第41話 毛利・武田4
バチバチというより、だんだんバリバリに近い音を立てて炸裂する光を黒いガラス越しに眺め、私はふと毛利先輩を見上げる。
視線に気づいたのか、結構世話焼きなのか。毛利先輩は直ぐに私を見下ろした。もう、見る気はないのか、手持ち面を下げていた。
「
まだちかちかする光の残像の中で、毛利先輩は人懐っこく笑う。
「らしいな。あいつ、造船所希望だから」
「あ。そうなんっすか」
にゃんも知らなかったらしい。少し目を見開いて私越しに毛利先輩を見た。
「〇崎重工かI〇Iの造船希望だな」
「武田先輩の成績なら問題ないでしょう」
にゃんが言い、毛利先輩も頷く。
「造船って……。船、だよね……」
当たり前のことを呟き、毛利先輩の視線を感じて慌てて付け加えた。
「なんかこう。ホームセンターのDIY売り場とか、工場とか……。そんなイメージが合ったので……。女の子だし」
造船というイメージが、あの先輩からは全くなかった。
「莉子のひぃじいちゃんが、
毛利先輩は私とにゃんを交互に見て言う。ながと。なんだろう。そう思っていたら、にゃんが律儀に私と自分の分の手持ち面を顔の前で持ったまま、「戦艦の、ですか?」と尋ねる。
「そうそう。その長門。その建造にな。携わったらしくて。自分もそんな歴史に名を残すような船の建造に関わりたい、ってよ」
「へぇ」
にゃんは感心したように声を上げる。戦艦ながと。聞いたことは無いけれど、有名なのだろう。家に帰って検索してみよう。
そう思う一方。
なんだかため息が出そうになる。
さっきの伊達君もそうだけど、ちゃんと将来のことを見据え、しかも明確に目標を定めて努力している。
『とにかく、有名な大学に行けば、つぶしが利くから』
お父さんの口癖だ。
『将来の夢なんて、持っている人間の方が少ないんだ。頑張って有名な大学に行けば、進路選択は広がる。高校しか卒業をしていなかったら、初任給で差がつくし、役職になんて絶対つけない。いずれ年下の上司に顎で使われるようになるんだ』
だから、勉強を頑張りなさい。
そう言われて頑張ってきた。
小学校も、中学校も。
いつでも成績はトップクラスだった。一番がとれなくて、泣いたこともあるぐらい。
だけど。
私は下口唇を噛む。
だけど。
上には上がいた。
今の高校に来れば、『特進クラス』には入れても、そのクラスで上位にはなれない。
どんなに頑張っても。
どんなに睡眠時間を削っても。
覚えられない、理解できない、応用がきかない問題が出てくる。
必死に頑張っているのに。
気づけば、成績はクラスで下の方だ。
そんなとき。
ふと、思ったのだ。
一生懸命勉強して。
頑張って、有名な大学に行って。
私は、なんになるんだろう。
私は、大人になって、なにをするんだろう。
『将来の夢なんて、持っている人間の方が少ないんだ』
お父さんはそう言ったけど。
それって、本当?
私だけが、ぽっかりと胸に穴を開けて、未来に向かって歩いてるだけなんじゃないの?
からっぽのまま私は大人になろうとしているんじゃないの?
「中庭に行くか?」
にゃんが声をかけてきたから、私は慌てて意識を『今』に集中させる。「うん」。頷くと、にゃんが私から手持ち面を取り上げた。
「ついでに、石田をのぞいてやれよ。あいつ、物販してるから」
にゃんが毛利先輩に「失礼します」と一声掛けると、そんなことを言われた。
「体育館前だ。場所が悪いからな。売れんだろう。ぐるっと回って中庭に行ってやってくれ」
毛利先輩は順路を指で宙に描き、にゃんに伝える。
「わかりました」
にゃんは短く返事をし、私を見る。
「次、行くぞ」
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