第2章 オークションで冒険の仲間を落札する
006 第2章 オークションで冒険の仲間を落札する
近隣の町に向かって三人で草原の道を進む。
しばらく歩いていると、大きな岩のある場所に差し掛かった。
「止まれ、お前たち」
岩陰から俺たちを呼び止める声がした。野太い男の声だった。
現れたのは男女の二人組である。
どちらも20歳前後といった印象だ。二人とも髪は黒く、俺の髪と同じような色だった。
男の方は身体が大きく筋肉質だ。デカい身体と釣り合うくらいの大きな斧を所持している。
毛皮を身につけており、ワイルドな雰囲気を漂わせていた。まあイケメンである。
人間の胴体なんか一振りで真っ二つにしてしまいそうな斧が本当に物騒で、個人的には知り合いになりたくない。
女の方は……『黒ずきんちゃん』とでも呼べばいいだろうか?
童話の『赤ずきんちゃん』のブラックバージョンみたいな印象の服装なのだ。
絵本なんかで目にする赤ずきんちゃんがフード付きの赤いケープをよく身につけているけれど、アレの黒いのを身につけている。
髪の色が黒いのはわかるけれど、フードをかぶっているので髪型まではよくわからなかった。
そんな黒ずきんちゃんだが、童話の赤ずきんちゃんと違って『少女』というよりは『女性』という雰囲気だった。身長も160センチ以上は確実にあるのではないか?
ウエストに黒い革のコルセットを巻いており、そのせいかバストがとても強調されている。
うん……この黒ずきんちゃん、かなり胸が大きい。
やっぱり、少女じゃないな。どちらかというと女性である。
『黒ずきんちゃん』改め、『黒ずきんさん』だ。ハロウィン時期のコスプレした女子大生とかOLみたいな雰囲気がほんのりと漂っていた。個人的には嫌いじゃない。
それと特徴的なのは、黒ずきんさんは大きな『シャベル』を持っていることだ。
以前どこかで、東日本と西日本で『スコップ』と『シャベル』の区別の仕方が違うなんて話を耳にしたことがあるけれど、そんなことは今はどうでもいいだろう。
とにかく黒ずきんさんは、農作業かなにかで土でも掘る必要があるのか、足をかける部分が備わった本格的なシャベルを、杖のようにして持っていた。
さてさて。この異世界でようやく俺は、恋愛対象になりそうな年齢の女性と出会えたわけである。
最初に出会った金髪の美少女は『美少年』だった……。
次に出会った奴隷の少女は、13歳で年齢的にさすがに恋愛対象外である。
そして今回ようやく出会えた彼女には……山賊のワイルド系彼氏がいるようだった。
もし俺が黒ずきんさんに恋愛感情を抱いたとして、あのワイルドでイケメンな彼氏から、彼女を奪えるのか?
そんな自信は正直ない。ケンカになったら、すぐに
ああ、大きな斧で真っ二つにされる可能性もあるのか――。
まあ、現時点で俺は別に黒ずきんさんに恋をしているわけではないので、そこまで考える必要もないのだけど。
現れた二人組に
「なんだお前たちは?」
「ワシは山賊だ」と男が答える。
「山賊だと……? ここは草原だぞ。山に帰れ」
杏太郎がそう言うと、「ワシらに、帰る山なんてもうない」と男が野太い声で答えた。
それは可哀想である。帰る山がないのか……。
しかし確かに二人とも、山とか森林から平地に下りてきたみたいな服装だった。
「お前たち。ケガをしたくなけりゃ、有り金を全部置いていけ」
山賊の男にそう言われると、杏太郎は「ふっ」と笑った。
「お前たちは、やさしいな。手慣れた賊ならボクたちにいちいち声をかけず、いきなり襲ってきたんじゃないか? 最初の一手で、たとえば子どものボクか女を人質にとるとかな」
なるほど。確かにそうだ。
「バカ言うな! 女や子ども相手に、ワシはそんな
山賊の男がそう答えると、黒ずきんさんが口を開いた。
「それもそうだね。さすが兄さん。
兄さん? どうやらこの二人、恋人同士ではなく『きょうだい』のようだ。あと、二人ともどこか少しバカっぽい。
杏太郎が山賊の男に尋ねた。
「んっ? なあ、もしかしてお前は、その女の兄なのか? きょうだい?」
「ああ、そうだ。ワシはこの可愛い妹の兄貴だ。まあ腹違いなんだが」
杏太郎は今度は、女に尋ねた。
「おい、お前の兄は、良いお兄ちゃんか?」
「はあ? 当たり前でしょう。この人は昔から、アタシに世界一やさしくしてくれる人だ」
女の言葉を聞くと、杏太郎は「よし、気に入った!」と声をあげた。
それから俺に向かって言う。
「シュウ! オークションを開催するんだ!」
「えっ?」
「この山賊の男を、ボクがオークションで落札する!」
はあ?
杏太郎が金髪を弾ませながらコンチータに指示を出す。
「コンチータ、地面に手をついてこう叫ぶんだ。『オークションハウス・オープン!』」
いやぁ……それは、なかなか恥ずかしいセリフである。
しかし青髪の少女は「はい。お兄ちゃん様」と真顔で返事をしてうなずいた。
出会ってからまだそれほど時間が経っていない。それなのにコンチータは、迷わず杏太郎の言いなりになって行動するのだ。
命を助けられたことに対する恩をやはり感じているのだろう。恋愛シミュレーションゲームだったら、出会ってすぐにいきなり好感度MAXになっている感じだろうか。
もうさあ……杏太郎が「キスしたい」って頼んだら、すぐにキスさせてくれるんじゃないの?
杏太郎、キスとか興味あるんだろ?
でも、この金髪の美少年は生真面目そうだから、そういう要求を絶対にコンチータにしそうにないけど。
コンチータは、長い髪を揺らしながら地面に手をついて叫んだ。
「オークションハウス・オープン!」
わあ、恥ずかしい。
その瞬間――。
俺たちの周囲が青白い
そして気がつくと俺は、草原にいたはずなのに室内に立っていたのである。
「なっ!?」
俺は思わず声を漏らし、周囲を見渡した。
杏太郎もコンチータも、そして二人組の男女もいつの間にか全員同時に謎の部屋の中に立っていた。
部屋の広さだが、俺が通っていた高校の教室くらいのサイズだった。
四方は完全に白い壁で囲まれている。窓ひとつなければ、出入りするためのドアもない。
密室だ。部屋から外に出るための
天井にはシンプルなデザインのシャンデリアがいくつか吊るされている。
木製の椅子が10脚ほど部屋に並んでいて、
「ふーん。レベル1のオークションハウスなら、まあこのくらいだな」
杏太郎はそう口にすると椅子のひとつに腰を下ろし、戸惑う俺に向かって言った。
「シュウは冒険をしながらコンチータの増築やリフォームをしていかなくてはいけないんだぜ」
「コンチータの増築? リフォーム?」
「ああ。それがオークションハウスと契約したオークショニアの義務だな」
「もしかして、コンチータが建物になるって話は……」
「そうだ。今いるこの建物がコンチータだぞ」
「いや、でもコンチータはそこにいるじゃないか」
俺は青髪の少女を指差す。
コンチータは俺たちと同じようにこの部屋の中にいるのだ。
杏太郎が「くくくっ」と中二病っぽく不敵に笑うと言った。
「あれはコンチータに見えるが、本当はコンチータではない。ほぼコンチータなのだが、実はコンチータの中にいるコンチータだ」
「はあ?」
何を言ってんスか?
なんか……哲学方面の話でしょうか?
続いて金髪の美少年は、教卓のようなものを指差しコンチータに――いや、『コンチータの中にいるコンチータ?』に――命じた。
いや、ややこしいから、もうコンチータでいいだろう。
「さあ、コンチータ。オークションハウスは、
竸り台……? ああ、そうか!
あの教卓のようなものは競り台なのか!
オークションを進行するとき、オークショニアは競り台に立つ。そこで
ここは教室ではなくオークションハウス。
そして、教卓のようなものは竸り台なのだ。
そうなると、あそこに立つのは……。
「さて、シュウよ。オークショニアが競り台に立たないと、オークションがはじまらないぞ?」
杏太郎にそう言われて、俺は競り台に向かった。
やっぱりあそこに立つのは俺の役目のようだ。オークショニアである俺の出番である。
戸惑う男女二人組の声が、狭いオークションハウスに響いた。
「兄さん、アタシたちどうしてこんなところに?」
「妹よ。ワシらは確か草原におったよなあ……」
俺たちを襲ってきた二人組は、状況が把握できておらず混乱している。
俺は競り台に到着すると、横に立つコンチータに「よろしくね!」と、ちょっとフレンドリーな雰囲気で言ってみた。
彼女は「
コンチータの表情や態度は、杏太郎に対するそれと比べると、やっぱりちょっとよそよそしかった。
まあ、別に俺は気にしていないんですけど……。
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