2話 混在する二つの記憶

 ――私は「テル」。15歳――――え?

 私は「ミェルシェ」で6歳じゃ……?


「一体どうしちゃったの……?」


 あれ? 今喋った言語は……?

 ……とりあえず冷静になろう。


 私は「輝」だった。――

 今は紛う事なく、「ミェルシェ」という名前で呼ばれて生活している。少なくとも、ここで産まれてからはそうだ。

 だった、って言うと、その後……あー、なんか思い出してきた感じがする。

 私は死んだ……いや、死んではないのかな? それはどっちでもいいんだけど、転生だっけ? それをしてここに来たんだっけ?

 ……ヤバい、自信がないや。早めに来てくれると状況が把握、というか、この記憶に確証が持てるんだけど……。そんな甘い考えじゃだめだよね……。

 ……今は待とう。きっと来てくれる。……自信は全くないけど。



「どうした?」


 魔法院(魔法を教える場所。学校とはまた違う)の先生から魔法の実技指導をして貰っている途中だった。

 どうやら、考え事をしていて、目の前の事に集中できていなかったみたいだ。まあ、そんな器用な事を出来る体じゃないけど。


「すみません、少し考え事をしていて……」

「そうか、あんまり気を抜いていると怪我することもあっから気をつけろよ?

 で、なんだ? その考え事ってのは」


 気を使ってだろう、先生は注意して、気が滅入らないように少し話を聞いてくれる姿勢に移った。

 ふと、記憶の中で気がかりだった事を先生に質問してみた。


「あの……防御魔法ってないんですか?」

「あん? 防御魔法? ……ないって事はないんだがな……」

「珍しいんですか?」

「まあ、そんなところだ。俺も使えねえしなっ!」


 そこは自信持って言う事ではないと思うんだけど……。

 とりあえず今の所、前世の記憶(仮定)に矛盾点はないみたいだけど……。


「で、急にどうしたんだ? なんだ、それを使いたくなったのか?

 まあ、俺が知っていたとしても、教えねえけどな」

「え? どうしてですか?」

「なんだあ? 今日はやけに喰い付いてくるじゃねえか。

 ……まあ、今は人もいねえし、休憩って事でちょっと話してやるよ。ほら、こっち来い」


 誘導されて、すぐ近くの椅子に座る。

 椅子の座り心地は正直悪い。

 しょうがない、魔法院なんて所詮、魔法の普通教育が受けられない人が、必要最低限の魔法を覚えるために作られた、慈愛の建物なのだから。

 今やそんな事はどうでもいい。もう慣れたし、言った所で我儘だって事は判っているから。


「さて、防御魔法だっけか? まあ、知っていた所で教える奴はいねえな」

「どうしてですか?」

「まあまて、今から言う。

 まず1つ、防御魔法は難しい。これだけはホントにどうしようもねえ。魔法が比較的使いやすくなった今も伝説とされる位だ」


 そんなに難しいのか……。

 まあ、魔法の事なんか触り程度にも触れていない私が「そうなの?」とか言えないけどさ。


「次、何と言っても弱い。棒切れで殴っただけで壊れる位の軟い物らしい。まあ、使える奴が少ないから、噂程度だけどな」


 建築系の知識があれば、それなりに強い奴を作れそうなものだけどな……。

 まあ、これも私があーだこーだ言う事でもないけど。


「最後にだが、これが一番の難点だな。著作権だ。まあ、人の作った魔法を勝手に使っていい訳じゃねえんだ」


 ――著作権。この世界にもあったんだ……。

 ん? でも、著作権があるって事は――


「魔法って販売出来たりするんですか?」

「あ? ああ、まあ、そういう感じの商売もない事はないが……どうした? 今日はやけに頭が回るじゃねえか」

「少し気になっただけですよ」


 そう言って、子供らしい笑みを浮かべた。

 そう、私はまだ子供なんだ、それも6歳の。これから何か始めようとしたって遅くない。

 私にはこの記憶・知識と、それに神様だってついているんだ。何だって出来るだろう。


「先生、続きやりましょう?」


 そう思うと自分に自信が付いてくる。

 ――ありがとう。

 きっと、こんな感謝じゃ足りないんだろうけど。


「おう、やる気だな! よし、やるか!」


 先生が重い腰を上げた、その時――。


「えっと、ここ?」

「そうみたいだね、ここから――あれじゃない?」


 突然入って来た2人組に、あれ呼ばわりされて指されたのは私だった。

 あれ……? どっかで見た事が……。

 ――もしかしてだけど、神様!?。


「ちょっといいですか?」


 先生に一言断りを入れる。

 まあ、ダメと言われても行くんだけどね。


 一歩一歩重役のようにゆっくり歩きながら、入って来た2人を観察する。

 間違えていたら、かなりヤバい状況だ。あの2人組は、魔法院に無礼に入って来た2人という事になる。6歳の少女が敵うはずがない。それどころか、誘拐されてもおかしくはない。決して治安がいい訳ではないのだから。

 ……見違えじゃない……よね?


「この子で間違えないな」

「だね」


 ――え、誘拐されちゃう感じですか?


「違う違う、話したでしょ? 教えに行くって」


 その言葉を聞いた瞬間、肩から力が抜けるのを感じた。

 ああ……間違ってなかった。よかった……。

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時空間の管理者 茶にゃ @tyanya

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