第4章 はじめてのダンジョン
018 第4章 はじめてのダンジョン
地上に落ちたガーゴイルみたいな魔物は、気絶しているようだった。
どうやら死んではいない。
背中に生えたコウモリみたいな羽の片方に穴が空いている。俺の投げた石のせいだ。
さて――。
俺は杏太郎たちと合流することを考えた。
黒ずきんさんを助けにいくのに、みんなの力を貸してもらった方がいいだろう。
気絶しているこの魔物が意識を取り戻したら、どこが
そんな感じになるだろうか?
魔物は平均的な成人男性よりも大きかった。
道案内させるにしても、こんなデカい魔物を連れて町中をウロウロするわけにもいかない。
そうだ!
気絶している魔物を、ひょいっと抱えて俺は建物に戻った。
木製の貨物コンテナを調べると中身が入っていないものがあったので、気絶している魔物を押し込む。
「確かこの異世界だと、こうやって右手を前に出したりして、心の中で念じたらアイテムが収納できたような」
試してみるが、コンテナは収納できなかった。
「まあ、なんでもかんでもしまえるわけじゃないんだろう。しまえないアイテムもあるって杏太郎も言っていたしなあ……」
魔物が入っているコンテナは収納できないみたいだった。
仕方なく俺は、魔物をコンテナごと持ち上げる。そして、町の宿に向かおうと動き出した。
山賊の男が色仕掛けにやられて決めた宿屋に着けば、たぶん杏太郎たちと合流できるような気がするのだ。
すると――。
俺の足もとでウロチョロしているものがいた。スーツの泥を集めて作られた、小さなゴーレムだ。手のひらに乗せられるくらいのサイズの泥人形である。
あれ……?
もしかしてこいつが動いているかぎり、黒ずきんさんは生きているとか、そんな感じなんだろうか?
小さな泥人形は、俺に敵意を向けていない様子だった。
黒ずきんさんの命令がなければ、襲ってこないのだろう。
「なあ、お前。ご主人様がいる場所はわかるか?」
小さな泥人形は、首を横に振った。
「おお! こいつ、反応するのか!?」
ちょっと可愛いな。
でも、黒ずきんさんの居場所までは、さすがにわからないのか。
それでも、こいつは何かの助けになるかもしれない。
「よし、連れて行こう!」
スーツの泥を集めて作られた泥人形なので、『スーツ太郎』と名付けた。
老夫婦が自分たちの身体から出た大量の
あの話を参考にするのなら『泥太郎』と名付けるべきなのかもしれない。
けれどまあ、そこまで参考にする必要もないだろう。
俺はスーツ太郎をコンテナの上に乗せると、町の宿に向かって走り出した。
杏太郎のドーピングのせいで、やはり俺は人間離れした身体能力を身につけてしまっていた。
魔物を詰め込んだ木製のコンテナを持って走れただけでも異常なのに、息切れひとつしなかったのだ。
宿の店先には青髪の少女が一人でいた。
青と白を基調としたフリフリの可愛らしい服を身につけたコンチータだ。13歳の少女が、頭のてっぺんの黒いリボンを
「
コンチータがペコリと頭を下げる。
「コンチータ、心配かけてごめん。至急の用事があるんだけど、杏太郎たちは?」
「お兄ちゃん様と山賊さんは、二人で柊次郎様を捜しています」
「女剣士は?」
「ナーヤ様は、酔っ払って部屋で寝ています」
あいつ……。
まあ、あの女剣士はそういうキャラか。
「じゃあ、ここで待っていれば杏太郎たちは戻ってくるかな?」
「えっと……実はわたし、お兄ちゃん様から、このような素敵なものをプレゼントしていただきまして」
コンチータは顔を赤くしながら、杏太郎からプレゼントされたというものを俺に見せてくれた。
それは『二つ折りの携帯電話』みたいなものだった。
「えっ? これって、ケータイ?」
「柊次郎様、ご存知なんですか?」
「んっ、まあ……」
「お兄ちゃん様は、『魔法携帯電話』とおっしゃっていました」
「魔法携帯電話?」
「略して『ケータイ』と呼ぶそうです」
ええっ……?
この異世界……ケータイあるの?
いきなり超技術? ファンタジー感、ぶち壊し?
「お兄ちゃん様が中心となって、4~5年ほど前に開発したものだそうです。世界中のお金持ち様を相手に販売したそうですよ」
「はいっ!? これ、あの杏太郎が作ったの?」
「優秀な職人や魔法使いを大陸中からたくさん集めたそうです。お兄ちゃん様は集めた人々に、完成品のイメージを伝えて、この『魔法携帯電話』を作らせたそうです。さすが、お兄ちゃん様です」
あいつ、やっぱり現代人が異世界人として転生したんだ!
亡くなった俺の兄の生まれ変わりかどうかは断定できない。けれど、あいつが俺と同じ世界の人間だったのは、ほぼ間違いないだろう。
しかし、魔法携帯電話って……。
あのお金持ち……元の世界の知識と、この世界の魔法とをかけ合わせて、金に物を言わせて人を集めてこんな『
素直にすげえなあ……。
金持ち相手に販売したとか言っていたから、きっとこのケータイの販売で、杏太郎はさらに金持ちになったんだろうな……。
それに、こんな電話があるってことは、いずれオークションで利用できるぞ!
オークションで『電話入札』が可能になるな!
まあ、今はそんなことを考えている場合じゃないか。黒ずきんさんを助けるのが先だ。
コンチータは、二つ折りのケータイをパカっと開くと俺に言った。
「使い方は教えていただいております。電話をかける練習もしました」
見たところ、本当にガラケーといった感じだった。
コンチータはその可愛らしい手で、ものすごく丁寧にケータイを操作する。
高価なものだからか、あるいは好きな男の子からプレゼントされたものだからか、まあその両方だろう。
「まず、『アンテナ』と呼ばれるこの銀色の細い棒を、指で丁寧に引っ張り出します」
ああ……アンテナがあるタイプのガラケーなのね。
「次に、ここを押して、ここを押せば、いつでもお兄ちゃん様とお話しすることができます。夢のような道具ですね」
「はあ」
「まずは『もしもし』という呪文の言葉を、このケータイに向かってささやきますよ」
それからコンチータは、大きく息を吸ってから、ケータイに向かって言った。
「もしもし。お兄ちゃん様ですか? コンチータです。お元気でしょうか? わたしは元気です」
きっとコンチータは練習したとき、元気であることを伝えるまでを1セットとして、杏太郎からケータイの使い方を教えられたのだろう。
なんか……おままごとを見せられているような気持ちになる。
「はい、そうです。柊次郎様がお戻りになりました」
杏太郎とは本当に通話ができているようだ。
やがて、コンチータの電話のおかげで、杏太郎と山賊の男が宿に戻ってきた。
俺は二人に言った。
「詳しい説明は移動しながらでいいか? 黒ずきんさんが……シャンズの妹が、魔物にさらわれたんだ。なんとか助け出したい」
俺は木製のコンテナの上から『スーツ太郎』を地面に下ろす。
そして、コンテナの中の気絶した魔物を杏太郎に見せながら言った。
「頼む、杏太郎。協力してくれないか?」
金髪の美少年は、大きくうなずくとこう答える。
「もちろんだ。弟が困っているときに全力で力になるのが、お兄ちゃんという生き物だからな!」
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