第28話 同級生3
「そりゃお前。隣の芝は青いんだよ」
俺は顔を顰めて見せた。
「俺の学校なんて、変人しかいない。あとは狂人だ。……いてっ」
後ろ向きのまま、石田に膝を蹴られた。今川はそんな俺の様子を見て、くすりと笑う。俺はその今川の顔を一瞥し、口をへの字に曲げた。
「お前、部活しろ、部活。部活出来ないんなら、時間見つけて走れ」
今川はきょとんとした後、「なにそれ」と噴き出した。
「そんな青っ白い顔して。人間だって動物だからな。動かないと変になるんだよ。だいたいな」
俺は今川の鼻先に人差し指を突き立てる。
「中学時代、『勉強に専念したいから、部活を辞めます』って言った奴が、真面目に勉強したことがあるか? あいつら結局みんな、空いた時間遊んでたじゃねェか」
「……そうかも……」
今川はしばらく考えた末、そう答える。
「成績のいいやつは部活してるんだよ。お前も勉強ばっかりしてないで、なんか動け」
俺がそう言ったのと同時に駅にはアナウンスが流れ、電車の到着が間近だと告げた。
「この電車に乗るの?」
今川が電光掲示板を指さすから俺は目を瞬かせる。今川も同じ方向のはずだ。
「私は塾に行くから、あっちのホームなの」
今川が、今度は向かいのホームを指さす。
「にゃんが見えたから来ただけ」
そう言って、今川はにっこりと笑った。
「ありがとう。にゃんと話せて良かったよ。こんなに笑ったの久しぶり。よく考えたら、表情筋なんてほとんど動かしてなかったのかも」
今川は思い出したかのように、またふにふにと頬をマッサージし始めた。
「部活は無理だけど、ジョギングでもしてみようかな」
「夜はやめとけよ。痴漢が出るから」
俺が真面目にそう忠告してやったのに、今川はまた笑う。
「じゃあね、にゃん」
「おう」
去っていこうとする今川に、片手を上げて見せた時、俺の背後から石田が声を放った。
「今度文化祭あるからおいでよ」
「文化祭?」
足を止め、今川が首を傾げる。俺は石田を振り返り、眉根を寄せた。
「未成年が入る時は、入場許可書がいるだろ」
地域の大人や保護者は受付で申し出れば文化祭中、校内に入れるのだが、未成年の生徒の兄弟姉妹などは、学校から交付される『入場許可書』が必要になってくる。でないと、他高校の生徒が入って来て混乱するのだそうだ。
「織田にゃんが、入場許可書を君ん
石田が笑う。「お前、勝手に……」。俺が言うより先に、軽やかに今川は笑って見せた。
「ありがとう。にゃん。『入場許可書』は私の家のポストに入れておいて」
そう言うと、手を振って階段の方に小走りに去って行った。
同時にホーム内に電車が滑り込み、俺は石田と隣り合わせて列の最後尾に並ぶ。
「お前なぁ、勝手にそんなこと言うなよ」
じろりと睨みつけると、石田は意味ありげに笑った。
「いやいやいやいや。絶対後でお前、おれに感謝するって」
「はぁ?」
訝しげに睨みつけるが、石田は「織田にゃん。ぷぷっ」と小さく笑う。
俺はその石田の頭を殴りつけ、人の波に合せて歩き出した。
小学校以来行ったことがない、今川の家を思い出しながら。
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