第43話 石田2

「石田君も、将来溶接をする仕事に就くの?」

 にゃんと何か言い争っていた石田君だけど、私がそう尋ねると、くるりと顔をこちらに向けた。可愛い、女の子のような面立ちだ。


「おれ? そうだな。おれはじぃちゃんの工場継ぐんだ。溶接工場」

 石田君は屈託無くそう答え、にゃんを見上げる。


「親が継がなかったんだよ。おれ、じぃちゃんも、じぃちゃんの仕事も好きだからな。なんなら、特別に織田は雇ってやっても良いぞ。に」


 石田君が『特別』という単語だけ強調して言うけれど、にゃんは皮肉げに笑いとばした。


「家を継ぐ前に、小数点の計算が出来るようになれよ。経営できなくて潰れるぞ」


「社会に出たら、電卓使って良いんだもーん」

 石田君はせせら笑う。


「それに、経理も料理もできて、夜も体の相性が良い美人な嫁さん貰うから、全く問題ない。俺は工場運営に力を注ぐ」

「町工場に嫁に来てくれる、そんな女がいるといいな」


「言ってろ」

 石田君はにゃんをにらみ付けてそう言うと、ふと、私に視線を向けた。


「そういえば、文化祭はどこを回ったんだ? 織田にゃんと」

「機械科の実習棟と、溶接の実演と……」

 私が答える側から、「にゃん、って言うなっ」とにゃんが石田君に怒っている。


「模擬店は?」

 にゃんを無視し、石田君が私に尋ねる。


「まだ」 

 首を横に振った途端、石田君がにゃんを睨み上げた。

「お前、ずっと歩かせてんのかよ。疲れるだろ、可哀想だろ」

 そんなことを言われて私は慌てた。


「別に大丈夫だから……」

「そういや、『中庭でなんか喰いたい』って言ってたな」

 にゃんが私を見下ろして言うから、また顔が赤くなる。だから、喰いたい、って表現止めて、ってっ。


「じゃあ、中庭に行ってくる」

 にゃんが石田君にそう言い、私は消え入りたい思いでにゃんの影に隠れた。ああ、恥ずかしい。食いしんぼみたいじゃない。

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