第96話 映画5

「とにかく、前髪パッツンにしている場合じゃないぞ、君。早急に告白するなりなんなりして、織田と付き合え」


 島津先輩が偉そうな態度で私に命じる。むっと口を尖らせて、反論しようとしたけれど、周囲の男子達は、「全くもってその通りだ」とばかりに頷いた。


「別に私、にゃんとはそんなんじゃないし」

 皆の視線が居心地悪い。私はもぞもぞとソファに座り直し、上目遣いに呟いた。


「じゃあ、今川ちゃんは、織田とどうなりたいの?」


 石田君が首を傾げて私を見つめる。女の子みたいに綺麗な顔だ。私は「うぅうん」と呻く。どうなりたいもこうなりたいも……。


「特に……」


 結局小声でそう答えたが、流れっぱなしの曲がサビの部分に来たのだろう。島津先輩が小さな音にしていたにも関わらず、急に音楽が大きくなり、私の声は潰えて消えた。「え?」。蒲生君が聞き返し、島津先輩が呆れたように笑っている。


「このまま、おれら、この二人を置いてどっか行くか? 消える?」

 伊達君が声を張り上げて尋ねた。ぎょっとして目を見開くが、島津先輩は首を横に振る。


「織田のことだ。我々の思惑に気づき、逆上することも考えられる。そうなると、とばっちりが彼女に行ってもまずい。まとまる話もまとまらん」


「なるほど。じゃあ、カラオケ終わったら、おれたちとは別行動ってことで」

 石田君が挙手をして発言をする。


「そうだな。じゃあ、あとは頑張れよ」

 伊達君が頷いて私に言うから、「なにを!?」と慌てて問い返す。その私の語尾を喰い気味に叫んだのは蒲生君だ。


「織田が戻ってきたっ」


 扉の側で外の様子を伺っていた蒲生君は、そう言うなりタンバリンを探して室内を移動する。石田君は素早くマイクで歌い始め、島津先輩がマラカスを振る。伊達君は端末を手にとって音量を戻し、曲を探す振りを始めた。


「……爆音」

 入室するなりにゃんは小さく呟き、手にコーラらしき液体の入ったグラスを持って立ち尽くす。


「音、大きくね?」

 にゃんは誰にともなくそう言うが、返事はない。手近な席に座ろうとしたら、化学同好会が躍り出て、場所を塞いだ。

 結局ため息着いて私の隣にどっかりと腰を下ろす。


――― 後は頑張れよ、って……


 私はウーロン茶を口に含みながら、ちらちらとにゃんを盗み見る。


 よく考えたら。

 邪魔したり、焚き付けたりしているのはこの四人であって。

 私は別に。


 特に。

 なにも。

 にゃんとは。


「なに?」

 ばちり、と視線を合わせてにゃんが私に尋ねる。やばい。みつめすぎた。


「なんでも」

 慌てて目を逸らし、手近にあったポテチの袋に手を伸ばす。


「ふぅん」

 気のないにゃんの返事を聞きながら、私は無心でポテチを食べた。


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