プロローグ5

「相席しても大丈夫ですか?」

 金髪の少年に笑顔を振り撒きながら訊く。

「勿論いいよ。キミみたいな可愛い子の相席を断るなんて、そんな無駄はしないよ」

 少年は、少女の作り笑顔よりも幾段素晴らしい笑顔を浮かべた。

 リーフィは内心舌打ちをしながら、少年の向かいの席に座る。

「君にはこの酒場には似合わないね」

 皮肉も込めてそう吐き捨てた。

「キミもね」

「…………」

 どうしてだろうか、この少年にはとても敵いそうにない。それどころか、簡単に負けてしまうような気がしてならない。

 相手から依頼主だと自白させるのは無理そうだ。仕方ない、どうせ時間の無駄になるだけだろう。

「君が依頼主? とても気分が悪くなるような、あの依頼の」

 せめてと、言霊に皮肉を乗せる。

 子供じみてる? 16歳だ、大人になるにはまだ早い。せめて悪足掻き位させてくれ。

「――ちゃん?」

 ――――え? 今、何て言った?

「りーちゃん?」

 こいつは確かに私の愛称を呼んだ。


 こいつは知らないはずだ。


「りーちゃん!」

 その声が意識を引き剥がしていく。この世界にいる資格を奪ってくる。

「ああ、そうか」

 あいつだ、ただのバカの仕業だ。


 ――遠のく意識の中で、私はあのバカの顔を思い浮かべ、ただただ微笑を浮かべた。


   ◇◆◇◆◇


「りーちゃん!」

 起きた瞬間、目の前に顔があった時、どうすればいいだろうか。

 キスでもすればいいだろうか。そんな腹筋が疲れそうな事をする気はない。

 とりあえず、頭突きを食らわせた。

「いてっ!」

「よし!」

「何が『よし!』だよっ!」

 したかったガッツポーズまで入れて再現してくれる唯一神ただのバカ


「で、何の用ですか?」

 転生の時期は忙しいはずだが……サボりだったら即刻追放かな?

「さ、サボりじゃないよ!?」

 成程、これが以心伝心か。悪い例のな。

「えっとね、あの……そ、そう! 転生者の話だけど!」

「あ! 何で日時言わないで行ったんですか!?」

「もう来てるんだよね……」

 もう来て――「え?」

 目を逸らしている神様の後ろを見てみると、既に1人の転生者らしき人がそこに立っていた。

 溜め息1つ吐くと、不自然な程の満面の笑みを浮かべて一言、

「強制追放」

 管理者の特権で神を時空間から追放させた。


「さて、女の子か……」

 1人目の転生者は14位の少女だった。

 きっと満足に青春を送れなかったのだろう。胸が痛くなる。

「あ、あのー……」

 か細い声が耳に届いた。

「ん?」

「あなたって、神様なんですか?」

「あー……」

 随分突飛な事。

 まあ、聖書かそれに近似した書物を読めばそう感じるのか、もしくはこんな状況に置かれたらそう思うのか。どちらにせよ、判りやすく説明した方がいいからな……。

「まあ、そんなものかな? 創造神とはちょっと違うけど」

「創造神とは違う――とは?」

 うん、やっぱり判らないよね。神様といったら全知全能が普通だからね。

「ヒエラルキーって知ってるかな? その頂点が創造神とすると、その下辺りが私たちって感じになるの。経営だって、大規模な所だと創設者1人じゃ足りないから、他にも経営者がいるでしょ? そんな感じに成りっ立っているのよ」

 少女は少し首を傾げてから、何となくぎこちなかったが、首を縦に振った。

「もう、あの世界には戻れないか……」

 少女が儚げに笑う。

 気持ちは判る、何て言ったら馬鹿にされるだろうか。世界の混沌をなくすために殺す位は今でもするのに……。それがなくても、この手は穢れているのに……。傷心なんて今更だよね。

「ごめんね……」

 意識外で口から懺悔の言葉がこぼれる。

 ――一体、誰に対しての言葉だったのか。

 その言葉を聞き、虚ろな笑みを浮かべていた少女が我に返った。

「え、いや、あの……そういう意味じゃなくて! えっと……す、すみません! そういうつもりじゃないんで、謝らないで下さい!」

「あ……ごめん。色々思い出しちゃっただけ、気にしないで」

 ――――。重い沈黙。

「そうそう、名前を訊かないといけないんだった。私はリーフィ、君は?」

「テルです」

「テルか、可愛い名前だねー。えっと? 元の世界では、『魔法』がなかったんだって?」


 ――『魔法』。

 それは、星の持つエネルギーを元にして顕現させる力の事。

 強い意志によって形成すると、変換効率が良くなり、より強い魔法を出す事が出来るの。

 理論上、星があれば魔法を使う事が出来るのだが、魔法が使えない地域や星もある。

 その理由は、大きく2つある。


 1つ目は、その星自身がエネルギーを放出しない、しにくい構造になっている場合。

 2つ目は、その星の住人が魔法自体を知らない場合。


 この世界も、かつては魔法の存在を知らなかった。

 だから、自衛の手段としてその存在を教えてあげた。

 火のない所に煙は立たぬとは良い例えだ。火を与えたところ、あっという間に煙が広がった。なくてはならないものとなっていった。

 現在、魔法はあらゆる世界、時空間で使われるようになっている。むしろ、今時だとない方が珍しい位になりつつある。


「それじゃあ、説明をするね? 長くなるから座ろうか」

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