだお前のこと悪魔に憑かれた少年って言ってる人もいるし…。それにやっぱりお前変わっただ。」
ここまで言っても信じないとは…
「もういい。アリアにしたこと、おれにしたこと、謝るのか?謝らないのか?」
デネブを突き放すように言う。
「…わ…分かった分かった。謝ればいいんだろ?悪かった。この通りだ。」
慌てふためき、手を合わせて懇願された。
「ならばチャンスをやる。今日からおれのしもべとしておれに尽くせ。」
「はぁ?」
「来るのか?来ないのか?」
「……そ、そんな、いきなり言われても…。」
デネブは少し考え込む。
「…カイトは勇者なのか?」
「そうだと言っているだろう。」
「ってことはおらは勇者のパーティーに入るってことだよな?」
「違う。勇者のしもべだ。」
「そ、そんなぁ。」
「図々しいやつだ。身の程をわきまえてからものを言え。」
「じゃ、じゃあさ、おら頑張るからさ。そしたらパーティーに入れてくれるか?」
「考えておこう。」
「へへへ。じゃあ頑張るぞ。それにしても、カイトが勇者だとはなぁ。」
まじまじと顔を見られる。
「そう言われれば、確かにカイトには一目置いてたんだ。」
デネブが頷きながら言う。
ほぅ。
このおれに一目置いていたとは…
中々見る目があるようだ。
「あ、あのさぁ」
デネブが言いづらそうに言う。
「なんだ?」
「勇者のパーティーに入ったら、誰かお嫁さんに来てくれるかなぁ。」
「当たり前だろう。」
「お、おれみたいな30代のおっさんでもか?」
「ああ。」
「ほ、本当か?ぴちぴちでぷりぷりか?」
「お前が望めばな。」
「へへへ。」
それからしばらくの間、後ろからデネブの浮かれ笑いを聞かされることになった。
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