12-4 面影
亡くなったお祖父さんのアルバム?
非常に気になる存在だ。
そもそも俺は管理人さん以外にエルフというものを見た事がない。管理人さんのご家族がどんな方なのか、目にするチャンスではないか。
「えっと、俺も良かったら見ても良いですか?」
「あ、はい」
管理人さんがかがんで開くアルバムを、後ろから立って覗き込む形になる。
ふとみると、管理人さんの大きな胸の谷間がシャツの首元から覗き出ていらことに気づいてしまい、俺の意識は一気にそちらに吸い込まれる。このアングルは危険だ。魅力が大きすぎる。
「えと、横で一緒に見ても良いですかね」
「えっ? ええ、大丈夫ですけど……」
「では失礼して」
俺は管理人さんの横に屈む。思った以上に近くに彼女の美しい顔が来る。胸が高鳴るのを感じた。
「これ、祖父と祖母が出会った時の写真ですね」
そう言った途端、管理人さんの腕が俺の腕に引っつき、先ほどとは異なる刺激が俺の脳を襲う。アルバムどころではない。
あかん。
あきまへんて。
こんなんあきまへんて!!
俺の脳内がスパークするのを感じる。右側から、右腕の上腕から! 俺の人生でも最高峰に幸せな感触が襲って来ているのだ!
管理人さんは意識しているのか、それとも無意識なのか、全く離れようとしない。なんなら先ほどより顔が近い。
静かな蔵の中で二人きり。
少し首を伸ばせば、管理人さんの柔らかそうな潤いのある唇。
これは行くしかないのか……?
俺が一人ですごい葛藤をしていると、不意に管理人さんの表情が変わった。一気に優しい表情になり、懐かしそうに彼女は目を細める。
「懐かしい。祖父と祖母と、私で撮った写真です」
目を落とすと、髭を生やした若々しい男性と、その隣に管理人さんそっくりの女性、そして女性の膝元に、可愛らしい赤ちゃんがすやすやと眠っている写真がそこにあった。
この写り込んでいる男女が祖父母だろう。赤ちゃんが管理人さんか。
お祖母さんは、よく見なくても管理人さんそっくりだった。お祖父さんは、何となく管理人さんの目元に面影がある。
「仲の良さそうなご夫婦すね」
「実際仲良かったですよ。仲よすぎて、お祖父ちゃんっ子だった私がやきもちするくらい」
「へぇ……」
「祖父も祖母も、本当に優しくて。家にいるのが嫌になったら、よく二人の家に行ってたなぁ。私、不良だったんですよね。だからよく家出してて」
「ちょっと不良には見えませんけどね」
「そりゃあ、この歳になると尖ってた部分も丸くなりますよ」
「不良時代の管理人さん、ちょっと見て見たかったす」
「残念でした」
たまに言われる意地悪な一言がたまらない。
ただ、それよりも、だ。
管理人さんのお祖父さんの写真を見て、何だか俺は引っかかるものを感じていた。それはアルバムのページが進むたびに深くなり、心をざわつかせる。
「これが祖父の晩年ですね」
「あっ」
そこで俺は思い出した。
「トムじいさんだ」
「トムじいさん?」
首をかしげる管理人さんに、俺は頷く。
「トムじいさんってのは俺たちが勝手につけたあだ名で、本名じゃないんすけど。毎週土曜に、俺の地元のスーパーで美味いフルーツクレープ作ってくれるお祖父さんがいたんすよね」
「それが祖父だと?」
「他人の空似かなって思いましたけど、この尖った耳と、耳にはめた金具? で良いんすかね。多分間違いないっす。なんか変わったフルーツで、甘酸っぱい味だったんすよね。祖父さんもいい人だから、近所の子供の溜まり場で。よくようもないのに遊びに行ってました」
「そのフルーツって、金色じゃありませんでしたか?」
「そうですね。なんか光ってました」
「それ、多分エルフの森で祖父が栽培してた果物です。よく収穫しては、売りに行ってたけど……まさか人間界に行ってたなんて」
管理人さんは驚いた様子でアルバムを見る。「イタズラ好きなとこは、昔から変わらないんですよね。でもまさか鳳さんと面識があったなんて」
「俺の方がビックリですよ。幼少期によく話してた人が、エルフだなんて思わないでしょ、普通」
「ですね」
俺たちは少し笑った。
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