伝説の地 ゴイサ
伝説の地、ゴイサ。
魔王の城にもっとも近く、そしてあたりには三つの神殿がある。神殿にはそれぞれ太古の昔に魔王を封印した英雄が持っていた「英雄の剣」「守護者の鎧」「イージスの盾」が守られている。いずれも最高の攻撃力、防御力を誇る伝説の装備品である。
ワンダはこれだ、と思った。
勇者達はいずれこれら装備品を手にいれようとするだろう。それを先に手にいれて、街の真ん中にでも立っていれば、さすがに勇者達だって放ってはおかないだろう。そしてそれらを勇者達に渡すときにこそ、ワンダの言葉もよりいっそう輝くと言うものだ。
かくしてワンダは早速神殿のひとつに乗り込んだ。
「たのもーう!」
静まりかえる石造りの神殿の中に、ワンダの声がこだまする。すると、奥に設置された宝箱の前に、ぬっと半透明な若者が現れた。美しい鎧を身につけた騎士だった。右手には、細い剣を握っている。
「なんだ貴様は。この神殿になんの用だ」
「その立派な鎧を奪いにきた」
「ほう、そうか。私は聖騎士ルミナス。かつて魔王を封印した三英雄がひとりだ。残念だが、この守護者の鎧、そう簡単に渡すわけにはいかん。貴様にふさわしい力があるかどうかこの剣で見極めさせて……」
「うるせえっつーの! いいからとっとと渡しやがれ!」
伝説の装備を手に入れるには、伝説の装備を身につけた、かつての英雄の亡霊と戦って勝利しなければならない。
これはそう簡単な事ではない。もちろん、通常ならば勇者にはもう何人も仲間達がいる。彼らと力を合わせれば、そこそこの苦戦は強いられるだろうが、問題なく伝説の装備を手に入れられるように調整されている。そういうイベントなのである。
だが、ワンダの場合は話が別だ。彼はまず一人だし、そして何より生命線とも言える回復魔法が使えない。相変わらず薬草だよりなのだった。
切っては切られ、薬草を飲み下し、それを何度も何度も繰り返す。それしか、彼には戦法などありはしないのだ。
ようやく決着がついたのは、ワンダが九十九個、持てる薬草すべてを飲みきったあとだった。かろうじて立っていたのは、ワンダ。聖騎士ルミナスとやらは「お前にならこの防具をあずけてもいいだろう」と残して、どこかへと消えていった。ワンダは、どうにかこうにか伝説の鎧を手に入れた。
ひとつ強力な防具を手に入れると、とたんに戦いが楽になるのもひとり旅の特徴だ。複数で向かうパーティの場合、ひとりが強力な防御力を持っていたとしても、敵がそのひとりを狙ってくれなくては意味はない。だが、ひとりだけの場合はそこが逆に利点ともなる。ワンダがまず鎧をとりにいったのは、そういう理由からだった。
続いては、盾。だが、高い防御力を備えたワンダには、もはや守護者もさほど脅威ではない。自分の残り体力に気をつけつつ、折を見て回復し、あとはちくちくと剣で刺すだけだ。
さほど苦もなく、伝説の盾も手にいれた。あとは、剣だけである。
言っておくが、これはもう雑魚と呼んでいい。
何しろ敵は高い攻撃力だけを売りにしているのだ。残念ながら、こちらはそれ以上の防御力で十分ケンカを買える。ダメージ軽減ができない強力な魔法を持っているならまた違ってくるのだが、剣の守護者たる英雄イスカンダールはおのれの腕力と剣の切れ味だけで勝負をする脳みそ筋肉だった。
攻撃を盾ではじき、鎧で耐え、ワンダは軽々と最後の伝説の装備を手にいれた。
新たな武器を装備して、神殿を去ろうとしたとき、ワンダの足元でかつて英雄と呼ばれた男がうめいた。
「この私を、たった一人でうち倒してしまうとは……お前は、一体……」
ワンダはふん、と鼻をならし、声高らかに言い放った。
「村人Bだ!」
そして村へ戻ったワンダのところへ、またしても衝撃的な話が舞い込んだ。
「勇者さまが、ついに、魔王の城へ向かったらしいぞ」
なんだって? どういうことだ? 伝説の装備はここにあるのに?
いや、しかし、まったく問題のない話なのである。伝説の装備は、あくまでも「最強の装備」であって魔王の城に行くために必要なアイテムではないのだ。これらを手にしていなくても、ストーリー的には何の問題もなく進められてしまう。どうやら、勇者達は、とっととこの物語を終わらせてしまうつもりでいるようだった。
ニネの西に、魔王の城へとジャンプできるワープポイントがある。ワンダは神殿で受けた傷も癒すまもなく、その祠へと飛び込んだ。
「なんだね君は。ここには魔王の城へと続く魔法の扉がある。勇者以外の者を通すわけには……」
「じゃかあしい!」
扉の前でかたくなに動かない神官を蹴り飛ばし、魔法の扉の中へ飛び込んだ。
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