12-3 倉庫

 昼時になり、俺たちは昼食を摂る。依然として、皆が帰って来る様子はない。


「本当に、皆さんにはガッカリです」

 プリプリと怒りつつ、管理人さんはパスタを皿に盛る。漫画に出て来そうなほどこんもりとしていた。

「まさかサボって出て行っちゃうなんて」

「まぉまぁ。俺も確かに驚きましたけど」


 それにしても、だ。

 皆が何も言わずに居なくなるのは、にわかには信じられなかった。

 ちゃらんぽらんな性格をしつつも、本質では皆、それなりにちゃんとしていると思っていたからだ。


 だからこそ、管理人さんの怒りはひとしお。

 家族の様に感じていたからこそ、すっぽかされた事が腹立たしいのかもしれない。


 そう思いつつも、二人でパスタをパクついていると、先に完食した管理人さんがどこからともなく紙を取り出して、机の上に広げる。それは如月荘の見取り図だった。


「午後は掃除機とモップとワックスですね。そのあと庭の手入れと……。鳳さんのおかげで順調ですから、夕方には終わるでしょう。晩御飯は出前で行きます。他の皆さんの分は知りません!」


 ふと庭にある見た事も無いスペースが気になり、俺は首を傾げる。

 庭の端の方に、確かに一つ、隔離されたスペースの様なものがあったのだ。


「ここって、建物がありますけど。こんなのありましたっけ?」

「あっ、いけない。ここ倉庫だった。忘れてました」

「倉庫なんてあったんすか」

「さっき話した祖父の遺品、実家に置いておけないから、うちに持ってきちゃったんですよね。ちょっと整理したいですし、廊下より先にこっちやっちゃいましょうか。パパッと」

「パパッとね」




 昼食を取り、庭に出た俺は倉庫を前にして黙る。

 そこにあるのは、倉庫と言うより、蔵だった。周囲に木々が生い茂り、土地の一番端にあったから全く気付かなかった。正確には、気付いていたが隣接する別の建物だと思って気にしていなかったのだ。ちょうど下の部分が木々に隠れる為、如月荘から見ると別の土地に存在する建物に見える。


「倉庫ってここすか」

「ここです!」

 管理人さんが笑顔で錠前を外し、扉を開ける。ギギッと重そうな音を立て、果たして扉は開いた。

 扉の先には積まれた木箱が大量に並んでいた。少し埃っぽく、かび臭い。一年間完全に放置されていたのだ。無理も無いだろう。


「あちゃあ、すっかり放置しちゃってたから、思った以上に汚れてますね」

「これ、今日中に終わりますかね」

「終わりますか、じゃ無くて終わらせるんです!」何か体育会系みたいなこと言い出した。「箱の中身は最小限の確認でいいですから、とりあえず掃除を進めちゃいましょう」

「承知」


 高く詰まれた箱を取り出しては下に降ろす。沢山あったので最初はたじろいだが、いざ持ち上げてみると一つ一つはそう重くなかった。管理人さんが掲げ上げられるくらいだから、それほど大した事はない。ただ、量が多いためじわじわと体力が削られていく。積み重なっていた箱をおろし終えた時にはすっかり額から汗がにじみ出ていた。


「管理人さん、箱の中身どうすか? 痛んでません? お祖父さんの遺品――」


 先ほどから静かな管理人さんの方を振り返ると、彼女は箱の中から取り出したであろう本を真剣な顔で眺めていた。

「管理人さん?」

 俺が近付くと彼女はハッとした様子で俺の方を見る。

「あっ! 違うんです! ごめんなさい! サボってたわけじゃなくて……ちょっと気になるものがあったから」

「気になるものって?」


 彼女は、ゆっくりと本の中身を俺に見せる。

 沢山の写真が貼ってある、白黒の本。

「亡くなった祖父の……アルバムです」



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