第3章 RPGでいうところの『はじまりの町』にて
011 第3章 RPGでいうところの『はじまりの町』にて
町に到着する少し前、
「そうだ。シュウに色々とアイテムを使わせてくれ」
「えっ?」
「アイテムを使って、シュウを強化しておく必要があると思うんだ」
「俺を強化? どうして?」
「ボクの
「ええっ!?」
金髪の美少年は理由を説明してくれる。
「まず、女剣士を召喚しているのがシュウだからさ。あのゴーレム使いは女剣士には直接勝てない。だから、シュウの方を狙ってくると思うぜ」
「お、おう……」
「シュウを殺せば、召喚されている女剣士も消えるからな」
「俺、殺されるの?」
杏太郎は、こくりとうなずく。
「まあ、可能性はあるだろうよ。ゴーレム使いの女が、どれくらいボクたちを恨んでいるかにもよるだろうけど。ほら、あの女のお兄ちゃんを、ボクたちがオークションで落札したわけだし、くくくっ」
いや……杏太郎さん、笑っている場合じゃないですよ。
金髪の美少年は、不敵な笑みを浮かべながら話の先を続ける。
「女剣士がいなくなれば、残るは14歳のボクと13歳のコンチータだ。ゴーレム使いは、ボクたちみたいな子ども二人が相手ならば、勝てると考えていると思うぜ。きっと、シャンズがいないタイミングで攻撃してくるだろうな。それでボクを殺せば、シャンズの所有権も消滅する。あの妹は兄と再びいっしょになれるわけだ」
そう言うと杏太郎は地面にしゃがんだ。そして右手を前に出し、何もない空間から色々とアイテムを出現させる。
大量の植物のタネらしきものが入った袋。そして、大量のアメ玉みたいなものが入った袋。それらがドサリ、ドサリと地面に落ちる。
また木箱も出現した。木箱の中には少量の液体が入った美しい
コンチータに飲ませた『エリクサー』とは、また違った種類の瓶のようだ。
杏太郎は出現させたアイテムを指しながら言う。
「そんなわけで、ゴーレム使いが次に何かを仕掛けてくるなら、まずはシュウが狙われる。だから、これらのアイテムをすべてシュウに使わせてくれ」
「はあ?」
「たとえば、この植物のタネは『HP』の最大値が上昇する。こっちのアメ玉は『
杏太郎はそれから、首を少しかしげながら小瓶を手に取る。
「そして、この小瓶の液体は……防御力だったかな……? まあ、とにかく何か上昇する」
「いや……そこハッキリしておいてよ。怖いよ。何が上がるの?」
「ふふっ」
「『ふふっ』じゃないよ」
金髪の美少年はニコニコしながら話を続ける。
「とにかく、強化するアイテムを次々出すから、シュウは使ってくれ。他にもすばやさを上げる『木の実』や、器用さや運が上昇するアイテムもあるから」
杏太郎はさらに追加でアイテムを出現させながら言う。
「手持ちの強化アイテムは、あるだけ全部シュウに使うぞ。シュウと再会できたときのために、金に物を言わせて前々から強化アイテムを山ほど買い集めておいたんだ」
それから俺を強化するための大食い大会がはじまった。
俺は何かの植物のタネや木の実みたいなものをポリポリと食べまくり、小瓶の液体を喉の奥に流し込み、アメ玉を
アメ玉を舐めすぎて、舌がヒリヒリする。いくつかは歯でガリガリと噛み砕いてやった。
「なあ、杏太郎。これで俺の能力値が上がったのか? どうやって確認するんだ? ステータス画面にはHPとかMPとか力なんて項目はなかったよな?」
俺の質問に杏太郎が答える。
「確認する方法は、とりあえず今はないな」
「今はない?」
「HPや力や防御力など、人間や魔物の能力値をきちんと数値化できるスキルを持っている人間がいるから、そういう人間に会ったときに調べてもらうしかないんだ」
「へえ。恋愛状況や独身であることなんかは自分のステータス画面で確認できるのに、冒険に必要そうなHPやMPなんかは自分じゃ確認できないのか……」
杏太郎はニコリと笑った。
「まあ、いつか機会があれば、シュウのステータスを確認してみよう。これだけ強化アイテムを使ったんだ。少なくともHPと力は、カンストしているんじゃないか?」
「カンストって……」
「HPが『999』で力は『255』だったかな? レベル2で、そんな能力値の人間は、この世界でもなかなかいないぜ?」
杏太郎はそう言うけれど、俺の見た目はまったく変わっていない気がする。腕や脚の筋肉なんかがムキムキになっている様子もない。
スーツ姿の自分の身体をあちこち手で触って感触を確かめてみるが、何も感じなかった。
本当に強くなっているのだろうか?
「なあ、HPはともかく、力が『255』って……。俺、オークショニアなんだけど、そんなに力を上げる必要あるの?」
「まあ、シュウが前線で戦う必要はないから『戦闘力』という視点からは力を上げる必要はないな。でもオークショニアとして、力が『255』あれば便利だぞ。持ち上げられない絵はもうないんじゃないかな」
「えっ?」
「たとえば『300号』サイズの大きな油絵でも、今のシュウならば片手でひょいっと持ち上げられると思うぜ」
300号の油絵を片手で持ち上げるっ!?
それって、とんでもない怪力じゃないか……。
「とにかくボクは、弟のお前に死なれたらきっと生きていけない。だからHPは『999』に上げたし、これから手に入る強化アイテムは、すべて弟のシュウに使っていこうと考えている」
過保護すぎます……。
そんなわけで俺は、見た目こそスーツ姿の普通のサラリーマンなのだが、ごりごりのドーピングによってレベル2でありながらいくつかの能力値はカンストしているそうだ。
俺は試しにその辺に転がっていた石を拾い上げて、草原の向こうに全力で投げてみる。
「ふんっ!」
信じられないスピードで石が一瞬で見えなくなった。
ここが野球場で俺が外野手だったとしたら?
あれはレザービーム――。いや、そんな素敵な呼び名の好プレーとはならないかもしれない。
仮にあの石がバックホームを狙って投げたものだったとしたら?
キャッチャーミットを構えた捕手の身体を、ズドンっとつらぬいてしまうような……。
殺人ビームである。
杏太郎が、中二病のような笑い声を上げる。
「くくくっ……シュウよ、やばい力を手に入れてしまったな。今のお前なら、素手で魔物ともやりあえる」
「いや……俺は望んでこんな力を手に入れたわけじゃないんですけど」
「とにかくシュウは、力の調整を身につけなくてはいけないぜ。まあ、がんばってくれ」
こうして俺は、RPGでいうところの『はじまりの町』に到着する前に『超人オークショニア』に改造されてしまったのだった。
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