最終章 杏太郎のオークション
056 最終章 杏太郎のオークション
彼の名前は『ユウジーン・ノキズオーク』という。
杏太郎より3歳年上の18歳だそうだ。
ユウジーンは、細身で身長が180センチ近くある。だから、杏太郎を上から少し見下ろす感じでしゃべることになる。
けれど高い身長とは逆に、彼のしゃべり方や態度なんかは、とても低姿勢だった。
自分よりも年下で身長の低い杏太郎に対しても、偉そうにすることがない。
二人が仲の良い友人だということは、見ていればわかった。
俺たちは杏太郎の出身地の近くまで来ていた。
周囲には草原が広がっている。
ずいぶん先には都市が見えていた。
大陸で一番の商業都市らしく、そこが杏太郎の出身地だ。
元四天王たちだけど、魔王の城から出た後、それぞれ自分たちの
シャンズたち『勇者様御一行』は、別行動をしている。
彼ら四人組は『魔王』を
シャンズに『勇者』の称号を与えてくれた大神殿に行ったり、冒険の途中でお世話になった人々にお礼を言いに行ったりしているのだ。
ゲームでたとえるなら、勇者様御一行はエンディングの
杏太郎が魔王を落札した後、この世界の凶暴だった魔物たちは、あきらかに穏やかになった。
きっと世界中の人々が、『勇者様が魔王を倒してくれた!』と、うすうす気がついていると思う。勇者様たちの武勇伝は、これから世界中に広がっていくことだろう。
シャンズたちが旅を続ける一方で――。
杏太郎は、両親や家族との約束を守らなくてはいけない。もう、自由に冒険の旅を続けることができないのだ。
魔王の城を出た後、彼は帰宅するためにすぐ移動をはじめたのである。
馬車に何日も乗ったり、途中の町で休んだりしながら、ようやく杏太郎の家の近くまで帰ってきた。
いっしょにいるのは、俺と黒ずきんさん、女剣士とコンチータ、そしてユウジーンである。
ちなみに魔王は、いっしょにいない。
杏太郎が魔王に、こんな命令をしたからだ。
『狐面の男にかけた呪いと
魔王の話によると、狐面の男は遠い東の島国からやってきた人間だそうだ。
この世界の人間たちが『恋愛に
人間が恋愛に臆病になった原因――。
それは『封印された魔王』だった。
杏太郎に落札され後、仲間になった魔王が、俺たちにこう打ち明けた。
「封印される前、我は世界を呪った。『人間が恋愛に対して臆病になる呪い』をかけたのだ。下等な生物である人間どもが、うじゃうじゃとこの世界に増えぬようにと――」
当時の魔王は、人間を下等生物とみなしていた。
人間たちが地上の支配者のように振る舞っていることが我慢できなかったらしい。
魔王は、ご主人様であり『人間』である杏太郎の顔をちらっと見てからこう言った。
「しかし我は……今は人間のことを下等生物だなんて思っていない……」
人間が魔王のご主人様となってしまった。
魔王の人間に対する態度も、これから変化していくことだろう。
とにかく、魔王が世界中の人間に『恋愛に臆病になる呪い』をかけたというのは事実だそうだ。
人間が恋愛に臆病になれば、この世界で人の数が増える速度もゆるやかになるという考えだった。
そんな魔王も、何百年も前の戦いで一度、人間たちの手によって封印されていたのだけど、『人間が恋愛に臆病になる呪い』は解けておらず、現在に
そして、俺たちが『狐面の男』と呼ぶ人間は、今よりも20年くらい前に『恋愛の呪い』の原因が、封印されている魔王であることを突き止め、単身で魔王の城に乗り込んだのである。
当時はまだ、魔物たちは魔王に操られておらず穏やかに暮らしていた。だから、周囲の魔物たちに気をつけていれば、単身でも乗り込めたのだろう。
フェニックスも洗脳されておらず、魔王の城へと続く道も燃えていなかったので通行可能だった。
男は、魔王の城の祭壇で階段を見つけ、
それから男が、『恋愛の呪い』に関する調査をしようとした
魔王はこう言った。
「何百年もの間、我は地下で一人で過ごしていた。そこにあの男がのこのことやってきたのだ。封印されて動けぬ我は、男を洗脳し、我の手足となって働いてもらった。あの男にはその代わりに、肉体が老化しない呪いをかけてやった。我の封印が完全に解けるまで、何十年でも魔王の手先として生き続けてもらうためにな」
魔王の話が本当であれば、狐面の男は20年近く魔王の手先として活動していたことになる。
けれど、狐の面をはずしたときに見た彼の顔は、どう見ても20代そこそこの若者の顔だった。
老化しない呪いは本当だったのだろう。
ずっと敵だと思っていた狐面の男――。
彼は実は、人間たちの恋愛問題を解決しようと頑張った正義の人物だったのだ。
杏太郎は、魔王にこう命じた。
「人間にかけた『恋愛に臆病になる呪い』も解くように」
そんなわけで魔王は今、魔王の城に残って、『人間全体』と『狐面の男』にかけた呪いを解いている。
呪いを解くには、まだまだ時間がかかるみたいだ。
今後はきっと、この世界の人々は少しずつ恋愛に臆病なことを克服していくだろう。
俺たちは、杏太郎の出身地の都市には足を踏み入れず、その手前の草原で人を待っていた。
やがて、ユウジーンが持っていた魔法携帯電話に着信があった。
「もう、近くまで来ているみたいだよ」
ユウジーンが俺たちにそう言ってからしばらくすると、金髪の女の子が馬に乗って一人でやってきた。
オレンジ色の豪華な服を身につけており、一目見てお金持ちだとわかった。
杏太郎が苦笑いを浮かべながら言う。
「おいおい、ここまで一人で来たのか。あいかわらず、おてんばだな……くくくっ」
事前に聞いていた話だと、女の子は16歳で杏太郎よりもひとつ年上らしい。
金髪をツインテールにしており、両目はつり目気味で気の強そうな印象を俺は受けた。ここまで一人で馬に乗って来るくらいだから、かなりアクティブな性格のお嬢様なのだと思う。
そして、金髪ツインテールの彼女が、『杏太郎の
許嫁の少女は馬から降りると、こちらに向かってまっすぐ駆けてくる。
彼女は涙を流し、
「ずっと会いたかったわ! 愛してる! ユウジーン!」
ユウジーンは彼女をしっかり受け止め、きつく抱きしめる。
そう……。
とても
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