第4話 集合しちゃった
一時間後だ。
そう、
一時間後に、誘っていた女子も連れて、ここに来ると。
俺は帰って来ると、さっそく祈さんを共用リビングに呼び出して、事の次第を話した。
話を聞いた祈さんは、どこか面白そうに笑みを浮かべる。
「懇親会って聞いてたけど、合コンなんだ？」
「そうなります」
「へぇ、ちょっとおもしろそうじゃん」
「全然面白くないですよ。まさか管理人さんがＯＫするだなんて」
「確かにねぇ。お硬そうなのに。ねぇ管理人さん。何でＯＫしちゃったの？」
「えっ？ 何がですか？」
「何って、合コンよ、合コン」
「合……コン？」
管理人さんは首をかしげる。
どうやら本当に知らないらしい。
「楽しそうだから私はいいけどさ。安西さんはマズイんじゃない。一般の人に見せたら」
「えっ？ でも鳳さんは大丈夫でしたよ？」
「鳳君は頭逝ってるから、一般の人と一緒にしちゃダメでしょ」
「そうですよ、管理人さん。僕は特別なんです。あなたのために生まれた、特別製なんです」
「ほら」
「そうなんですか？ でも、安西さん優しいし、大丈夫じゃないですかねぇ」
「実際どうなの？ 鳳君の世界の人たちに安西さん見せて、大丈夫だと思う？」
「処理班とか出てくると思います」
「処理されちゃうかぁ」
安西さんが処理される姿が浮かぶ。
悲壮感しか沸かない。
その時、リビングにおいてある共用電話が鳴った。
管理人さんが「はいはい」と電話に出る。
「あぁ、安西さん。どうしたんですか？ えっ？ そうですか、それは残念ですね。ええ……そうなんです。みんな楽しみにしていたんですけど……はい、はい。それじゃあ、頑張って」
しばらく話した管理人さんは受話器を置くと、残念そうな顔で「安西さん、今日遅くなるそうです」と声を出した。
話し声からだいたい予想はついたが、やっぱりか。
「職場に勇者さんが現れたとかで、今戦争中みたいで」
電話かけてる暇あんのか。
「それって大丈夫なの？ 安西さん死なない？」
「大丈夫だと思います。……多分」
「言っても、社食担当なんだから大丈夫じゃないすか？」
「勇者が魔物の担当箇所把握して戦ってくれるわけないでしょ」
とにかく、皮肉にもこれで唯一の懸念点は排除された訳か。
安西さんが死ぬかもしれないという可能性はこの際置いておこう。
「安西さんいないんじゃ、懇親会どうしましょう……」
「いいんじゃないの？ どうせもう来るんでしょ？
「断っても来るでしょうね」
微妙な空気が流れる中、玄関から「こんばんはー」と陽気な声が聞こえて来た。
仕方なく俺が出る。
玄関にはやたらとオシャレした今泉と、その隣に上品そうなボブカットの女性が立っていた。割と可愛い。
これが例の合コン参加者か。なるほど、正直好みだ。
「なんだ、お前かよ」
今泉は俺を見てあからさまに顔をしかめると「まぁ良いか」とため息を吐く。
「こちらは俺と同じ英語のクラスの」
「高垣梢です。どうも始めまして」
「あ……どうも、鳳です」
女性は紹介を受け、ぺこりと挨拶をする。
仕草が何だか上品だ。
良いところのお嬢様なのかもしれない。
「あれ？ もう一人来るって行ってなかったっけ？」
「幹事の女は来れなくなった」
「そうなんだ」
残念ではあるが、それはそれで好都合だ。
部外者は少ないに限る。
「まぁ、立ち話もなんなので、奥にどうぞ」
二人をリビングに案内すると、テーブルに座っていた祈さんが「ヤッホー」とやる気なさそうにひらひらと手を振った。
その瞬間、今泉の目が獣のようになったのを、俺は見逃さない。
祈さんの服装は、かなりラフだ。
胸元も緩いし、モデルみたいな体型をしている。
顔も整っているから、刺激が強かったかもしれない。
今泉は露骨に表情筋を緩めると「これはこれは」と頭を下げた。
「お初にお目にかかります。僕、鳳君の学友で」
「今泉君でしょ。聞いてる聞いてる。ま、二人とも、座んなよ」
「はっ、失礼します。梢ちゃん、こちらに」
「あ、はい、どうも」
祈さんの横に梢さんが座ることになり、俺が今泉の横に座る形になった。
座った俺に、今泉が耳打ちする。
「おい、どういう事だよ。管理人さんの他にこんな美人がいるなんて。エロいし」
「お前に情報共有する理由はない」
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