第3話 そしてパパになる

○教会の墓場、オババの墓


ユウ「このお墓よね」

ハル「うん、近いのにずいぶんと来れなかったからね」

ユウ「3年か、けっこう経つのね」

ハル「そうだね…… よし、まず掃除しよう」


ハルは周囲に生えた雑草を抜き始める。


ユウ「ねぇ、パパ。 トーゴが言ってたんだけどオババが私を育てることを決めたんだって?」

ハル「そうだね。 あの日、山でユウを見つけて帰ったらオババがね……」


ハルは亡き叔母とユウを拾ってきたときの事を話し出す。


○16年前・夜 オババの薬屋


雷雨の中、村はずれの薬屋へハルは駆け込む。


ガラガラガラ


ハル「オババ……ただいま」


バタン


オババ「エルフ! いつまで薬草採りにいってるンだい、心配させて…… この子は?」

オババはハルが抱いている赤子に気が付いた。


ユウ「すーすー」


ハルは山で亡くなったユウの母親の事を説明した


ハル「回復魔法したのに……お母さんは助けれなかった……」

オババ「わかったから、この子は任せてアンタはもう休みな」

ハル「ありがとう、オババ」


トボトボトボ……バタン


オババ(……また父親のことを……。20年は経つのに)


オババ「さて、この子はどうしようかね、誰か里親を探してやるか、教会に預けるか、あたしじゃもう年だしね。フム」

ユウ「んばぁ」キャッキャ

オババ「おや、いい眼をしてるし元気で素直そうだ。 ……そうさね」


○翌朝

ハル「オババおはよう、今日は教会にその子を連れていくの? それとも他に……」

オババ「その必要はないわ、ハル。 あんたが育てなさい」

ハル「え?」

オババ「ハル、あんたがパパになりな」

ハル「え? ……えぇ!?」

オババ「おまえも40過ぎだろう、親になってもいいさね」

ハル「でも、店の手伝いだってあるのに」

オババ「フム、それは見習いでも雇うかな、お前は子育てに専念しな」

ハル「でも、そんなのしたことないのに」

オババ「誰でも最初はそうさ、基本的なことはアタシが教えてやるからやりな」

ハル「でも……」

オババ「お黙り! ぐだぐだ言わない。 それにアタシが間違ってたことはあったかい?」

ハル「……ないです」

オババ「よろしい」


○現在 オババの墓

ハル「それで僕がユウを育てることになったんだよ」

ユウ「そっか、オババのおかげだったんだ」

ハル「僕もオババには感謝しなくちゃ、ユウが居なかったら今頃どうなってたんだろ」


ハルの横顔はどことなく寂しそうである。


ハル(オババが居なくなって、ユウが居なくて、ひとりで……)


ユウ「パパ」ギュ

ユウがハルを後ろから抱きしめる。

ハル「ちょっとユウ、暑いって」

ユウ「そんな顔しないの、ちゃんと私が居るでしょ」ギュウギュウ

ハル「うん、わかったよ。 ホラ、花も飾らないと」

ユウ「えぇ、パパ」



剣士風の男が二人、歩いてくる、ダンとトーゴだ。


ダン「あ、ユウ」

ユウ「ゲ、ダン」


ダンがユウに話しかける。


ダン「最近会う暇がなかったしな、ちょうど良かった。 ユウ、オレの剣を受け取ってくれ」


ダンは跪いて剣を差し出した。


ユウ「メンドクサイわねぇ、いーらーなーいって言ってるでしょ」

ダン「そうはイカン。 お前には恩がある、まだ見習いだがいずれ騎士になる。 だからお前に剣を捧げることで返させてもらう」

ユウ「あーもー、いつまでも昔のことを。 第一アンタより私の方が強いでしょ」

ダン「む、『男三日合わざれば括目してみるべし』 オレが勝ったら剣を受け取ってもらうぞ」


ダンは剣を構える。


ユウ「万が一にアンタが勝っても受け取らないから」チャキ


チャキンチャキンチャキン


ダンとユウがたたかいはじめた。


ハル「え? ちょっとなにやってるの二人とも!?」

トーゴ「おぉ、ハル。 お前もオババの墓参りか」

ハル「トーゴ、なにをのんきに。 二人を止めないと」

ダン「……ハルさんご無沙汰しております。 これはオレとユウの問題ですから」カキン

ユウ「アンタが自身が問題そのものよ、私を巻きこまないで」カンカン

ハル「え、二人ってそんなに仲悪かったの」

トーゴ「仲良くケンカしてるだけだろ」

ユウ「違うから、仲良くはないから」シュカカカ

ダン「どうであれ、お前には恩を返す義務があるんだオレには」ヒュンヒュンヒュン


\イラナイッテイッテルデショーガ/ \ソウハイカン/


ハル「あーあ、昔はあんなに仲良かったのに」

トーゴ「そうだったか? 昔からこんな感じだったろう」

ハル「たしか橋を修理した頃だったよね、初めて合わせたの」

トーゴ「そうだな」



○8年前 夜、オババの喫茶店


カランカラン


ハル「オババ、ただいま」

トーゴ「ばぁちゃん。こんばんわ」

ハルとトーゴが喫茶店の扉をくぐる。

オババ「おかえり、トーゴもよく来たね」

ユウ「パパー、おかえりー」パタパタパタ

ハル「ユウ、まだ起きてたの?」

ユウ「パパが一緒じゃないとイヤ、一緒にねるの」

ハル「ユウ、僕はオババとちょっとお話あるから先に寝ててね」

ユウ「イーヤー、一緒がいいの。 パパが起きてるならわたしも起きてる」

トーゴ「ずいぶんと甘えん坊なんだな、ユウは」

ユウ「あ、トーゴ」

トーゴ「おう、こんばんわ」

ユウ「パパを勝手に連れ出さないでくれる。 困るんだから」

トーゴ「あぁ、悪い悪い。 ちょっと用事があったんだ」

ユウ「ほら、パパ。 はやく」

ハル「んー、オババと話したらすぐいくから……」

オババ「集会のことはトーゴから訊くからあんたはユウを寝かしつけてきな」

ハル「うん、わかった。 じゃあ行こうか」

ユウ「うん、パパ。おんぶー」

ハル「しかた無いなぁ、よいしょ。 ちょっと耳を持たないで、くすぐったいから」

ユウ「えーパパの耳、フニフニしてて好きー」フニフニ

ハル「あーもー、行くよ」

ユウ「ワーキャー」


ドタドタドタ……



オババ「一杯付き合いなさい、ハルはお酒に弱いからねぇ。 これも婆孝行だよ」

トーゴ「わかったよ、ばぁちゃん」

オババ「で、集会はどうなったんだい?」

トーゴ「やっぱりあの橋は修理することになったよ、事故も多いし。 頃合いだよ」

オババ「そうだねぇ、半分は底が抜けちまってたからねぇ。 あの橋が直ればここも人通りがよくなるだろうさ」

トーゴ「そういや、なんで急に薬屋辞めて、喫茶店なんて開いたんだ?」

オババ「旦那から教えてもらった東洋の料理を活かしたくてね。 わたしの長年の夢さ」

トーゴ「それなら、いいけど。 もったいないなぁ、ばぁちゃんいい薬師だったのに」

オババ「薬屋なら弟子がやってるさ。 それとあの子のためでもあるさ」

トーゴ「ユウの?」

オババ「それとハルのためだよ。 エルフだから薬師にはなれないってさ、くだらない法律のおかげでね」

トーゴ「オレに言われても」

オババ「トーゴ、あんたならなんとかできないのかい?」

トーゴ「オレはただの兵士だよ。 そんな権限はないよ」

オババ「あの人の孫ならそれくらいやってのけてみせて欲しいね。 ったく、仕方がないね」

トーゴ「それで、橋の修理なんだけど町の者からも人員を出すようになってさ、それでばぁちゃんは喫茶店だし、一番近いから食事や飲み物の提供をお願いしたいんだけど」

オババ「そんなことならお安い御用さ、店を宣伝するいい機会だわ」

トーゴ「……間違ってもこないだみたいな酸っぱい実の入ったお茶とかにしないでよ、普通のレモネードとかでいいから」

オババ「まったく『梅こぶ茶』の良さがわからないなんて、情けない。 まぁ暑いから普通のレモネードをこさえておくよ」

トーゴ「ありがとう。 ……ところでばぁちゃん訊いていい? どうしてユウを引取ることにしたんだ。 ハルも居るのに、オレや教会に任せてもよかったんじゃないのか?」

オババ「あんたのトコもダンが生まれたばかりだったろう? それにわたしが育ててるんじゃないさ、ハルが育ててるんだ」

トーゴ「ハルに? でもあいつは……」

オババ「なんだいあんた、ハルとは幼馴染じゃないか、あんたもあの子の事をとやかく言うのかい?」

トーゴ「それはないよ。 けど、あいつハーフとはいえエルフだ、オレがこんなにデカくなってもあいつはまだ子供のままじゃないか、それなのに子育てなんて」

オババ「ナリは子供のままだけど、ハルはあんたの親父と同じぐらいの歳だよ」

トーゴ「年齢的にはそうかもしれないけど、それでもハルはあまりにも」

オババ「子供っぽいかね。 そうだろうさ、何十年も山暮らしだったし、村に来てもアタシと二人きりじゃね。 だからこそ、『子供』が必要なのさ」

トーゴ「子供?」

オババ「大人ってのはね、子が居て、親になって、大人になっていくものさ。 一人でほっといたらいつまでも子供のままさ」

トーゴ「それでハルに子育てを」

オババ「アタシもそう長くない、だからハルには心身ともに……体は無理か、……精神的に大人になってもらわないと、心配で死んでも死にきれないよ」

トーゴ「大丈夫、ばぁちゃんは長生きするから」

オババ「よくいうわ。 あんたらやハルがいるとオチオチ老込むこともできんわ」

トーゴ「もう、そんなこと言って、……ばぁちゃんには敵わないよ」



トーゴ 「それじゃ、ばぁちゃん、ごちそうさま」

オババ「あぁ、気を付けて帰りな」


カランカラン


オババ「さて、ユウはちゃんと寝たかな」


○寝室


オババが寝室をのぞくとハルに抱き着いてユウが寝ている。


オババ「おやおや、よく寝てるね」

ハル「うん、すぐに寝ちゃったよ。 でも腕を離してくれないから動けないんだよね」

オババ「ホント。 すっかりパパだねぇ、ハル」

ハル「……ねぇ、オババ」

オババ「なんだい?」

ハル「本当に僕が『パパ』でいいのかな?」

オババ「……ハル、『パパ』はイヤなのかい?」

ハル「イヤじゃないけど、いいのかなって。 ごめん、うまく言えない……わからないよ」

オババ「わからないなら、わかるまではやりなさい」

ハル「うん」

オババ「それに、わたしが決めたことが間違ったとでも言うのかい? わたしが今まで間違ったことを言ったかい」

ハル「…………えっと、無いよ」

オババ「だろう、だったらいいのさ。あんたがパパでいいのよ」

ハル「……うん、ありがとうオババ」

オババ「もう寝な、おやすみ」

ハル「うん、おやすみなさい」


○数日後、橋の修復現場


ハル「ふー、やっとついた」

ユウ「とうちゃくー」

トーゴ「お、ハル。 お疲れ様、ばぁちゃんは?」

ハル「暑いから二人で行って来てって言われた」

トーゴ「だと思った、長生きするよあの人は」


ダン「……」ジー


ハル「あ、ダンくん? 大きくなったねぇ、こんにちわ」


ダン「!?」


ダンはトーゴの後ろに隠れながらもハルを見つめる。


トーゴ「済まない、結構人見知りでなコイツ」

ユウ「なに、パパの耳が気になるの? フニフニよ触ってみる」

ハル「ちょっとユウ、引っ張らないで」


ダン「いいの?」

ユウ「特別よ」


ダン「……」フニフニ

ユウ「フニフニでしょう」

ダン「うん、フニフニ」

トーゴ「ハル、あーなんか、その。 スマン」

ハル「うん……大丈夫、慣れてるから」


○河原


河原でダンとユウが遊んでいる、トーゴがそれを眺めているとハルがやってきた。


ハル「配り終えてきたよ」

トーゴ「お疲れさん」

ハル「はい、トーゴの分」


ハルがトーゴに瓶を渡す。


トーゴ「おう。 ふぅー、酒が飲みたいところだが、レモネードもたまにはいいな」

ハル「そうだねー、でも僕は『うめこぶ茶』の方が好きだな」

トーゴ「」ブハァッ

ハル「どうしたの大丈夫?」

トーゴ「いや、……教育ってスゴイなっておもっただけだ(ばぁちゃんに育てられなくてよかった)」

ハル「そう?」

トーゴ「そういや、この橋ってオレらが子供のころからボロかったよな」

ハル「そうだね、前にも修理したはずだけど、すぐに傷むんだよね」

トーゴ「知ってるか、この橋には昔からユーレイの噂があって。 雨の日に通りかかると下から透明な……」

ハル「ワ―ワ―ワ―、キコエナーイ。キキタクナーイ」

トーゴ「スマンスマン(変わってないなー怖がり)」

ハル「分かって言ってるでしょ」

トーゴ「いや、でも実際にこの橋は何故か事故が多いし、行方不明になるやつがあとを絶たなくて……」

ハル「ヤーメーテーって言ってるでしょー」

トーゴ「はっはっは。 さて、そろそろ俺も手伝うかな。」

ハル「もーう」

トーゴ「でも本当に危ないから、子供たちを見ててくれ」

ハル「うん、わかった」



ユウとダンが水切りをしている。


ダン「ねぇ、なんでハルってあんなに耳がながいの?」シュ


パシッ……パシッ……パシッ、ボチャ


ユウ「エルフだから耳が長いのよ」

ダン「ふーん、父上より小さいのもエルフだから?」

ユウ「そーよ、オババがそういってたからそうなのよ」

ダン「そっかオババがいうならそうだね、じゃあユウも大きくなったら耳が長くなるの?」

ユウ「残念だけどならないって、わたしは人間だから」

ダン「ハルがパパなのにユウは人間なの? おかしくない?」

ユウ「おかしくないわ、オババがそう決めたんだから」

ダン「そっかぁ、オババが決めたならそうなんだね」

ユウ「そうよ。 あ、パパだ。 行こう」

ダン「まって、いい石見つけたからこれを……」


???「」グワァア


半透明ななにかが現れダンを襲った!


ユウ「ダン、危ない!」


ユウはダンを突き飛ばした。


???「」バシャ


半透明ななにかはユウにのしかかった。


ユウ「キャアッ、なによ! このッ」


ずるずるずる


ダン「な、ああ、あ……」

ユウ「にげ……」


チャポン


半透明ななにかはユウを川に引きずり込んだ。 異変に気付いたハルが駆け付ける


ハル「ユウ!?」

ダン「あ……川から、へんなのが出てきてユウを……」

ハル「ダン君、大人の人を呼んできて、早く!」


ハルは川に飛び込んだ。


○川の底


ブクブク


潜るハルは川底に目を凝らす。


ハル(あれは…… スライムだ!)


半透明のなにかはスライムだった。


スライム「」ズルズル


ハル(そんな、山奥にしかいないはずなのに。 それになんて大きさ)

ユウ「」ブクブク

ハル(ユウ! どうしよう水中じゃ詠唱が……。 なんとかしないと)


ハルはユウの腕を掴んで引っ張った、しかしスライムはユウを離さない。


ユウ「」フルフル


ユウは怯えている。


ハル(ユウ! ……絶対助けるから)


ハルはユウに抱き付いた。しかしハルもスライムに捕まってしまった。


ユウ(そんなパパまで)フルフル

ハル(大丈夫、大丈夫……)ニコ


ハル「"水流"」ゴボボッ


ギュオオオオッ


ハルとユウの間に水流が生まれユウを川面へ押し上げた



バシャアン


ユウ「ハアハア、パ? パパぁ!!」


ユウが水面に浮かび上がった。


トーゴ「そこかユウぇ、今助ける。まってろー」

ダン「父さん、雨降ってきた」

トーゴ「お、おう(クソ、行けるか? 泳げないのに!!??)」


トーゴは飛び込みかねている。


ユウ「」ザブン


ユウは潜り、川底を覗き込んだ。


ハル「」ゴボゴボ


ハルはスライムに捕まったまま気を失っている。


スライム「」ズルズルズル


スライムはハルを包み込みさらに底へ引きずっていこうとしている。


ユウ(パパが死んじゃう!?)


ハルに手を伸ばしたユウが青白い光をまとう。


ユウ(いやいやいやーーっ!!)


ドドドォオオオオン!!


トーゴ「うおお!?」

ダン「ヒィ!」


川面に雷が落ちた。


スライム「!!??」バリバリバリ


電撃は水中に伝わりスライムを蒸発させた。


トーゴ「ら、落雷!? 川に?」

ダン「ユウ……」

トーゴ「そうだ、ハルッ、ユウッ」

ダン「父上あそこ」


プカ


ハルに抱き付いたユウが川面に浮かんだが二人とも気を失っている。


トーゴ「そこか、うおおおおおおお」


トーゴは川に飛び込んだ。



○現在 オババの墓


トーゴ「あの時の事でアイツはユウを恩人だと思ってるんだよ」

ハル「そうだったんだ」

トーゴ「そうだな、ハル。 あの時の事は俺も感謝してる、ありがとな」

ハル「やめてよ、何年も前だしトーゴこそ僕達を助けてくれたじゃない、泳げないのに」

トーゴ「泳げないんじゃない、泳がないんだ」

ハル「はいはい」

トーゴ「それでもたまに思うんだよ、お前達が居なかったらどうなってただろうかって、ダンも同じさ」

ハル「でも、あれは誰が居てもきっと同じことをしていたよ」

トーゴ「そうかもしれないが、お前の行動には驚いたぞ、あっという間に川に飛び込んだとか」

ハル「だってね、あんなに怖い思いしたの初めてだったよ。 ユウが居なくなるなんて思うの」

トーゴ(……ばぁちゃんが言ってたとうりだったな)

ハル「トーゴだってそうでしょ、ダン君を失いそうになったら、同じことしてたよ、きっと」

トーゴ「そうだな『パパ』さん」ナデナデ

ハル「ちょっと頭、撫でないで、子供あつかいしないでよ」

トーゴ「スマンスマン」

ハル「もーう、まったく」


カキーン


ユウがダンの剣を弾き飛ばした。


トーゴ「お、おわったか」

ハル「あーあ、もう。二人とも傷だらけじゃないか。ほらじっとして"治療"」

治癒魔法がユウとダンの傷をいやしていく。

ユウ「これでまた私の勝ちね」

ダン「……オレは女は切れんのだ」

ユウ「だったらまず吹っかけてこないでよ」

ダン「それはお前が俺の剣を素直にだな……」

ハル「ダンくん、そこすごい腫れてるじゃない、手だして」

ダン「……ハルさん」

ハル「うん?」


○8年前 橋の修復が仕上げにかかった頃


川原でユウとダンが遊んでいる。


ダン「あのさー、ユウ」

ユウ「んー、なに?」

ダン「あの時にさ、おれを助けてくれたよな」

ユウ「まー、たまたまよ」

ダン「だからさ、ユウはさ。 おれの『おんじん』なんだよ」

ユウ「ふーん、別にいいわよ、たまたまだし。 それに意味わかっていってる?」

ダン「分かってるよ、だからさ。 ユウに『おんがえし』したいだ」

ユウ「どうやって?」

ダン「だからさ……。 おれ、強くなって、ユウを守るよ」

ユウ「んー、いらない」

ダン「な! なんで!?」

ユウ「だって」

ハル「ユウー、ダンくん。 そろそろ帰るよ」


ユウがハルに抱き付く


ハル「どうしたのユウ?」

ユウ「だってハルがいるから」

ハル「ん?」


ダン「……ハルさん」


○現在 オババの墓


ダン「まだ、勝てないのか。 それとも……」ボソリ

ハル「うん? 君は十分強いよ、ユウに手加減してくれてるでしょ」

ダン「いや……(しまった口に出てたか)」

ハル「ん? 痛むの?」

ダン「いえ大丈夫です、ありがとうございます」

ハル「うん、よかった」



トーゴ「さて、墓参りもすんだし、なにか食べにいくか?」

ハル「ユウ? 先行くよ」

ユウ「えぇ、すぐ行くから」


ユウはオババの墓に祈る


ユウ(オババ……)


ユウはオババの最後の言葉を思い出す。


 ――ハルは寂しがりやだからね、お前が一緒にいて寂しさから守っておやり


ユウ(約束守ってるよ。 これからも、ずっとね)


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