第十八夜

昨夜、彼はいた。

記憶があやふやだが、いた。

紐と切手を賞味したはず。


あれから一向に眠れず朝方、先刻までの興奮はどこへやら、途端に体が動かなくなった。

瞳が水を欲して渇いていた。

何も考えたくない。


時計の秒針が規則的に響き、冷蔵庫のコンプレッサーが低く唸る。

差し込む日差しが異様に身を焼く。


ようやくと手にできた電話で欠勤の旨を伝え、そのまま座椅子にへたり込む。


二日酔いとは違う。

強いて言うならインフルエンザに近い。


意識が散漫なのに警戒心だけは高まる。

隣室の気配を感ずるだけで、もう駄目になってしまいそう。


考えることすら億劫。


カチ、カチ、カチ、カチ。

ブゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ……

時折鳴る着信音。ピロン。

壁を隔てテレビ。

外界からエンジン音。


今の僕は不幸だ。

周りのアンラッキーは全部僕に取り込まれる。


誰か僕のことを愛してください。


頬を液体が伝い、干からびた肌を流れ轍を作り上げるそれは、後から後から送り出される涙。

小川は徐々に侵食を続け、床面に到達する。

ここは死んだ国。サボテンの国。

変わらない生活音。

すすり泣く声で終わる。

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