第50話 部活棟4

「大変だったんだよ。急遽準備するの」

 じとっと、島津先輩を睨みつけていたら、蒲生がもう君が肩をすくめてそんなことを言う。

 そんなの知るもんか、と思っていたけれど、ふと気になって尋ねてみることにした。


「そういえば。あの校舎内の煙とか爆発音とか、あれなに」

「煙は、ピンポン球で作った『煙玉』だ」

 島津先輩が答えた。「煙玉?」。目を瞬かせて尋ねると、にっこり笑いかけてくれる。

 基本、尋ねたことは律儀に応じてくれる。一見、いい先輩に見えるんだけどなぁ。


「ピンポン玉の主成分は、ニトロセルロースと樟脳なんだ。燃やすと、白い煙が一気に出る。だから、ピンポン玉を半分に割って、砕いたピンポン球を詰めて火をつけたんだよ」


「織田を引きつけようと思って」

 けろりとした顔で蒲生君も続いた。


「化学実習室に来てほしい、って茶道部に伝言して……。ひとりで来たら、僕が織田の相手をしている間に、島津先輩が君から話を聞けばいいし、二人で来ちゃったら、織田を僕が引きつけている間に、君を島津先輩が、……、ごほん。強引にここにお連れしようと」

 今、拉致、って言いかけたよね、蒲生君。


「あの、破裂音は? ばぉん、って言う」

「あれは、水素と酸素をビニール袋に詰めて、ライターを近づけて爆発させた」

 島津先輩の説明に目を丸くする。


「危ないじゃないですかっ!」

 だけど、島津先輩はけろりとしたものだ。


「ガス程じゃないよ」

「ですよね」

 蒲生君がそう言うから、私は唖然と二人を見つめた。


「プロパンガスはやばかったな。ちゃんと量は計算したけど」

「あれは、科長めちゃ、怒ってましたね」

「匂いでばれたのがまずかった……」

「屋外ですべきでしたね」


 島津先輩と蒲生君は顔を見合わせて頷いている。

 おかしい。基本、この人たち、頭がオカシイ。


「酸素や水素って、普通にあるんですか? 化学実習室に?」

 恐々尋ねると、二人はケラケラ笑う。


「電気分解したら山ほど作れるじゃないか」

「水に電極を突き立てたらいいんですからね」

 ………え。工業高校って、こんな感じなの……?

 モノ作り、とかいうけど、こんなことしてるの?


「ということで」

 絶句している私に、島津先輩はにっこりとほほ笑む。


「織田の弱みを教えておくれ」


 いや、何言ってんの、この人……。

 私は唖然と、眼鏡の先輩を見上げた。


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