第2話 マンドラゴラの育て方
○夜・古木のある丘の上
酒場からの喧騒が遠く丘の上で一人の酔っ払いが夜風に吹かれている。
酔客「あー、くそ。 あの女さっさと帰りやがって。 チクショー」
古木の根元に座って悪態をつくと手にした酒瓶をあおった。
???「キラキラちょうだい キラキラちょうだい」
突如、甲高い声がした。
酔客「な、なんだ!? 誰だ」
酔っ払いは周囲を見渡すが人影はない。
???「ここ、ここ そのキラキラちょうだい」
声は古木のウロから声が響いてくるようだ。酔っ払いはウロをのぞき込む。
酔客「誰だ、こんなトコにいる奴は、変な奴だな」
???「そのキラキラちょうだい」
酔客「これか? もう入ってねーぞ」
酔客は手にした瓶を投げ込んだ。
酔客「……?」
酔っ払いは音もなく消えた瓶を不審がったその時。
???「これやる これやる」
古木のウロから小包が飛び出した
酔客「なんだこれは?」
○2週間後の夜・ハルの喫茶店
カランカラン、ドタバタ
クスシ「ハル~、水ちょうだーい」
三十路の酔った女が千鳥足で喫茶店に入ってきた。隣の薬屋のクスシである。
ハル「もう、また飲みすぎたの? ユウー、お水もってきて」
ユウ「まったくパパは、甘いんだから。 クスシもいい年して飲みすぎよ」
クスシ「いい年ってなによ! 若けりゃいいの!? ワタシだって学生の頃なら…… ニクイ、特に手入れしてないのにピチピチなこの肌がニクイ」
クスシはハルのほっぺたを引っ張る。
ハル「ひょっとはなして…… もう、また荒れてるねー」
クスシ「最近の男は若い子のとこばっかり行って、どいつもこいつも~」ムキー
ユウ「『若さ』以前の問題じゃないの、はいお水」
クスシ「ありがと…… ぷはー あとなんか食べる物ない?」
ハル「……簡単なもの作ろうか?」
〇
クスシは出されたサンドウィッチを食べながら愚痴を言い始めた。
クスシ「数合わせって最初からわかってたしー、それでちょっと顔を出してきただけだしー」モグモグ
ハル「お腹すいてたの? 食事はなかったの?」
クスシ「だって……ガツガツ食べてたら食いしん坊とか思われるでしょうが」
ハル「食いしん坊は駄目?」
ユウ「……まぁ、そういうこともあるのよ。パパ」
トーゴ「そうか? 俺はよく食う奴は好きだが」
兵士風の男が店の奥から現れた。
クスシ「トーゴ!? ゴフッゴフッ!」
ハル「大丈夫、クスシ?」
入って来た男をみてクスシがむせる。
トーゴ「クスシもやっぱりこっちに居たか」
クスシ「うっさいわね…… なんでここに」ケホケホ
ハル「どうして裏口から?」
トーゴは警備兵分隊長で30代前半だがハルの幼馴染である。
トーゴ「いや、店はもう閉まってるみたいだったしな」
ハル「別にいいのに…… こんな時間にどうしたの? トーゴもなにか食べる?」
トーゴ「いや、いいよ。 今日はクスシに仕事をもってきたんだが、大丈夫か?」
クスシ「アンタに心配されるほど落ちぶれてないわよ、このスケコマシ」
トーゴ「ヒドイいわれようだな。 まぁいい、この薬について何か知らないか?」
トーゴは小さな包みを手渡した
クスシ「……ヴワァッカみたい。 こんなのデタラメよ」
紙片を呼んだクスシが言う。
ハル「なにこれ、『愛の妙薬 マンドラゴラ栽培キット』? ……マンドラゴラ!? すごい、幻の植物じゃん!?」
ユウ「パパ、真に受けないで。 こんなの雑誌の裏表紙にあるような偽物だって」
トーゴ「だがな、困ったことにコレは本物らしい」
○
トーゴ「数日前に領主の屋敷に盗賊がはいった、お嬢さんが目的だったらしい」
ユウ「へえ初耳」
トーゴ「すぐに捕まえることが出来たから表立ってはいない。ただ賊がお嬢さんにホレ薬を使ったらしい」
ハル「この薬?」
クスシ「ホレ薬なんてあるわけないじゃない」
トーゴ「そうだったらよかったんだが。 その後お嬢さんが盗賊に病的に惚れ込んでいてな、お嬢さんは賊から片時も離れようとしないし、周りの言うことも聞かない。処刑しようとしたら自分も死ぬと騒ぎたてるので領主が困っているらしい」
ユウ「本当にホレ薬だっていうの?」
トーゴ「盗賊が言うにはな」
クスシ「でもこれ、本物かどうかなんてわからないじゃない?」
トーゴ「これは内緒なんだが、実は他にも似たような事件がここ1週間で数件起こっているんだ、俺たちが調べて他の奴からも同じ薬が出てきているし、症状も似たような感じだ」
クスシ「本物ぅ! だれが売ってるの?」キラキラ
ハル「クスシ…… なんで嬉しそうなの」
トーゴ「それが出元がわからないんだ。取引があるようだがまだ特定できていない」
クスシ「まー、役にたたない兵隊長ねー」
トーゴ「それを言われるとツライな、それで解毒薬も回復魔法も効かないし、治る兆候も見られない。 そこでこの押収したホレ薬を調べて解毒方法を見つけて欲しいんだ」
ユウ「もってた人は解毒方法は知らないの?」
トーゴ「それについてはさっぱりだった。 ……それでコレが押収した例の薬と栽培キットだそうだ」
トーゴは小さな小瓶と小鉢を幾つかクスシに渡した。
クスシ「これが本物の!」
トーゴ「おいおい、依頼だって忘れてないよな」
クスシ「ええ…… うん ばっちし任しといて」ウキウキ
トーゴ「ハルお前も調べてくれないか?」
トーゴは小鉢の包みをもうひとつ取り出すとハルに渡した。
ハル「ホント! いいよ、ありがとう。 やったぁ幻の植物だぁ」ルンルン
ユウ「薬はないのね」
トーゴ「残ってた薬はクスシの分だけだ、頼むからちゃんと分析してくれよ」
クスシ「何よそれ、ワタシじゃ頼りないっていうの!?」
トーゴ「オババの一番弟子はハルじゃないか、それはお前もわかってるだろ」
クスシ「そりゃハルの方がベテランだけど、一応アタシが本職だし……」ブツブツ
ハル「えーと、これが説明書?」
ハルが包みを開けて説明書を読む。
〇
――栽培のしおり<愛の妙薬 マンドラゴラ>――
1:ハチミツ・ミルク・自身の愛液を用意する。
2:用意したものを混ぜ合わせ鉢にそそぐ。
3:2~3日で成熟します。
4:成熟したら小鉢を割りマンドラゴラを捕獲します ※逃走注意
5:絞り汁がホレ薬となります。ホレさせたい相手に飲ませましょう。
○
ユウ「……ちょっと」
クスシ「……これ絶対嘘よ」
トーゴ「……俺が用意したわけじゃないぞ?」
ハル「この愛液ってなんだろう?」
クスシ・トーゴ・ユウ「「「!?」」」
ハル「クスシ、知ってる?」
クスシ「うええっ!? その、ちょっとまってて…… はい集合して」
ハル「?」
ハル以外が円陣を組む。
クスシ「……ウソでしょ、本当に知らないの?」ヒソヒソ
ユウ「パパの知識は全部オババから教えてもらったことよ。 だからオババが教えてなかったら……」ヒソヒソ
クスシ「だって一応学校でも教育とか友達からとか…… ねぇ」
トーゴ「ハルは学校行ってないんだ、エルフだから無理だったって」
クスシ「マジで……」
ハル「どうしたの三人とも?」
クスシ「どうするの?」
トーゴ「ここはキャンセルで」
ユウ「賛成」
トーゴ「すまないな、やっぱり調査はお前はやらなくても……」
ハル「え、えぇぇーー! 駄目なの!? なんで」ウルウル
トーゴ「……いや、大丈夫だ。ただ調査はクスシと一緒にして提出してくれるか」
ハル「いいよ。 それでトーゴは愛液ってなにか知らない?」
トーゴ「ちょっとまっててくれ」
トーゴは円陣にもどる。
クスシ「なにやってんのよ、バカ」
トーゴ「スマン、しかし。 あんな顔のハルに言えるのか? 俺は無理だ」
ユウ「……無理ね」
クスシ「じゃあ、アレの説明どうするのよ」
トーゴ「……」
ユウ「そういえば、小学校の時の保健体育の教科書があるわ」
トーゴ・クスシ「「それだ!」」
○
ユウが部屋から教科書を持ってきてトーゴに渡す。
トーゴ「俺か!?」
クスシ「こういうのは男同士でしょまず、ほら行け」
トーゴ「(仕方ないな)……えっとなハル、この本のな」
ハル「なにこれ医学書? これに書いてあるの」ペラペラ
トーゴがページをめくりそれとなく示す。
トーゴ「あぁ、……でな。ここに…… これがソレでな……」
ハル「なんだ愛液って[自主規制]のことだったの」
トーゴ「ちょッ」
ユウ・クスシ「「ッ!」」
ハル「でも困ったな、僕出ないしどうしよ」
ユウ・クスシ「ファッ!!??」
ハル「トーゴ、サンプルにくれない?」
トーゴ「ふぉ!?」
ユウ「タンマタンマ……パパちょっとまってね」
クスシ「衝撃の事実ね」
トーゴ「昔から成長してないとは思ってたが、まさかここまでとは」
ユウ「オババがいうには、パパは生理的・精神的に12歳位って言ってたわ」
トーゴ「そんなにあるか? 見た目8、9歳だろ」
ユウ「それパパに言ったら三日は落ち込むから言わないでよ」
クスシ「でも12ぐらいなら色々わかるでしょ…… お年頃だし」
ユウ「パパをクスシやトーゴと一緒にしないで、パパはピュアなの」
トーゴ「ピュアにも程があるぞ…… しかしどうする」
〇
トーゴ「よし、言う通りに俺がサンプルを渡す」
クスシ「うわ、ヘンタイ」
ユウ「パパに近寄らないで、汚らわしい」
トーゴ「オマエラ、容赦なさすぎだな。 それっぽい偽物を渡すんだ。 そうすりゃ芽がでないだろ、それで問題解決だ」
クスシ「なるほど、それなら健全ね」
ユウ「パパを騙すようだけど、それが無難ね」
○
トーゴ「これで材料はそろったな? あとは頼んだぞ」
ハル「ありがとう、頑張るよ」
クスシ「ワタシももう寝るわ」
トーゴとクスシが帰った
ユウ「しかし、おかしなものが流行ってるのね。 私も学校で調べてみるわ」
ハル「うん、ありがとうユウ。 マンドラゴラに最初の水をあげてから寝るよ」
ユウ「じゃあ、私も手伝うわ、コレをこうしてここに注いで。 はいおしまい、簡単ね」ハル「うわー、マンドラゴラかー、幻の植物だよどんなのだろうね」
ユウ(パパ、ゴメンね。片栗粉じゃたぶん育たないわ)
○5日後・ハルの部屋
ハル「芽が出ない、芽がでないー…… はぁー」
ハルはマンドラゴラの小鉢を眺める。
ハル(クスシの方は芽が出たかな?)
○薬屋
ガラガラガラ
薬屋の戸を開けるハル。
ハル「クスシ―、ちょっとマンドラゴラみせてー」
クスシ「あ、ハル。 ちょっとまってて……。 ハイ、コレで三日分よ」
イケメンA「ありがとう、お嬢さん。 今度来るときには指輪をもってくるよ、受け取ってくれないか?」
クスシ「ダメよ、そんなからかわないで」
イケメンA「からかってなんていないさ、また明日くるからきっとその時にはわかってくれるだろ」 ガラガラガラ
クスシ「うふふ」
ハル「……クスシ、まさか……」
クスシ「あ、いや。 違うのよ、治験よ治験。 許可はあるわ(後からだけど)」
ハル「だからといっていきなり試すなんて、オババが生きてたらなんていうだろうね!」
クスシ「うおふ…… ハル、イヤなこと言わないでよ、ホントに枕元に出て来そうで怖いわ。 大丈夫よ、命に別状がないことはトーゴの証言からもわかってるんだし、希釈してあるし、実際の効用を見た方が調べやすいでしょ、解毒薬はすぐ作れるわ」
ハル「まったくもう、じゃあマンドラゴラの鉢見せて、クスシは幾つかもらったでしょ。 僕のはダメだったみたいだから」
クスシ「あ、……ごめん。 全部、試験薬にしてしまったわ」
ハル「え……全部? ウソ」
クスシ「ホント、全部」
ハル「オババはそんな雑なコト教えてないでしょ、ばかばかばかばか」ポカポカポカ
クスシ「ゴメンゴメン。 少し薬を分けるからそれで許して。 ハルもそれで調べてみてよ」
ハル「マンドラゴラ自体が見たかったのに、ぅ~~分かったよ。もう」
ガラガラガラ
ハルが試験薬をもらって帰っていった。
クスシ(やっぱりハルの方は育たなかったか、……でもこんな強力なホレ薬がこれだけあるなら)
クスシ「ウフフウフフ」
○ハルの部屋
ハル「とりあえず薬は手に入ったんだし、まずは…… うぅ~マンドラゴラ見たかったのに~」
小鉢「……」ピョコ
ちょうどマンドラゴラの小鉢から芽が出た。
ハル「で、でたーーーーー!!」
○数日後・学校
ユウ「出たのよ」
ショーコ「出たって?」
ユウ「パパのマンドラゴラが」
ショーコ「あ~、[自主規制]は関係なかった?」
ユウ「そうみたいね、あとサラッと言わないでよ」
ショーコ「え、[自主規制]とか[自主規制]とか」
ユウ「……」スッ
ユウのアイアンクローがショーコの顔を締めあげる!
ショーコ「ゴメン、ユルシテ、ヒヤシンス」バタバタ
ユウ「まったく。 別にマンドラゴラが生えたのはいいのよ、パパ喜んでるし、研究も進むしね。 ただ……」
ショーコ「ただ?」
ユウ「ちょっと熱が入りすぎてるっていうか、マンディーなんて名前まで付けてるし、毎日毎日『……葉っぱふって喜んでるよ』とか『もうこんなに大きくなったよ』とかまるで自分の子みたいに喜んでるのが……」
ショーコ「あらー、植物にパパをとられちゃって妬いてる?」ニヤニヤ
ユウ「そんな、妬いてないわよ。 あんな人参もどきに……」
ショーコ「じゃあ、もしもハルさんに好きな女の人が出来たらどうする?」
ユウ「なッ! ……それは ……パ……パパにはまだ早いわっ、私は認めません!!」
ショーコ「へぇー(オカンだ、オカンだコレ)」
ユウ「それはそうとショーコ、ホレ薬の噂とか怪しい商売人とか調べてくれた?」
ショーコ「モチロン、あたしの『井戸端ネットワーク』で調べたら一発よ。 人の口に戸は立てられないのよん」
ユウ「へぇー(この子、オバさん臭いわね)」
ショーコ「マンドラゴラの栽培キットなんだけど、結構出回ってるみたい。 でも、実際にホレ薬にされるのは少ないみたいよ」
ユウ「どういうこと?」
ショーコ「あのマンドラゴラなんだけど、よく無くなっちゃうらしいの」
ユウ「無くなるって、盗まれるとか?」
ショーコ「わからないけど…… 歩いて逃げるマンドラゴラを見たって人もいるらしいの」
ユウ「まさか」
ショーコ「アタシも調べてみたけど幻覚効果もあるらしいじゃない、もしからしたらそれかも」
ユウ「とにかく謎で危険な植物ということのようね」
ショーコ「ホント、幻の植物とか言われるわけね。それで他にも万能薬とか長寿の薬になるとかあるけど」
ユウ「その辺はパパとクスシが今調べてるわ」
ショーコ「ねぇねぇ、もし大量生産できるようになったらウチに卸してくれない? ホレ薬ってだけでもヒットまちがいなしよ」
ユウ「コラコラ、得体のしれないモノで商売しようとしないでよ。 もともとなんでパパ達が調べてるか言ったわよね」
ショーコ「わかってるって、ホレ薬の解毒方法を調べてるんでしょ」
ユウ「そうよ、だいたい人の気持ちを薬でどーこーしようという性根が気にくわないわ」
ショーコ「でも、ひとつでいいから欲しかったなぁ。 それさえあれば玉の輿ワンチャンあったのに」
ユウ「ショ~コ~ 本気じゃないわよね」
ショーコ「やーねぇ、冗談よ冗談。 マジメなんだから」
男子生徒A「おーい、君たち。 まってくれたまえ」
ユウ(うわ、A)
ショーコ(『玉の輿』でもコイツはパスね)
ユウ「なにか用?」ムスー
ユウは露骨に嫌そうな顔をする。
男子生徒A「いやいやいや、そう邪見にしないておくれよ。 ただ、連休のお土産を君たちに渡したいだけだよ。 ホラ、王都の有名店のお菓子だよ」
ショーコ「あら、すごいわね。 でもどうせ女子全員に配ってるんでしょ」
男子生徒A「マイッタネ、否定はしないよ。 僕は博愛主義なんでね」
男子生徒Aは小奇麗な紙袋を渡してきた
ショーコ「ちょうど小腹がすいてたのよ、いただくわ」ガサガサ
ユウ「ちょっと、ショーコ」
ショーコ「なに、おいしいわよ」パクパク
ユウ(……異常は……ないようね)
男子生徒A「遠慮しなくていいよ、こういうと怒るかもしれないけど買込みすぎて食べきれないんだ」
ユウ「そう、だったらありがたく頂戴するわ、ありがとう」
ショーコ「ありがとね、A~」
ユウ(パパにあげたら喜ぶわ)
○ハルの喫茶店
ユウ「ただいまー」
トーゴ「おう、おかえり」
ユウ「……トーゴ 何してるのそのカッコで」
トーゴはエプロンを着ている。
トーゴ「あぁ、店の手伝いだ。 ハル達には薬の分析をやってもらってるからな」
ユウ「そんなこと言って、サボりの口実でしょ」
トーゴ「はっはっは、鋭いな。 支部にいると領主からの催促がうるさくてな」
ユウ「パパは部屋?」
トーゴ「あぁ」
ユウ「じゃあ、お茶いれておいてくれる? 呼んでくるから。 あ、これお茶菓子ねお皿にうつしておいて。 それとミルクもね、パパが使うから」
ユウはハルの部屋へ向かった。
トーゴ「まったく、遠慮のないところはオババそっくりになったな」カチャカチャ
階上からユウ達の声が聞こえる。
「パパー、休憩にしない?」「おかえりー。見てマンディーなんだけど……」「もう、お茶しながら聞くから」
○
テーブルに菓子とお茶が並べられていた。
ハル「あ、おいしそー」
ユウ「お土産にもらったの」
トーゴ「これ、有名なところのじゃないか」
ユウ「ふーん、それにしては形悪いのもあるのね」
ユウは一枚だけ混ざったいびつな菓子をつまみ上げる。
ハル「じゃあ僕のと交換しようか、こっちはキレイな形だよ」
ユウ「そんな悪いわパパ」
ハル「いいからいいから、食べたら同じだよ」
ハルはユウから菓子を取るとそのまま食べた。
ハル「……」
ユウ「パパ?」
ハル「ニガぁあああい!? うええええ」
トーゴ「おい、ハル」
ユウ「パパ、パパ!?」
○
カランカラン
男子生徒A「ここがユウ君のお宅かな? すまないさっき渡したお菓子に不良品が混ざっていてね……」
男子生徒Aがあらわれた。
ハル「ひゃ!? おにぃちゃん」ふらふら
ユウ「パパ!?」
ハル「お兄ちゃんお兄ちゃん!!」
ハルは男子生徒に縋り付く。
男子生徒A「なんだ君は!? ユウ君この子は弟さんかな? ……ユウ君どうしたんだい、なんともないのかな?」
ユウ「あーそう、貴方がねー、そういうこと~」ガタッ
トーゴ「手加減しろよ」ボソ
男子生徒A「うん?」
ユウのアイアンクロー、男子生徒Aの頭を締め上げる
男子生徒A「アタタタタタッ」
ユウ「パパになんてもの口にさせてんのよ! "放電"!!」
ユウのアイアンクリーが帯電し男子生徒Aを感電させる」
男子生徒A「アガガガ゙アアアア!!??」バリバリバリバリ
トーゴ「そろそろやめとけー」
ユウは手を離した。
男子生徒A「」プシュー
トーゴ「おーい、生きてるか? ……よかった、死んでない」
ハル「お兄ちゃん大丈夫?素敵なお兄ちゃん」
ハルは熱に浮かされたように男子生徒に纏わりつく。
ユウ「な……。 パパしっかりしてパパッ」
トーゴ「ユウ、無理だ、例のホレ薬だったらな」
ユウ「そんな」
○
トーゴ「じゃあ、あとは任せた」
ジャール「ハイ、たいちょー」
男子生徒Aはトーゴの部下に担がれていった。
トーゴ「さて…… ハルをどうするかだな」
ハル「おにいちゃんを連れてかないでーお兄ちゃーん」
暴れるハルをユウが押さえつけている。
トーゴ「まいったな、ハルがこうなるとは」
ユウ「こうなったら(仕方ない)……、"睡眠"」
ユウの睡眠魔法。ハルは眠ってしまった
ハル「すーすー」
トーゴ「そんな魔法も使えるのか、スゴイな」
ユウ「……それより、なんとか治さないと」
トーゴ「クスシを呼んでくる。 解毒の糸口くらいは掴んでもかもしれん」
○薬屋
トーゴ「クスシ、居るか?」
イケメンA「クスシさん今夜ディナーを一緒にどうだい?」
イケメンB「まてよ、俺の家に来いよ。 料理には自信があるんだ」
イケメンC「何をいう。 クスシさん今日はパーティーがあるのだが、僕と来て一緒に踊ってくれないか?」
クスシ「え~、どうしよっかな~。 そんな急にいわれても困るし~~」
キャッキャウフフフ
トーゴ「(……コイツ)クスシ、ちょっとおま」イケA「なんだね君は」イケB「黙ってろよ」イケC「こちらは忙しいのだが」
クスシ「あらトーゴ、ちょっと忙しいから後にしてくれる~」プイ
トーゴ(……ダメだコイツ後でなんとかしよう)
○ハルの喫茶店
ユウ「あ、クスシは?」
トーゴ「スマン、いろんな意味で手遅れだった」
ユウ「え?」
トーゴ「いや、居なかったよ。 ハルはどうだ?」
ユウ「私の部屋に寝かしてあるわ。 パパの部屋は今ごちゃごちゃしてるから」
トーゴ「そうか、ハルもまだ解毒方法は見つけるに至ってなかったはずだな?」
ユウ「えぇ」
トーゴ「参ったな。 ハルが一番の頼みの綱だったのだが」
ユウ「確認だけど。 この薬に被害者で元に戻った人はいないの?」
トーゴ「……あぁ。 まだ誰もいない」
ユウ「もしかして、……ずっとこのまま?」
トーゴ「……ワカラン。 とりあえず今から王都までいってくる、報告を上げてあるからあちらでも調べているはずだ。 手がかりがあるかもしれない」
ユウ「わかったわ」
○ユウの部屋
ハル「うぅん、んくぅ」
寝ているハルが苦し気に呻く。
ユウ(熱が出てる、苦しそう。 これは副作用かしら……せめて解熱剤を)
○ハルの部屋
ガチャ
ユウ(薬はこのあたりに……)ガサガサ
棚を調べ薬を手にしたユウはふと机の上に見慣れぬ魔導器を見つける。
ユウ「これは? 魔力拡大分析器……なんでこんなものが。 あ……このノート、マンドラゴラの記録だわ。 もしかしたら解毒の手がかりがあるかも」
―マンドラゴラ分析記録―
マンドラゴラの成分分析結果:若干の興奮作用がある他は東洋の人参に似る。
※ただ微かな魔力を帯びているのを感じる。
追記:魔力分析:38の微細な魔力構造。魔力による魅惑?→1種の呪いに近い?
ユウ「このあとは魔力構造の分析……(解呪の手がかりになるようなものは……)」ペラペラ
構造24:発芽溶液に使用された個人の因子がそのまま模倣された構造→呪術対象の特定に利用か
ペラペラ
構造37:『魅惑魔法』の呪術効果――
ユウ(すごい、この短期間でここまで知らべてある。構造までわかってるなら解呪は簡単ね)
――あまりに構造が小さく、現在の技術では解呪の魔力構造を作れない。 他の手段としては(記述はここで途切れている)
ユウ「作れない!? ここまでわかってるのに!? 嘘よ」
○ユウの部屋
ハル「ふー、ふー」
ユウ「パパ、すぐに治すから。 ……(あの構造だから)……"解呪"」
ハル「う、うう」
しかし効果はなかった。
ユウ「そんな、なんの反発もないなんて。 本当にスケールを合わせないといけないの!?」
ユウ(こんな微量な魔力にこんなに複雑な構造、無理だわ。 ……落ち着くのよ、だったら圧縮魔法の応用で)「…………"解呪"」
ハル「ぐぅ、ううう」
しかし効果はなかった。
ユウ(ダメ、これ以上圧縮できない……。 それにパパに負担が、何か他に方法は……)ユウ「そうだ、アレを使えば」
○
ユウは魔力拡大分析器を持ってきた。
ユウ(これの逆から魔力を流せば)「……"解呪"」
ハル「ん、あぁ」
しかし効果はなかった。
ユウ「もう一度……"解呪"」
しかし効果はなかった。
ユウ「お願いだから…………"解呪"」
パァン
魔力拡大分析器は魔力熱で壊れてしまった。
ユウ「あ、ああ……ウソ」
――あまりに構造が小さく、現在の技術では解呪の魔力構造を作れない――
ユウ「……そんな」
――治った者は、まだ誰も――
ユウ「……いや」
――ずっと、このまま――
ユウ「やぁ……ぁ……ぁあ」ポロポロ
○
マンドラゴラ「ミ」
ユウ「え?」
マンドラゴラが小鉢から躍り出てきた。
ユウ「な、なにこれ!? 動いてる!!」
マンドラゴラ「ミッミッ」スタスタ
――歩いて逃げるマンドラゴラを見たって人も――
ユウ「ホントに、歩くなんて。 でもどうして逃げないのかしら」
マンドラゴラ「ミッミッ」ぴょん
ハル「うーん、すーすー」
マンドラゴラ「ミーミー」スリスリ
ユウ(……パパに懐いてる)
マンドラゴラ「ミッミッミ」フリフリ
――見て、葉っぱを振ってるでしょ。 これ水を催促してるんだよ、もしかしたらこの子には自我が――
ユウ「何? 水が欲しいの。 パパは今寝てるから待ってなさい」
マンドラゴラ「ミー」
ユウ(言ってることがわかってるのかしら)
○
マンドラゴラ「ミ~」
マンドラゴラはカップの水に浸かっている。
ユウ「出汁とかでないのかしら?」
マンドラゴラ「ミ」ピョン
マンドラゴラはカップから飛び出した。
ユウ(このマンドラゴラをしかるべきところに出せば何かわかるかもしれないわね)
マンドラゴラ「ミーミー」スリスリ
ハル「すーすー」
ユウ「ダメよ、起こしちゃ。 起きても今は私たちの事は分からないわ」
マンドラゴラ「ミ?」
ユウ「えっとね、……魔法にかけられていてね。 多分、貴方が協力してくれたら治せるわ」
マンドラゴラ「ミ」コクコク
ユウ「わかったの? いい子ね」
マンドラゴラ「ミ~」
ユウ(トーゴに連絡しないと……)
マンドラゴラ「ミ~ミ~」ググッ
マンドラゴラは力を溜めている。
ユウ(まずは詰所にに電話して部下さん経由で王都に)
マンドラゴラ「ミ、ミミミミ」グググッ
マンドラゴラは力を溜めている。
ユウ「? 何してるの」
マンドラゴラ「ミッ」ポン
ユウ「花?」
マンドラゴラは花を咲かせた、あたりを不思議な香りが広がった。
マンドラゴラ「ミッミッ」フリフリ
ハル「う、ううん」
ユウ「パパ?」
ハル「ふぁ。 おはよう、ユウ。 もう朝? まだ真っ暗だけど……」
ユウ「……え?」
マンドラゴラ「ミー」ピョン
ハル「うわ、これってマンディー!? スゴイ、動いてる」
ユウ「な、治ったー!」ガバッ
ハル「ちょっとどうしたの、苦しいって」
○翌日・ハルの喫茶店
――以上のことからマンドラゴラの花の香りには魔力構造を分解して純魔力に還元する作用があり、これにより呪いを無力化出来ることが判明した。
ハル「これでいいかな?」
ハルは仕上げた報告書をユウに確認してもらう。
ユウ「いいんじゃない? あ、トーゴどうだった」
領主の所へ行っていたトーゴが戻ってきた。
トーゴ「一発で治った。ついでに一回りしてきたぞ」
ユウ「これでみんな解呪されたわね」
ハル「ありがとう。 マンディーもお疲れ」
マンドラゴラ「ミ」
トーゴ「報告書も出来たか」
ハル「できてるよ」
トーゴ「助かった、王都にも被害者が出ていてな。 この報告書とマンドラゴラを持っていくが構わないな?」
ハル「実験とか傷つけたりしないよね?」
トーゴ「貴重な魔法生物だからな、そういうことはないだろう」
ハル「そう、だったら大丈夫だね。 頑張るんだよマンディー」
マンドラゴラ「ミ」
トーゴ「じゃあ、そろそろ行くわ。 そうそう、クスシが荒れてるからフォローしといてくれ」
ユウ「やっぱり? わかった、フォローしておくわ」
ハル「もークスシは変わらないなー」
トーゴ「よし、行け」
トーゴは馬で王都へ旅立った。
ハル「いちゃったねー」
ユウ「これでホレ薬騒動もひと段落ね」
ハル「うん」
ユウ「……もしかしてマンディーが居なくなって寂しい?」
ハル「そんなこと……ないよ。 だって、……仕方ないんだし」
ユウはハルを抱きしめる。
ユウ「大丈夫、私が居るわ」
ハル「うん」
○数日後の深夜・古木のある丘の上
クスシ「あー、もう。 なによどいつもこいつも、一人くらい残ってもいいじゃない」ヒック
???「キラキラちょうだい キラキラちょうだい」
クスシ「うっさいわねぇ! 誰よ!!」
???「ここ、ここ そのキラキラちょうだい」
古木のウロから声が響いてくる、クスシはウロを覗き込んだ
クスシ「こんなとこに居るなんてバカなの……あ、ぅ……気持ち悪い」
???「キラキラちょうだい キラキラちょうだい」
クスシ「あ、ダメだ。 んぐ、オエエエエ……」
クスシは胃の中身をぶちまけた。
???「キラキラちょうだ……ぎょわぁぁああああああああああああああああああああああああああああああ!!??」
古木のウロから???が飛び出した。
クスシ「ふぅ。 今の何? ……まぁ、いっか。 飲みなおそ」
〇
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