2話 混在する二つの記憶
――私は「
私は「ミェルシェ」で6歳じゃ……?
「一体どうしちゃったの……?」
あれ? 今喋った言語は……?
……とりあえず冷静になろう。
私は「輝」だった。――
今は紛う事なく、「ミェルシェ」という名前で呼ばれて生活している。少なくとも、ここで産まれてからはそうだ。
だった、って言うと、その後……あー、なんか思い出してきた感じがする。
私は死んだ……いや、死んではないのかな? それはどっちでもいいんだけど、転生だっけ? それをしてここに来たんだっけ?
……ヤバい、自信がないや。早めに来てくれると状況が把握、というか、この記憶に確証が持てるんだけど……。そんな甘い考えじゃだめだよね……。
……今は待とう。きっと来てくれる。……自信は全くないけど。
「どうした?」
魔法院(魔法を教える場所。学校とはまた違う)の先生から魔法の実技指導をして貰っている途中だった。
どうやら、考え事をしていて、目の前の事に集中できていなかったみたいだ。まあ、そんな器用な事を出来る体じゃないけど。
「すみません、少し考え事をしていて……」
「そうか、あんまり気を抜いていると怪我することもあっから気をつけろよ?
で、なんだ? その考え事ってのは」
気を使ってだろう、先生は注意して、気が滅入らないように少し話を聞いてくれる姿勢に移った。
ふと、記憶の中で気がかりだった事を先生に質問してみた。
「あの……防御魔法ってないんですか?」
「あん? 防御魔法? ……ないって事はないんだがな……」
「珍しいんですか?」
「まあ、そんなところだ。俺も使えねえしなっ!」
そこは自信持って言う事ではないと思うんだけど……。
とりあえず今の所、前世の記憶(仮定)に矛盾点はないみたいだけど……。
「で、急にどうしたんだ? なんだ、それを使いたくなったのか?
まあ、俺が知っていたとしても、教えねえけどな」
「え? どうしてですか?」
「なんだあ? 今日はやけに喰い付いてくるじゃねえか。
……まあ、今は人もいねえし、休憩って事でちょっと話してやるよ。ほら、こっち来い」
誘導されて、すぐ近くの椅子に座る。
椅子の座り心地は正直悪い。
しょうがない、魔法院なんて所詮、魔法の普通教育が受けられない人が、必要最低限の魔法を覚えるために作られた、慈愛の建物なのだから。
今やそんな事はどうでもいい。もう慣れたし、言った所で我儘だって事は判っているから。
「さて、防御魔法だっけか? まあ、知っていた所で教える奴はいねえな」
「どうしてですか?」
「まあまて、今から言う。
まず1つ、防御魔法は難しい。これだけはホントにどうしようもねえ。魔法が比較的使いやすくなった今も伝説とされる位だ」
そんなに難しいのか……。
まあ、魔法の事なんか触り程度にも触れていない私が「そうなの?」とか言えないけどさ。
「次、何と言っても弱い。棒切れで殴っただけで壊れる位の軟い物らしい。まあ、使える奴が少ないから、噂程度だけどな」
建築系の知識があれば、それなりに強い奴を作れそうなものだけどな……。
まあ、これも私があーだこーだ言う事でもないけど。
「最後にだが、これが一番の難点だな。著作権だ。まあ、人の作った魔法を勝手に使っていい訳じゃねえんだ」
――著作権。この世界にもあったんだ……。
ん? でも、著作権があるって事は――
「魔法って販売出来たりするんですか?」
「あ? ああ、まあ、そういう感じの商売もない事はないが……どうした? 今日はやけに頭が回るじゃねえか」
「少し気になっただけですよ」
そう言って、子供らしい笑みを浮かべた。
そう、私はまだ子供なんだ、それも6歳の。これから何か始めようとしたって遅くない。
私にはこの記憶・知識と、それに神様だってついているんだ。何だって出来るだろう。
「先生、続きやりましょう?」
そう思うと自分に自信が付いてくる。
――ありがとう。
きっと、こんな感謝じゃ足りないんだろうけど。
「おう、やる気だな! よし、やるか!」
先生が重い腰を上げた、その時――。
「えっと、ここ?」
「そうみたいだね、ここから――あれじゃない?」
突然入って来た2人組に、あれ呼ばわりされて指されたのは私だった。
あれ……? どっかで見た事が……。
――もしかしてだけど、神様!?。
「ちょっといいですか?」
先生に一言断りを入れる。
まあ、ダメと言われても行くんだけどね。
一歩一歩重役のようにゆっくり歩きながら、入って来た2人を観察する。
間違えていたら、かなりヤバい状況だ。あの2人組は、魔法院に無礼に入って来た2人という事になる。6歳の少女が敵うはずがない。それどころか、誘拐されてもおかしくはない。決して治安がいい訳ではないのだから。
……見違えじゃない……よね?
「この子で間違えないな」
「だね」
――え、誘拐されちゃう感じですか?
「違う違う、話したでしょ? 教えに行くって」
その言葉を聞いた瞬間、肩から力が抜けるのを感じた。
ああ……間違ってなかった。よかった……。
時空間の管理者 茶にゃ @tyanya
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