第11話 メンダン・ビフォア・トーナメント 1

○早朝・トルマンの宿屋 ハル達の部屋

モソ

床に敷いた毛布が動く、ハルが目を覚ました。

ハル「ぅん(……おきなきゃ)」

ぎゅう

ハル「?(動けない)」

ユウ「すーすー」

ユウはハルを抱きしめている 。

ハル「ちょっ なんで(あっちで寝てたでしょ!?)」カアアア

ぎゅう むにゅ

ハル「…っ(やわらかい……ってそんな場合じゃない)」ドキドキ

ハル「ユウ! おきて はなして」ぐいぐい

ユウ「――ん パパ? おはよ」ぎゅう

むにゅう

ハル「(あたたかい……)って ちがう! はなして 起きるの!!」ドキドキ

ユウ「まだ 暗いじゃない もう少し……寝よ」むにゃむにゃ

ハル「ねーなーいーでー おきて!」ジタバタ

ユウ「ぅん もう クスシが起きちゃうでしょ おとなしくしてよ」

ハル「あぅ……(そうだクスシも隣で寝てるんだった)」

ハルはクスシが寝てる方を確認する 。


クスシ「……朝からお盛んねぇ」

ハル「えっ!?」


ガバッ


ユウ「起きてたの いつから!?」

クスシ「いや寝てないし……、ていうか今から寝るからお休みぃ、ぐーぐー 」

ハル「お酒くさい」

ユウ「また朝帰り……」


サッ


ハルはユウの懐から抜け出した 。

ユウ「あっ パパ もう」

ハル「ちょっとお店の片付けいってくるから、朝ごはんまでには戻るよ」

ユウ「ちょっとパパ、今日は面談よ。覚えてる?」

ハル「めんだん?」

ユウ「そう三者面談、……なんだってこんな時にやるのかしらね」


○半壊した学校・進路相談室

担任「こんな時だからこそです」

ハル「ハイ」

ユウ「……はい」

担任「先日のゾンビ騒動でお店も被害に遭われたそうで……、今が大変なのはよ~くわかります。ですがだからこそユウさんの今後の進路について考えなければ、休校になってる今こそなおさら考えるによい機会です」

ハル「えーと、はい」

ユウ「私はもう進路は決めてあるわよ」

ハル「え、そうなの?」

担任「えぇ……進路志望も伺っております ”ウェイトレス” だそうですね」

ハル「あ、そうなんだ」

ユウ「そうよ。パパを手伝うの」ニコニコ

担任「……しかしそのお店も全壊してますよね」

ハル「うっ」

担任「その点はどうするおつもりですかユウさん?」

ユウ「そんなの建て直すだけよ」

担任「簡単におっしゃいますが、すぐに建て直せるのですか? それ以前に本当にウェイトレスでいいのですか? 王国大学や騎士団、魔術師協会などからスカウトが来てるのですよ。奨学金も出すそうです」

ハル「そうなの!?」

担任「えぇ。ユウさんはたいへん優秀ですから剣術も魔法も座学もトップレベル、さらに実戦の経験もありますよね。それにあのナナーシャ王女からもお声がかかっているとか……、ぜひ進学や入団を考えてみてわ」

ハル「進学……(ユウが王都に)」

ユウ「いやよ、私はパパと一緒にいるの」

ハル「……ユウ」

担任「……わかりましたとりあえず今日はここまでにしましょう」

ハル「はい、ありがとうございました」

ユウ「やっと終わった」

担任「ハルさんは、お話しがありますから残っていただけますか」

ハル「え、……はい」


○廊下

面談を終えたショーコが歩いてくる 。

ショーコ「やれやれやっと終わった。あれが親父とか、……見てるこっちが恥ずかしいわ……、ん?」

ユウ「担当、パパと何を……」

ユウがドアに張り付いている。

ショーコ「ここにも恥ずかしいのいたーーー!」


○進路相談室

担任「家庭ではどのように?」

担任「あの子には才能があります 親でしたらその才能を伸ばしてあげるものでは」

担任「仮に天才としても本人に才能を伸ばす気がなければ」

担任「ユウさんの進路についてハルさんの意見は?」

担任「初めて? 普段、親子の話し合いはしていないのですか」

担任「失礼ですが あなたは父親ですよね」

担任「そんなことでは……」


ハル「ぅ……あ」

担当「あの……その、責めてる訳ではなく、はぁ……。あの子の将来を真剣に考えてあげてください……言いたい事はこれだけです」


○校内ラウンジ

ユウ「だって、パパの事だからひどい事言われていないか心配で」

ショーコ「とりあえず落ち着け。……本当に、ユウはハルさんのことになるとまわりが見えてないわね」

ユウ「別に周りのことなんてどうでもいいわ」

ショーコ「……(この子はまったく) いい? ユウは目立つし先日の事もあって注目されてるの。だからあまり変なことしてたらハルさんも困るでしょ?」

ユウ「ハルは私のパパなのよ、私の事を一番よく理解してくれてるわ」

ショーコ「いやいやいや、たとえ親子といっても意外とワカラナイものよ」

ユウ「そんなことないわ。店が壊れてからはまた一緒に寝てるし、心理的なケアは毎日ばっちり……」

ショーコ「コラコラコラ、公共の場でそういう誤解をまねくような発言をしない。それに過剰な干渉は心理的な虐待らしいわよ。知ってる?」

ユウ「なによ、私がハルを困らせてるような言い方じゃない」

ショーコ「かもよ、少し距離があるからよくわかることもあるのよ」

ユウ「そんな! 私はハルを困らせるような事は絶対にしないわ」

ショーコ「あ、ハルさん来たわよ」

ハルが階段から降りてきた 。

シュバッ!

ユウが駆け寄り抱き着く。


「ハルぅー」ムギュー

「うわっ なにユウ!?」

ショーコ「……はやい」

「あの担任にいじめられなかった? 寂しくなかった?」

「いや……大丈夫だよ、そろそろ離して」

「いやよ、私が寂しかったんだから」

「ちょ、ちょっと」


ショーコ「……ほら困ってない? まったく」


○夜・トルマンの宿屋 ハル達の部屋

ハル「ねぇ、ユウ。昼間のことだけど」

ユウ「なあに? やっぱりなにかイヤな事言われたの」

ハル「いや……別にイヤな事じゃないけど、ちゃんと相談しよ、進路のこと」

ユウ「え? 言ったでしょ私はウェイトレスになってパパを手伝うのよ」

ハル「それだけど、お店も建て直さなきゃいけないしね。すぐには無理でしょ」

ユウ「だったら一緒に働いて建て直そ? どうせ学校もしばらく休校なんだし一緒なら出来るわ」

ハル「その……本当にウェイトレスでいいの? 前は騎士になりたいっていってなかった?」

ユウ「……そうだったかしら」

ハル「そうだよ、よく言ってたじゃない騎士になって世界中を旅するって」

ユウ「さぁ……忘れたわ。気が変わったのよ」

ハル「だったらなんでウェイトレスなの?」

ユウ「だからハルと一緒にいるために……」

ハル「なんで一緒に居たいの?」

ユウ「それは……」

ハル「……もしかしてオババに言われた?」

ユウ「いえ、それは違うわ」

ハル「そうなんだオババに言われたから一緒にいるの? それはおかしいよ」

ユウ「違うわ。確かに言われたけどそれは関係なくて……」

ハル「いいんだよ、僕のことは気にしなくて。ユウはユウのしたいことを……」

ユウ「ちがうの! 聞いて、私はハルが好きだから大好きだから、ずっと一緒に居たいの」

ハル「ゆ、ユウ」ドキドキ

ユウ「それっておかしいこと?」

ハル「おかしく……ないよ、でもねは無理だよね」

ユウ「どうして」

ハル「だってユウは人間でしょ……」


○ショーコの部屋

ショーコは部屋でくつろいでいる 。

ショーコ「前年の相場がこれで……今年は……」

「パパのバカっ!! もう知らない家出してやる!!」

バタン

ショーコ「今の声、ユウ?」

ドタドタドタドタ

バタン

ユウ「ショーコ。悪いけど今日ここで寝かせてくれない」

ショーコ「オイオイオイ、家出ってここかい」

ユウ「はぁ……ハルにヒドイ言い方しちゃった……」

ショーコ「何があったのよ」

ユウ「だってハルが『自分はハーフエルフだから』とか『好きな人を見つけて』とか……私はハルが好きなの!」 

ショーコ「わかってたけど、重症ね」

ユウ「なによ……人間じゃ一緒にいちゃいけないの? エルフ族じゃないとダメなの」

ショーコ「……(うわー、ユウがいじけているの初めて見た)でもまぁ、ハルさんの言う事にも一理はあるでしょ」

ユウ「……わかってるわよ、そんなこと。言われなくたって」ぶつぶつ

ショーコ「うーん、そう……」

ユウ「そうよ……(ずっと考えたくなかった事なのに)」


ショーコ「ふーん(しばらくそっとしておくしかないわね)」

ジリリリン ジリリリン

ユウ「!?」

ショーコ「あ、電話」

ガチャ

ショーコ「はいアタシ、うんいいわ。つないで」

ユウ「自分の部屋に電話ひいてるの?」

ショーコ「えぇ、色々あってね。もしもしナナ? またケンカ? そっちもか……」

ユウ「ナナと電話してるの!?」

ショーコ「え、うん。今いっしょ、あーそうなの」

ユウ「なによ、なに話してるの」

ショーコ「だーめ、内密な事だから。あ、うんうん言ってないから」

ユウ「むうう、わかったわよ。向こうで寝てるわ」

ユウはソファーに寝転がった



ショーコ「だったらアタシにいい考えがあるわ」

ゴニョゴニョ

ユウ「……(長い……もう少しかしら)」

ショーコ「うまくいくわ、じゃあね」

ガチャン

ユウ「おわった?」

ショーコ「えぇ。それよりも、ユウに耳よりなお知らせがあるわ」

ユウ「なによ」

ショーコ「家出のついでに王都までいってこない?」

ユウ「なによそれ。それにそんなに遠くまで家出するわけには……」

ショーコ「家出に遠いも近いもあるの? それにもしかしたらお店を建て直せるかもしれない」

ユウ「いくわ」

ショーコ「即決かい」


○2日後・トルマンの宿屋 台所

ハルは台所を借りて料理をしている 。

ハル「よし……できた」

アップルパイが焼きあがった 。

ハル「これではやく仲直りしないと……(もう2日もユウと顔を会わせてない)」


○ショーコの部屋

こんこん

ハルはショーコの部屋をノックする

ガチャ

ショーコ「ん? ハルさん、丁度よかったいま呼びにいくところだったの」

ハル「え? 僕に用事?」

ショーコ「えぇ、それよりハルさんのご用は?」

ハル「あ、えっとね。ごめんねユウが迷惑かけて……これ焼いたんだけど」

ショーコ「うわぁ美味しそう、ありがとう」

ハル「それでその……ユウは?」

ショーコ「えっと実はユウは今いないわよ」

ハル「え!? いないの、どこに居るの!?」

ショーコ「それでそろそろハルさんに話さなきゃと思ってた所だったの」

ハル「いない……、うぅ……そんなに嫌われていたの?」ボロボロ

ショーコ「まってまって、違うのとりあえず向かいながら説明するから一緒に来て」

ハル「どこに?」

ショーコ「王都よ」

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