二学期(体育大会:本番)
第69話 二百メートル走1
「二番です!」
俺はゴールラインを通過した2年生の肩を背後から叩き、そう声をかける。惰性で足を動かしていたその生徒は荒い息のまま俺をちらりと振り返り、頷いた。
「くっそ、やっぱハンデきついな」
肩で息をしながら顔をしかめるその生徒に俺が苦笑すると、素直に掌を差し出してきた。俺は彼の手首を持って支え、その掌に、水性マーカーで「2」と書く。
「次のレース始まりますよっ!」
ゴール付近では陸上部が大声を張り、それを合図に選手を含めた俺たちもグランド内に戻る。それぞれの「順位」の旗の列に選手たちは並び、列整理をしている柔道部たちが、手の平に書かれた番号と順位を照らしあわせていた。
「お前の中学校って、こんな風に順位を掌に書いたか?」
順位係を仰せつかっているのは、俺達剣道部だ。隣にやってきた四位係の石田に尋ねると、ふるふると首を横に振った。
「毛利先輩に聞いたんだけど、数年前に不正を働いた学科があったらしい。以降、順位係はマーカーを持って手に順位を書くことにしたんだと」
石田の言葉に俺は苦笑し、手に持ったマーカーを見やる。
ちなみに、『青色マーカー』が、順位係には持たされている。それ以外の色で書かれた順位は不可だ。色の指定も、当日になって決まる。この話を聞いた時、「……過去、誰か不正をしたな」と内心俺は思った。
「圧倒的に一位はデザイン科だな」
駆け寄ってきたのは三位係の伊達だ。旗の前に並んでいる一団を一瞥しながら、青のマーカーをペン回ししている。
「溶接科も機械科も善戦してるがなぁ」
俺は伊達の視線を追ってその列を眺める。一位の旗に並ぶのは、全員女子だ。肩を抱き合い、きゃあきゃあ言っている。
「二〇〇メートル走で、一〇〇メートルのハンデって……」
イライラしたように石田が呟くとおり。
女子には、ハンデが初めから与えられている。
体育大会は、各科対抗で、てっきり俺は、スポーツ推薦で入ってきた生徒の多い、溶接科や機械科が強いのかとおもったが、そうではない。女子が多いデザイン科が有利であり、実は最強なのだ。
「いやあ、一〇〇メートルのハンデなんて……。追いつくっしょ、普通」
鼻高々で歩み寄ってくるのは一位係でデザイン科のルキアだ。溶接科の石田、機械科の伊達に睨まれても平然と胸を張り、にやり、と笑う。
「ごつい男ばっかり集まって、女子に勝てないなんて」
ぷぷぷ、と笑うルキアに舌打ちし、一歩足を踏み出す石田に、「やめとけ」と俺はヤツの腕を引く。
「次のレース始まるぞ」
俺がそう言うと同時に、スターターピストルが鳴る音がする。
全員揃ってスタートラインを見ると、すでに各コースから選手は飛び出していた。半周先では、デザイン科の女子も走り出している。
「移動だ」
伊達が顎をしゃくる。俺達は頷き、ゴールラインに小走りで進むが、伊達も石田もルキアの方を見向きもしない。ルキアはというと、ご機嫌で、早々にゴールに飛び込む同科の女子に手を振った。
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