第5話 リトルビックキッドナッピング3

○大広間

大広間のテーブルで金色の派手な男と女盗賊が話している。


ハル「あそこに居るよ、さっきの女盗賊以外にもだれかいるね」

ナナ「あれは、見たことがある。 金ピカ趣味の男爵じゃ、いやらしい奴じゃ」



金ぴか男爵「どれ、新しいオンナがはいったとか?」

女盗賊「あぁ、あといいオマケもいてね。 エルフ族の子供を捕まえた」

金ぴか男爵「エルフ族!?  本当なら希少だ、高く売れるだろう」

女盗賊「あと、他のガキの買い手はまだつかないのかい? 飯代がかかるんだよ」

金ぴか男爵「品のないのは買い手がなぁ……」



ナナ「ウヌー、人を人と思わぬ口ぶり、もう許せぬ!!」バッ

ハル「ちょっと!?」

ナナ「天誅!!」

ナナは手近にあった花瓶を投げつけた。

ガシャーン

金ぴか男爵「ウワー!!」バタン

ナナ「貴様ら、この国で人買いなど言語道断! わらわが成敗してくれるわ」

女盗賊「あんた!? どうやって逃げた!?」

金ぴか男爵「いたた、なんだ貴様。 モノ共であえ! であえ!」


ゾロゾロゾロゾロ

男爵の私兵が現れた。


ナナ「なんと!?」  ハル「まずいよ、逃げよう」

ナナとハルは逃げ出した。


◯中庭

ナナ「しまった、袋小路じゃ」

ハル「……(魔法が使えたら) そうだ、囮になるからナナは逃げて」

ナナ「お主はほんに気持ちのいい奴じゃの、ますます気に入ったぞ」

ハル「そんな事いってないで……」

ナナ「ならばこそ、おぬしだけ残すなど出来ぬわ」

ハル「でもこのままじゃ……うわぁ来た!」

私兵A「いたぞ」

私兵B「おとなしくしろ」

ハル達は囲まれてしまった。

ナナ「おのれ」

ハル「どうしよう」



「"雷撃"」

ガラガラガシャーン

私兵達「「グワーッ!!」」ビリビリビリ

私兵達は気絶した。


ナナ「なんじゃ!?」

ハル「この魔法、ユウ!?」

ユウ「パパ! 怪我はない!? よかった心配したわ」

ユウが屋根の上にあらわれ、ハルのもとへ飛び降りた。


ハル「ごめん、心配かけたね……ちょっと放して」

ギュウギュウ

ユウ「あー、もう本当によかった本当に」ギュウギュウ

ユウはハルを抱きしめている。

ギュウギュウギュウギュウ……

ハル「もー、いい加減に放して!」

ユウ「あらごめんなさい」

ハル「ユウ、どうやってここに?」

ユウ「それは――」


○数時間前、トルマンホテル

ショーコ「そういえばハルさん、弟の服着てたよね、ちょっとまって」ガサガサ

ショーコは懐中時計のようなものを取り出した。

ショーコ「よかったまだあったわ、動くかな?」カチ

ピコーンピコーン

ユウ「これって、もしかして」

ショーコ「そう、探知機よ。 あたしの誘拐騒動から兄弟の服に発信機を付けたの」

ユウ「じゃあ、この先に」

ショーコ「ハルさんがいるわけ」

ユウ「ショーコ、ありがとう。 恩に着るわ」


○盗賊のアジト・中庭

ユウ「――というわけよ。 いまショーコが兵士を呼びにいってるわ」

ハル「そうだったんだ」

ナナ「おぬしがハルの子供なのか?」

ユウ「えぇ、ハルは私のパパよ。 あなたは?」

ハル「この子はナナ、僕といっしょに逃げてきたんだよ」

ユウ「そうだったの、あなたも大丈夫? あら、あなた以前会わなかったかしら?」

ナナ「いんや!? 知らんと思うが。 そ、そんなことより今はあの女盗賊と男爵を捕まえるのが先じゃ、兵士が来るまで足止めせねば逃げられるぞ」

ユウ「そうね、あなたやパパにこんな事したんですもの然るべき報いを」

ハル「むくいって、ユウ? こわいよ」

ナナ「おう頼もしいのう」


女盗賊があらわれた。

女盗賊「なんだい、今の雷は? うわ、なんだいみんなやられちまったのかい」

ユウ「あなたが黒幕ね "電撃"」ピカッ

女盗賊「おおっと」

しかしかわされてしまった。

ユウ「な、よけた!?」

女盗賊「へぇ、珍しい魔法だね。でもつかえなきゃ意味ないよ"魔法封じ"」キュイン

ユウは魔法が封じられた。


ユウ「だったらこうよ!」 シャキン

ユウは剣を抜いて斬りかかる。

女盗賊「へぇ、剣でやるつもりかい?」

ユウ「見くびられちゃ困るわ」

ヒュンヒュン

女盗賊「それはこっちのセリフさ」ビュン

ユウの攻撃、しかしかわされてしまった。

ユウ「う……(早い!? なんて動き!?)」

女盗賊「ほーら背中が、ガラあら空きだよ」

女盗賊は背中にナイフを投げつけた。

カキン

ナナがナイフを弾いた。

ナナ「わらわも忘れられては困るのう」

ハル「ナナ!」

女盗賊「ならば、これでも食らえ!」

女盗賊はナナに激しく切りかかった!

ナナ「いやじゃな」シュ

飛びのいたナナの影からユウが切りかかる。

ザシュ!!

女盗賊「ぐぅ!! 腕が」

ユウ「ナナさん助かったわ。 さて観念なさい、勝負あったわね」

女盗賊「やるねぇ、人間の分際で……」

ナナ「ぬ?」

女盗賊「図に乗るんじゃないよ人間が!」

女盗賊の体が大きく歪んでいく。

ハル「気を付けて! この感じ、そいつ人間じゃない!!」


女盗賊?「シャアアアアアアッ」

ハル「おっきい猫?」

ナナ「いや、とらじゃ!?」

ユウ「ふーん、ワータイガーね…… それで、あんな動きができたわけ」

女盗賊はワータイガー(虎女)だった。

虎女「あんな動きにくい体よりずっと早いぞ、今度はな!」

ビュンビュンビュン!!

ワータイガーは高速で走り回る。

ユウ(……く、見きれない!?)

虎女「シャア!」

ナナ「あぶないッ、きゃあああ!!」

ワータイガーの攻撃をナナが防御したが吹き飛ばされた!

ハル「ナナ!」

ナナ「いつつ……なんて力じゃ、こんなの止めれぬ」

虎女「つぎはおまえだ」

ビュンビュンビュン!!

ユウ「……くっ」

ワータイガーの連続攻撃

ガギンガギン

ユウ「ぐっ、うぅ……(段違いに早い、それに重い)」

虎女「いつまでもつかな? ほらほらほら」

ハル「うう……(ユウが危ない。 でも魔法が使えないと……) 」

虎女「ははは、こっちだよ」ザシュ

ユウ「くぅあ!」

ハル「ユウ!!……(魔法がなくたって僕は、僕はパパなんだ!)」


ハルは落ちていたホウキを掴んで殴りかかった

ハル「やめろ、ユウをいじめるな!」ブンブン

ユウ「パパ……」

虎女「なんじゃそんなもの、鬱陶しいな」ぺシ

ハル「うわ!?」

ハルは軽くあしらわれた。


虎女「あんたはレアモノだからね、おとなしてな。 ただしあんた達は死んで貰おうかね勿体無いけどコレを見られちゃあね」


ハル「やめろやめろー」ぺしぺし

虎女「うざったいな、もう」チラチラ

ユウ「はぁ!」シュ

ユウの攻撃。

ザシュ

虎女「痛ぁあ!? まだそんな力があったか、死ねぇ!」

ハル「このっこのっ!!」フリフリ

虎女「ああもう、いい加減にしろって」チラチラ

ナナ「あれは、もしかすると…・・・」

ユウ「……パパ、そのままホウキを振りながら走って」

ハル「え? うん。 わかった」フリフリ

虎女「なにをバカな、あんなものにつれるとでも……」

ガバッ

ワータイガーはホウキに飛びついた


虎女「……しまった、つい」

ユウ「スキあり!!」シュバ


ユウの攻撃、会心の一撃!

虎女「ぎゃああああああああああああ!!」

ワータイガーを倒した。

ナナ「大きくとも所詮ネコだったのじゃな」



ナナ「さて、あとはおぬしだけじゃ」

金ぴか男爵「おれは貴族だぞ、お前らこんなことしてタダで済むとおもってるのか!?」

ユウ「うわー安いセリフ。 言ってて恥ずかしくない?」

ショーコ「ユウー、やっぱり先に突入したのね。 ほら兵士さん連れてきたわ」

ショーコと兵士達がやってきた。

兵士「盗賊が居ると聞きましたが、いったい何事ですか!?」

金ぴか男爵「お前達、ここは俺の屋敷だ、こいつらこそ不法侵入者だ捕まえろ」

ハル「えぇえ!?」

兵士「これは男爵様!? 失礼しました。 お前達おとなしくしてもらおうか」

兵士たちがハル達を取り囲んだ。

ナナ「なんじゃおぬしたち、コヤツこそ誘拐の共犯者じゃぞ」

金ぴか男爵「こいつらこそ誘拐犯だ、捕らえろ」


ユウ「なんて奴!」

ショーコ「ちょっとナニコレどうするの!?」

ナナ「……情けない」

ユウ「あっちは男爵でこちらはよそ者だしね……どうしたら」

金ぴか男爵「ほれ、早くしろ」

兵士たちが包囲を狭めてくる。



ナナ「まったく、わらわは情けない! 我が国の兵士はこの程度だったのか!!」

兵士「なんだお前。 騒ぐなおとなしくしろ」

ナナ「これを見ても同じことを言えるのか!」ババッ

ナナはメガネとカツラを投げ捨てた。 艶やかな金髪が揺れる。

兵士「お前は! いえ貴方は!?」

金ぴか男爵「なに!?」

ショーコ「うそ!?」

ユウ「それで……そういうこと」

ハル「……うわぁ、キレイ」


ナナ「わらわは先代国王の七番目の子、第七王女ナナスタシアであるぞ」

ナナはお忍びの第七王女ナナスタシアだった。

ナナ「わらわの顔、見忘れたとは言うまいな」

金ぴか男爵「王女様!? なんで? こんなとこに!?」 

ナナ「兵よ、こやつは大罪人じゃ、ひっ捕えい!」

兵士「ハッ!」

金ぴか貴族は兵士に捕えられた。

金ぴか男爵「まて、違う!? あれはあの女が話を持ち掛けてきて」

兵士「お話は後でお伺いします」

金ぴか男爵「うぬぬ」


ユウ「……なんとかなったわね」

ハル「一時はどうなるかと」

ナナ「これにて一件落着じゃな!」カッカッカッカッ

ショーコ「これはナナスタシア王女様お怪我はないですか? ワタクシはショーコと申します」

ナナ「くるしゅうない、わらわと同い年くらいではないか。 硬い言葉は嫌いじゃ」

ショーコ「ホント? ありがとアタシもそういうの慣れなくて。 噂には聞いてたけど本当に王女お忍びっで外出してたのね」

ナナ「そうじゃ、しかしおぬしは素直じゃな。 気に入ったぞショーコよ」

ショーコ「ほんと!? 王女に気に入られるなんてラッキーだわ。 あ、ナナって呼んでいい?」

ナナ「もちろんじゃ、ショーコよ」

ハル「うわぁ、あっという間に打ち解けた」

ユウ「どことなく似たところあるしね、気が合うんじゃない?」

ハル「そうなの?」


パカラパカラ

女騎士があらわれた。

女騎士「賊がいると聞いて応援にきましたが、これはなんのさわ……あーーッ、ナナーシャ様!!」

ナナ「げぇ、フィメナ!?」

女騎士フィメナ「さんざん探し回ったんですよ。 何してるんですかこんな所で!」

ナナ「その……あれじゃ。そう世直し、世直しじゃ」

フィメナ「何をおっしゃる、世間よりまずご自身の行動を直してください!」


○王都三日目・馬車乗り場

フィメナ「今回の件、誠にご迷惑をおかけした。 そしてナナーシャ様と子供たちの救出に感謝している」

ハル「もういいですよ、フィメナさん」

フィメナ「本来なら王家から直接礼をするところなのだが、王女の脱走とあの魔物の件もありおおやけに出来なくてな。 すまない」

ハル「そんなの気にしなくていいですよ、それより子供たちは?」

フィメナ「あぁ、誘拐されていた子供は無事に帰した、身寄りのない者は我が騎士団の見習いになった」

ハル「そっかよかった」

ユウ「それにしてもあのワータイガーはなんだったの?」

フィメナ士「わからない、一味の盗賊たちもあれの正体は知らなかったようだ。人に化ける魔物がいるなんてな……」

ショーコ「そんなのが居るなんて知れたらパニックになるわね」

フィメナ「あぁ、頭の痛い話だ」

ユウ「そういえば金ぴかの男爵はどうなったの?」

ナナ「あやつなら今頃牢獄じゃ」

どこからともなくナナが現れた。

フィメナ「王女! また抜け出してきたんですか!」

ナナ「わらわは幼少の頃から脱走しとるのじゃぞ、あの程度でわらわを閉じ込めれるとおもうたか」

フィメナ「自慢することじゃないですから……まったく」

ナナ「ところでハルよ、今一度尋ねるがわらわの弟にならな」 ユウ「ダメよ」

ナナ「……わらわはハルに訊いておるのじゃ」

ユウ「ダメよ、私のパパなんだから」

ナナ「わらわだってずっとずっと弟が欲しかったのじゃ。 ハル、どうじゃ弟になりゃれ、わらわは本気じゃぞ」

ハル「えっと……僕にはユウが居るからそれで充分だから」

ユウ「ほら、やっぱりハルは私のパパよ」

ナナ「ずるいのじゃずるいのじゃ~~、そうじゃ、だったらわらわもハルの子供になるのじゃ!」

ハル「え」

フィメナ「ちょ」

ショーコ「……その手があったか」ボソ

ユウ「ショーコ!?」

ナナ「よかろう? わらわもお主らについていくのじゃ、行くと言ったら行くのじゃ! 異論は認めぬ!」

ユウ「……はぁ」

ハル「……えっと」オロオロ

ショーコ「わがまま王女ここにありといったところね……」

ナナ「これにて一件落ちゃ……」

フィメナ「いい加減にしてください、ナナーシャ様!」

ナナ「ひぃ!? よし逃げるのじゃハル」

ナナはハルの手をつかんで逃げ出した。

ハル「ちょっと、ナナ!?」

ユウ「あ!? ちょっと待ちなさい」

フィメナ「ナナーシャ様!」

ユウとフィメナが後を追いかける。

ナナ「わらわに追いつけるかの?」

ドドドドドド……


ショーコ「あーあ……、もう一回お茶してこよっかな」


〇第5話 リトルビッグキッドナッピング 終り

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