第5話 リトルビックキッドナッピング1

○王都二日目の朝・トルマンホテルの一室


ショーコ「はい、というわけで昨夜は親父が急遽開いた『恩人歓迎パーリナイ』で、王都2日目からのスタートです」

ユウ「誰に話してるの?」

ショーコ「気にしないで。 ほら服決めた?」

ユウ「えぇ、これにするわ。 でもずいぶん服があるのね」

ショーコ「そりゃ、もともとここはアタシの実家だったから」

ユウ「それでこんなにあるのね、パパ着替え終わった?」

ハルが着替え部屋から出てきた。

ハル「うん、これでいいよ」

ユウ「わぁ、似合ってるわ。 私も着替えなきゃ」

ユウが着替え部屋に入った。


ショーコ「ホント可愛い、弟のお古残しておいてよかったわ」

ハル「弟のおふる……。 うん、その貸してくれてありがとう、ユウの分まで」

ショーコ「いいのいいの、ジャージで出かけるわけにもいかないし。 あ、ユウも着替え終わった?」

ユウが着替え部屋から出てきた。

ユウ「えぇ、でもこれ。 ちょっとサイズがキツイわね。 胸がと……」

ショーコ「ぬげー! アタシ達の友情もこれまでよ!」

ユウ「バカ、やめなさいって」

ハル「さ、先に下でまってるね」


○トルマンホテル・ロビー

ショーコ「さあ、行きましょうか」

ハル「あれトルマンさんは? 今朝から挨拶をしてないんだけど」

ショーコ「オヤジはもう仕事よ」

ハル「早いんだね、昨日遅かったのに」

ユウ「流石に商売してるだけあるわね」

召使「お嬢さま出かけるのですか? 護衛のものを」

ショーコ「そういうのいいから」

召使「ですが、また近誘拐団が出ているとの噂も」

ショーコ「危ないところ行かないしアタシも子供じゃないのよ。じゃ」


◯王都大通

ショーコ「全く、未だに子供扱いなんだから」

ユウ「誘拐団がまたって、前にも出たの?」

ショーコ「そうねウチそこそこ大きい商家じゃない、だから誘拐とかされかけたこともあるのよ、それで余計にね」

ハル「そうなんだ怖いね」

ショーコ「ま~、それもあってあの町に引っ越したのよ。 田舎だから安全だし」

ユウ「そうだったのね」

ショーコ「さあ、どこ行く? もと地元だからどこでも案内するわよ」

ユウ「そうね~。 パパどこか行きたいところある?」

ハル「え? ユウ達が行きたいところでいいよ」

ショーコ「とりあえず歩きながら考えましょうか。 あ、あそこスイーツ美味しいのよ、久々だわ~食べましょ」 タタタ

ユウ「もう、結局自分が行きたいところじゃない。 パパ早く行きましょ」

ハル「ん~、ユウ」

ユウ「なに? パパ」

ハル「ユウ、ここはいつもの町じゃないから、僕のことは名前で呼ばないとダメだよ」

ユウ「そうなの? でもパパが言うなら」

ハル「もう、言ってるそばから」

ユウ「ごめんなさい、パ……、ハル」

ハル「よろしい。 いい? ユウがおかしな目で見られることになるんだからね」

ユウ「わかったわ、パパ」

ハル「ほらまた」

ユウ「フフ…… ごめん」


○ 喫茶店


ハル「美味しいねこのクレープ」モグモグ

ユウ「そうね、もうここクリームついてるわよ」

ハル「あぅ、ゴメン」

ユウ「もう、どっちが子供かわからないじゃない」フキフキ

ショーコ「……アタシも居るんだけどアツアツ親子モードは二人きりの時にしてくれない?」

ユウ「あら、ショーコ居たの?」 ハル「……(アツアツ親子?)」

ショーコ「ヒドッ! 最近、アタシに対する扱い冷たくない?」

ユウ「ウソよウソ、ゴメンなさいね」

ショーコ「感情が薄い!? 友情より愛情を優先するのね?」

ユウ「当たり前じゃない」キッパリ

ショーコ「ぐはっ ……わかってたけどここまでキッパリいうとは」

ハル「二人とも、声が大きいよ。 ほら、見られてるから」

「あの耳ってホビット族? エルフ族!?」

「まだいたんだ、……可愛い」

「うそ本物?……」

ショーコ「注目されてるのはハルさんのようね」

ハル「えぇ? どうしよう……」カアァ

「きゃあ、耳まで真っ赤にしてカワイイ」

「もって返りたいわ」

ユウ「パ……ハルこっち」

ハル「え?」


○帽子屋

ユウ「ほらこれなんかどう」

ユウはキャスケットをハルにかぶせた。

ユウ「これなら耳も隠れるし、ハルによく似合ってるわ」

ハル「ありがとう、買ってくるよ」

ユウ「まって、私が買うわ。 プレゼントよ」

ハル「本当!? ありがとう」

ユウ「たまにはいいでしょ? これもお親孝行よ」

ハル「えへへ、ありがとう」ニコニコ

ショーコ「……(ウチの弟もあれくらい可愛げがあったらねぇ。 ……チェンジしたい)」


○映画館前

ショーコ「そうだ映画観ない? 時間あるし」

ユウ「いいわね」

ハル「今は何をやってるの?」

ショーコ「ん~? 面白そうなのは『勇者様と私』と『片腕剣士と空飛ぶギロチン使い』ね」

ハル「わぁ、片腕剣士とかカッコいい」

ユウ「やめて、B級臭がプンプンするわ」

ハル「えー」

ユウ「多分、想像してるのと違うとおもうわよ」

ハル「そう?」

ショーコ「じゃあ『勇者様と私』ね、すいません、学生二枚と子供一枚」

ハル「……(わかってるけど、子供かー)」

ユウ「ハルどうしたの?」

ハル「なんでもないよ。あ、ポップコーンも買おうよ?」



ユウ「んー、ロマンスだったわね」

ショーコ「そうね、素敵だったわ~。 アタシもあんなお姫様みたいな恋したい」

ハル「実話なのかな?」

ユウ「まさかー、昔の有名人をモデルにしてるだけで実際に魔王とか勇者なんて居ないわ」

ショーコ「そうなの?」

ユウ「そうよ、昔の暴君を魔王とか言ってただけよ」

ハル「でも、今の王様って勇者の子孫なんでしょ? だったら本当なんじゃ」

ユウ「それは王族の正当性を強調するためのものよ。 よくある事よ」

ショーコ「そーね。 400年前の事なんて本当かどうかはわからないしね」

ハル「でも歴史書とかあるじゃない」

ユウ「そうゆうのは後付よ。 歴史は勝者によって作られるて来たから、必ずしも正しいかどうかわからないわ」

ハル「そうなんだ……」

ショーコ「でも、あんな姫様は居て欲しいわね~。 今のお姫様なんてお転婆て噂だし」

ユウ「お転婆って、具体的にはどんな?」

ショーコ「末っ子の姫様だけど、たびたびお城を抜け出してるんだって」

ユウ「ホント? それはまわりの人が大変そうね」

ショーコ「噂だけどねー、以前は自分で熊狩りにいこうとしたらしいから」

ハル「それお転婆っていうレベル!?」

ユウ「あら、もうこんな時間じゃない。 何か食べましょうよ」

ハル「そういえばお腹すいたねぇ」

ショーコ「だったら美味しいサンドイッチ屋さんが近くにあるわ」


◯サンドイッチ屋 ・店内

ハル「若い子ばっかりだね」

ユウ「気になる? 外のテラスに座りましょうか」


◯サンドイッチ屋・テラス席

ハル「わぁ、このソース美味しい、こんな組み合わせあるんだ」

ユウ「ハルも今度作ってみる?」

ハル「うん、でも材料あるかな?」


女騎士「む! 君たち食事中に申し訳ないが少しいいかな?」

通りすがりの女騎士が馬から降りてきた。


ハル「……(わぁカッコいい。 女の騎士さんだ)」

女騎士「人を探してるんだが、そこの子、ちょっとメガネをとってもらっていいかな?」

ショーコ「え? あ、はい」

女騎士「……すまない、違ったようだ。 君たちと同じくらいの年でこの辺りにいるはずだが」

女騎士は似顔絵を取り出した。

ユウ「この子? ちょっと見てないわね」

ハル「ごめんなさいわからないや」

ショーコ「探してるって? なにかしたのこの子?」

女騎士「申し訳ないが詮索は無用に願いたい。 手間を取らせたな、ありがとう。 他の場所を探すよ失礼する」

女騎士は去って行った。


ショーコ「はー、カッコいいわね」

ハル「それにしても人探しなんて大変だね、こんなに人が多いのに」

ユウ「騎士が人探しってのも妙だけどね、普通兵士に任せるものじゃないの?」

ショーコ「最近は物騒になってきたからね、兵士だけじゃ人手が足りないんじゃない? さ、そろそろ行きましょうか」

ユウ「そうね、用事も済ませないといけないし」

ハル「用事って?」


〇水着屋

ハル「ここって……」

ショーコ「ねー、これいいわね」

ユウ「ちょっと派手じゃない? それに中身も伴なわないと意味ないわよ」

ショーコ「ほう、最近ランクアップしたお方は言うことが違いますねぇ。 これかこれがランクアップしたのか!」モミモミ

ユウ「ちょっとやめてって」

ハル「あの、僕。 さっきのサンドイッチ屋でまってるから」カアァ

ハルは逃げ出した。

ユウ「あ、ちょっと」

ショーコ「あーららハルさんもオトコノコなのねぇ」

ユウ「もう、早く決めましょう」


○サンドイッチ屋・テラス席

ハル「ふー、あービックリした。 ユウも成長してるんだなー」

テラス席にドリンクと荷物を置いて休む。

ハル(ランクアップか……。 ちょ! 何考えてるんだ僕は、バカ)



ハル「んー(遅い、まだかな)」


ガヤガヤ……『なんじゃおぬしら』ガヤガヤ……


ハル「ん?」

ハルは雑踏から不穏な受け答えを聞き取る。


ガヤガヤ……『その手をはなさぬか』『静かにしろ』ガヤガヤ……


ハル「あっちの方だ……」


◯路地裏

盗賊A「おとなしくしろって」

メガネ女子「ふん! このような狼藉、後で後悔することになるぞ」

盗賊B「かー、肝の据わった子だなぁ」


ハルは物陰からならず者に囲まれた女の子を見た。

ハル「……(もしかして、誘拐団!?)」ドキドキ


ガラガラガラ

馬車が路地裏に乗り付け、中から女盗賊が怒鳴りつけた。

女盗賊「何してんだい、とっとと乗せちまいな!」

盗賊A「ヘイ」

ハル「……(どうしよう、連れてかれちゃう!)」

盗賊B「のれ!」


ハル「何してるの!? その子を放せ!」

ハルが盗賊達の前に躍り出た。


盗賊A「なんだこのガキ」

盗賊B「見られちまったな、お前も来い!」

ハル「うわ!? "風弾"」

ビュオオオオッ

ハルは魔法を唱えた! 強風が盗賊を吹き飛ばし壁に叩きつけた。

盗賊B「グワーッ」

盗賊A「魔法!? こんなガキが」


ハル「次は手加減しないよ!」 ドキドキ


女盗賊「最初から手加減しない方が良かったね、坊や。 "魔法封じ"」

女盗賊は魔法を唱えた。

キュイン

ハル「え!?」

ハルは魔法を封じられた。

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