第7話 マイマイ迷子の千年の森 1

○街角

ショーコ「あーあ、なんで登校日なんてあるのかな。」

ユウ「ほんと、特に授業があるわけでもないのにね」

ショーコ「あんたは朝から告白とお誘いだらけだったわね」

ユウ「ほんと、いい迷惑だわ」

ショーコ「いっそ誰かと付き合ってみれば? そうすれば収まるでしょ」

ユウ「……以前試したことがあるけど、それはそれで面倒なのよ」

ショーコ「そうなんだ、誰と付き合ったの?」

ユウ「ダン」

ショーコ「へょ!! なにそれ、初耳よ」

ユウ「そりゃ聞かれなかったもの」

ショーコ「どうなったの、なんでわかれたの、どこまでいったの、キリキリ白状しやがれ! てやんでぇいべらんめぇ!!」

ユウ「誰よあなた。 そうはいっても5,6年くらい前の話だから」

ショーコ「なんだ結構前なのね。 で、どこまでいったの?」

ユウ「どこまでって、何なにもないわよ」

ショーコ「じゃあなんでわかれたのよ」

ユウ「んー? よく覚えてないわ、確かあいつが言い出したハズよ。 これ以上付き合えないって」

ショーコ「そーなの!?  以外~、でも付き合ったことがあるならもしかしてユウはダンのことをまだす、すす好きなん? 好きやねん?」

ユウ「……(暑さで脳がやられたのかしら?)あいつのは弟みたいなものよ、今も昔もね」

ショーコ「ふーん、ホントー?」

ユウ「なによ」

ショーコ「あたしたちの友情に誓って嘘偽りはないわね」

ユウ「嘘をつく必要がないわね」

ショーコ「本当に本当? だってダン君って……」

ユウ「あーもー、しつこいわね。 友達やめようかしら」

ショーコ「わー、そんなこと言わねぇでくだせぇお代官様。 もうちょっとダン君の情報をおしえてぷりーず」


フィメナ「この炎天下に元気だな、君達わ」

女騎士フィメナがあらわれた。

ショーコ「アレー! フィメナさんなんでこんなところに!?」

ユウ「フィメナさん。 お久しぶりです」

ショーコ「王女は元気?」

フィメナ「あぁ、元気すぎて困る」

ユウ「今日はなんでこの町に?」

フィメナ「いちおう任務でね。 ところでここの分隊長が近くの喫茶店に居ると聞いたけど何処か知らないか?」

ユウ「あぁ、それなら」


○ハルの喫茶店

トーゴ「ふー、こんな暑い中、見回りなんてやってられないな」

ハル「そんなこと言ってまたサボって。 また副隊長さんに怒られない?」

トーゴ「いいのいいの、俺がいたらあいつらもサボれないだろ。 部下の息抜きにもなるからいいんだ」


カランカラン

フィメナ「ほーう、そんな気楽なものなのかここの任務は?」

トーゴ「げぇ、フィメナ!?」

フィメナ「なにが!? 『げぇ!』だ、この無責任ヤロウ!!」

フィメナの右ストレートをトーゴはとっさによけた。

トーゴ「おふっ……、マジか、本物だ」

フィメナ「貴様のせいで私がどれほど苦労してるかわかるかこの野郎! ワガママ王女の子守なんだぞ、ああ!?」

トーゴ「だったら結婚でもなんでもして、とっとと辞めれば良いじゃないか」

フィメナ「だ~れ~の~せいでこうなったと思ってるんだ! お前のような無責任なことが出来るか、ちくしょう!! なんでこんな奴に……」

ハル「……あ、あのフィメナさん」

フィメナ「おやハル君? そうか君の店だったか。 少し待ってくれないかこの無責任ヤロウを始末したら説明するから」


ショーコ「あらー、凄いことになってるわね」

ユウ「過去になにかあったのかしら」

ユウとショーコが入ってきた。

ハル「あ、いらっしゃい。 ユウもおかえり」

ユウ「トーゴとフィメナって知り合いだったの?」

ハル「僕も知らなかったけどそうみたい……、でも、そろそろ止めないと」

フィメナ「いやいや手出し無用だ。 こいつは近衛兵の役を私に押付けて引退した無責任極まるオトコだからな、性根を叩き直してやらなければ」

ショーコ「へぇー、本当にそれだけですか? オトコとオンナのアレやコレは無かったんですか?」

フィメナ「な、ななな何もないぞ!? 騎士団の同期、それだけだ! そうだろうトーゴ!」

トーゴ「ゲフンゲフン。 そうだな、ただの同期だな」

フィメナ「よくもぬけぬけと! ちくしょう!!」

フィメナのコークスクリュー。

トーゴ「オゴーっ! どう言えと!? 」

ユウ「なんてキレイなコークスクリュー」

ショーコ「いやまったく」

ハル「で……でも、トーゴが引退したのは……その、モナが……」

フィメナ「あぁ……、知っている。 今のは私の八つ当たりだったな。 すまない許してくれハル君」

ハル「あ、うん」

トーゴ「謝る相手が違わないですかフィメナ殿?」

フィメナ「だまれ、ハル君の顔に免じて許してやる、今日の所はな」

トーゴ「今日のところって、あと何日分ありますか?」

フィメナ「知りたいのか?」

トーゴ「いえ、全然」



トーゴ「で、要件はなんだ? まさか俺を殴りに来ただけじゃないよな」

フィメナ「殴ったのは分隊長がお前だったからだ。 まったく、巡回中だからとさんざん探したあげくサボタージュ中とは、だいたいお前は昔から……」

トーゴ「今度は説教か? どうした機嫌悪いな、アノ日か?」

フィメナ「アホ! 違うわ」

ハル「あのとりあえずこれどうぞ。 飲むと落ち着きます」

フィメナ「あぁすまない、騒ぎ過ぎだな」

トーゴ「殴り過ぎだよ」

フィメナ「……まぁいい。 要件を言おう。最近妙な事件が増えたと思わないか?」

トーゴ「そうだな、最近は動物の狂暴化や魔物の異常発生。 他にも例のゴブリン騒動やらで大忙しだよ」

フィメナ「王都としてはあれは異常発生した奇形の猿の群ということになっている。 ただこちらでも奇妙な事件や事故が相次いでいる。 怪しい商品、都市伝説、残忍な犯行、そしてこの前は化物にナナーシャ様を誘拐されかけた」

トーゴ「あぁ、ハルが世話になったそうだな。 すまんな」

フィメナ「いや、こちらが助けられたくらいだ……。 それでだ、ある方がこれらの事は関連があるのではと調べ始めたのだ」

ユウ「あー、ナナ王女ね」

ショーコ「この前、電話したけど"世直し"がマイブームらしいわ」

トーゴ「ナナはああ見えて賢いし正義感も強いからな」

フィメナ「伏せる意味ないじゃないかバカ。 まぁ依頼はナナーシャ様からなんだが私にある場所を調べてこいとおっしゃたのだ」

トーゴ「どこだ?」

フィメナ「これを見てくれ」バサッ

ハル「このあたりの地図だね」

ショーコ「この日付は? あちこちにあるけど」

フィメナ「これは周辺の妙な事件と発生した場所と日付だ」

トーゴ「ほう、なるほどな」

ハル「なに?」

ユウ「日を追うごとに広がってるわね、放射状に」

フィメナ「そう、ある場所を中心にして事件が日毎に増加、拡散しているんだ」

トーゴ「この一番古い日付はあれか」

フィメナ「そう、お前が最初に報告してきたゴブリン襲撃事件だ。 そしてこの中心に当たる場所に何があるのか? それを調べるのが今回の私の任務だ」

トーゴ「ここはおそらく山向こうの森だな、何もないはずだが」

フィメナ「あぁ、勘違いならいいんだがそれを確かめないと王女は納得しないだろう」

トーゴ「そうだな」

フィメナ「さて、調査のためにお前の隊から最適な人材を要求する、いいな」

トーゴ「まぁいいが、なんでお前一人だけなんだ?」

フィメナ「……王女はこのことを王や兵長にも申し入れたが聞き入れてもらえなかったのだ。 だから独断で私に調べてこいとおっしゃったのだ」

トーゴ「そりゃあご苦労なことで」

フィメナ「だから誰のせいだと! しかし最近の事件には私も気になるから同意したのだ」

トーゴ「よくナナ自身が来なかったな、自分で調べると言い出すだろう?」

フィメナ「さすがもと世話係だな、諦めさせるのに苦労したぞ」

トーゴ「やっぱりか。 ふーむ、こんな山奥案内が必要だな。 ここらの山に一番詳しいのは……ハル、お前だったよな」

ハル「そうだね、こんな山奥言ったことないけど、途中までなら」

フィメナ「ハル君が? 疑うつもりではないが大丈夫か?」

ハル「この手前の山までなら薬草やハーブを採りにいくのに結構行ってるから」

フィメナ「そうか助かる、だったら明日の朝に出発しよう」

トーゴ「わかった、こちらからも二人出すから」


ユウ「パパ、わたしも」

ハル「ダメだよ、ユウは留守番」

ユウ「なんでよ」

ハル「ただの調査なんだから。 宿題もあるでしょ?」

ユウ「宿題は終わってるわ、それにまたゴブリンとかが出たら」

ハル「フィメナさんたちと行くから大丈夫だよ」

ユウ「それでも私はパパが心配で」

ハル「ユウ、……僕は子供じゃないんだ」

ユウ「わかってる、でも」

ハル「大丈夫だって言ってるじゃない!!」

ユウ「ッ……」


トーゴ「ハル?」

ハル「ごめん怒鳴って、でも本当にただの調査なんだから。 ここで留守番してて。 ね、お願いだから」

フィメナ「ハル君は君を危険な目に会わせたくたいのだ、わかってやりたまえ」

ユウ「……わかったわ」


○翌日、山道入口

馬に乗ったフィメナたちが山道にさしかかる。

トーゴ「ようやく、入り口に入ったな。 ハル疲れてないか」

ハル「大丈夫だよ。 この先は道が細くなるからゆっくりいってね」

女兵士ルソル「はーい」

フィメナ「……今更だが。 なんでよりによってトーゴが来ているんだ」

トーゴ「俺だって最初は副隊長ともう1人と思ったけどよ」

ルソル「先輩達は『山に入ってはいけない病』だそうです、変な病気ですよねー」

トーゴ「そうしたら副隊長は『私ではルソルは扱いかねます』ときやがった」

ルソル「なんででしょうかね、わたし副隊長に嫌われてます? あ、鹿だ鹿がいますよ! 捕まえますか晩御飯にしましょうよ」

トーゴ「まてまてまて、余計な荷物を増やすな。 それにそんなに食ったら無駄に持ってきたドーナツも入らなくなるだろう」

ルソル「うーん、そうですね。 仕方ないですぅ」

フィメナ「……お前も苦労してるんだな」


◯山道

フィメナ「これで最後だ!」ズバッ

大トカゲを倒した。

トーゴ「だいぶ登ってきたな、魔物もぞろぞろ出てきてるし、道もないし」

ルソル「たいちょー、そろそろ休憩しましょ美味しいドーナツ食べましょ」

トーゴ「お前なピクニックじゃないんだ。 ハル、あたりに魔物の気配はないか?」

ハル「うん、……近くにはもう居ないよ。 ただ……」

トーゴ「どうした? 気分が悪いのか」

ハル「……(ユウ? あれだけ強く言ったし、きてないよね?)ううん、なんでもないよ。 行こうこっち泉があるから休憩にしよう」

トーゴ「おう」



ユウとダンが馬に乗っている。

ピコーンピコーン

ユウ「この先で休憩してるみたいね。 私たちもここで休みましょう」

ユウは手のひらの探知機を見ながらいう。

ダン「おまえ、どこでそんなものを? ハルさんについてるのかそれ?」

ユウ「プレゼントしたお守りにショーコから貰った発信機を組み込んであるのよ」

ダン「それハルさんは知ってるのか?」

ユウ「もちろん知らないわよ。アンタ、いわないわよね」

ダン「……しかし」

ユウ「こないだ誘拐されかけて心配なのよ。 パパは子供じゃないっていうけど、周りはそうは思わないわ」

ダン「だからってそれはないんじゃないか?」

ユウ「仕方ないじゃない、パパの聴こえる範囲はかなり広いのよこうでもしないと。 ……それにちょっとイヤな予感もするのよ」

ダン「予感?」


◯泉のほとり

ルソル「ん~美味しぃ。 自然の中でたべるとまた格別ですね」モグモグ

トーゴ「どこで食べても同じだろ」

フィメナ「よくこんなところ知ってたな。 こんなところまで薬草採りにくるのか?」

ハル「ううん、ここらでは採らないよ。 ただ僕はこの辺で育ったから」

フィメナ「山育ちだったのか、どうりで」

トーゴ「ハル、もしかしてイヤだったか? この山に来るのは?」

ハル「……ごめん、もう整理はできたと思ってたけど。 ちょっと怖いね」

フィメナ「なにかあったのか?」

ハル「この辺は父さんと母さんで暮らしてんだ。 でも母さんは大事な用事で出ていって、その後父さんも亡くなったんだ」

フィメナ「そうかすまない、余計なことを聞いてしまったな」

トーゴ「ここの案内を頼んだのはは無理な願いだったか?」

ハル「ううん、違うよ。 もう大丈夫って思ってたから。 でも、やっぱりここに来ると思い出しちゃって、父さんが死んじゃった時を……」

ルソル「……うぅぅ、ハルざん苦労しだんでずねぇ」ウルウルモグモグ

トーゴ「お前は泣くのか食うのかどっちかにしろ」

ルソル「ずびまぜん」

ハル「ふふ、ありがとう」

フィメナ「南の大森林にはエルフ達が住むといわれるが。……ここの森にもエルフ族が居るのか?」

ハル「そうだね、多分いるんじゃないかな」

フィメナ「多分とは?」

ハル「母さん以外のエルフ族は…… ほとんど知らないんだ。 彼らがどこで暮らしてるかも知らない」

フィメナ「もしかして、このところの異変はエルフ族が原因なんだろうか?」

ハル「……わからないよ」

トーゴ「どっちみち行ってみないことには」

ルソル「エルフ族かぁ、襲って来たりしませんよね?」

ハル「……」

フィメナ「それも行かないとわからないか」

ハル「……うん」

トーゴ「ハル、俺がいるしフィメナも腕は確かだ、頼りないがルソルも居る。 何が出てきても大丈夫だ、安心しろ」

ハル「うん。 ありがとう」



ユウ「動きだしたわ、私たちも休憩はおわりね」

ダン「よし、後ろに乗ってくれ」

ユウ「また? アンタデカいから前が全然みえないのよ、手綱を私に代わりなさいよ」

ダン「……断固として断る。 俺の馬だからな」

ユウ「もう仕方ないわね」

ダン「すまん……(俺が後ろじゃ俺がユウに抱きつく事になるだろうが。)」

ユウ「まったく、アンタは馬だけ貸してくれたらよかったのに」

ダン「そうもいかん、お前ひとり行かせるなんて俺には無理だ。 それに何度もいうが俺の馬だからな」

ユウ「ハイハイそーですか、次は私を前にしなさいよ」

ダン「すまん(こうも警戒されないのは俺が一人前の男として認められてないんだろうな)」

ユウ「昔からそういうところ頑固ね。 男ってのはどうして馬が好きなのかしら」

ダン「好きとか嫌いではなく騎士の務めだ」

ユウ「そんなんだと彼女できないわよ」

ダン「むぅ……。 俺が一人前になったら考える」

ユウ「またそれ? いちいちそんなの気にしてるのアンタだけよ。 だいたいアンタの言う『一人前』ってなんなのよ」

ダン「それは……その(お前が男として俺を認めてくれるか)……まだ言えん」

ユウ「なによ、素直じゃないわね(あーあ、小さい頃は素直で可愛かったのになぁ)」

ダン「すまん」

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