ニネのゴーレム

 北の砂漠も、もちろん実らずだった。ワンダはへこたれなかった。

 それからも、ひたすら北へ南へ東へ西へと走り続けた。オフォの街、ツツイ集落、クスシティ、チシナナ峠、ヤ国。とにかく世界中を駆け巡った。

 海を渡るときには密航し、時には門番の目を盗んで不法入国したり、金のなさに無銭飲食をはたらくこともままあったが、そんなのは彼にとっては些細なことだ。


 行く先々で「勇者なら、もう行ったよ」の言葉を聞くのだ。もううんざりして、途中から勇者の行く手など聞く気にもならなかった。それよりとにかく、近くのダンジョンに突撃した方がずっと早い。どうせ勇者たちはダンジョン探索をするのだから。


 ニネの村の東の古代宮殿に着いた時に、どうもワンダは妙な感じを受けた。何かが、いつもと違うのだ。

 だが、そんな事はどうでもいい。ワンダは先を急いだ。


 すっかりレベルの上がったワンダは、敵をばっさばっさと切り倒し、そして早々にボスのいる部屋へと到着した。

 不思議な事に、ダンジョンボスは、まだぴんぴんして立っていた。ワンダの身長を三倍しても余るほどの巨大なゴーレムであった。


「ンン? 見かけンやツ。ココに何しニきた?」

「うるさいな。お前にゃ関係ないだろ」

「ふン。確かにそうダ。おレ、宮殿のガーでィあん。侵入者ハ、ミナゴロしダ」


 ゴーレムはいきなり岩の拳をワンダに振り下ろした。ごおん、と風を切る音がして、一瞬前までワンダの立っていた場所に穴が開いた。


「いきなり何するよ」

「おレ、ガーでィあん。侵入者、こロすだけダ」

「ああそうかい。俺も、あんまり勇者が見つからないんでイライラしてたんだ。てめえをぶっ壊して、ストレス解消にしてやるよ、ポンコツ野郎」


 ワンダは装備していた鉄球をかまえて、高く飛び上がった。

「とおーっ!」



 勝ってしまった。

どうやら武器の相性が良かったらしい。ゴーレムは、剣の攻撃はほとんどきかないが、ハンマーだとか鉄球だとか、殴るような武器だと大きなダメージが入るようだった。


 ワンダは壊れたゴーレムの上に座って、勇者達が来るのを待った。どうやら、勇者達よりも早くダンジョンを攻略してしまったらしいと言うことに気付いたのは、ゴーレムを倒した後だった。


 しかしこれは幸運である。勇者達よりも早く着いたと言うことは、いずれは彼らもここにやってくるということだ。これでようやく、自分の仕事も終わりそうだ。



 だが、どうもおかしい。一向に勇者達が現れないのである。

 丸二日ほど待ち続けて、携帯食料も尽きてきたところで、ワンダは一旦ニネの村へと帰ることにした。


「おい、勇者はどこに行ったんだ?」

 適当な村人に聞いてみた。

「勇者さまなら、東の古代宮殿に……」


 しまった。どうやら行き違ってしまったようだ。

 だがそれも違う、村人はこう続けた。


「古代宮殿に行く予定だったらしいんだけど、どうも道をふさいでいた封印がとけたとかで、予定を変更してゴイサに向かったらしいよ」

「道をふさいでた封印?」

「なんでも、本当は古代宮殿のゴーレムを倒さないと封印がとけなかったらしいんだけど、別の誰かがゴーレムを倒してしまったみたいなんだ」


 なんと言うことだ。行き違いどころか、ワンダは勇者に道を急がせてしまったらしい。


「なんでそう言うことを早く言わないんだ」

「そんな事をっをっい、言われてもっ」

 ワンダは村人を揺さぶったが、もちろんどうなるものでもない。

 仕方なく、ワンダはゴイサへの道を追いかけた。


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