電灯

 薄霧がかった暗い道を転々と照らす電灯たち、それに群がる蛾のバチバチという音が微かに聞こえる程度。

何処を見ても明かりが付いている家はなく、人々の多くはまだ眠りについているらしい。


 今の時刻は、04:30だ。


 誰もが起きているわけでもないが、全ての人が眠っているわけでもない。

いつもの様に日課の散歩をする人や、新聞を配達する人。

特に意味はないが、早起きしてしまい時間を持て余す人など。

 どちらかと言うと、私は最後に属しているのかもしれない。

いや、根本的には違うが”時間を持て余している”という点では一緒かな。

なぜかと言うと、昨晩は徹夜した為”早起き”ではないからだ。


 だるい体を少し慣らし、外の空気を吸いに行こう。

上着を羽織り、少し肌寒い外へ出た。

 太陽は全く顔を出さないが、時間的にもそろそろ夜明けなのだろう。

浮かんでいる雲も、遠くの山も、段々と目が慣れるにつれてはっきり見えてきた。

平らなアスファルトやそびえ立つ電柱なんかも、少しずつ姿を現していった。

 確か、うんと小さな頃はこのカーブミラーが恐ろしく見えたっけ。

警戒しながら歩いていたのを随分昔の事の様に思えた。

大して年も重ねていないのに……と、自分に言いながら歩きだした。


 太陽は未だ顔を見せないが、空の下の方がさっきよりかずっと明るい。

何時しか時計は午前5時を示し、散歩を始めて30分弱は過ぎているらしい。

 意識していなかったが、よく友達と遊んでいた公園に行きついた。

多分、癖というやつなのだろう。

うろ覚えだが、この公園で何かの願掛けをよくしていたっけ。

蹴った石ころがフェンスを超えたら明日は晴れるとか、自分が言った色の服を着た人が通りかかったら願い事が1つ叶うとか。

乾いた地面を誰が一番早くバラバラに出来るか、なんていう遊びもしたな。


 波の様にそよぐ芝生から、時折り鈴虫が何処かで鳴く。

空気が澄んでいるからか、凄く心地が良い。

 いつの間にか公園のベンチで昔の様に座っている自分がいた。

片手にはお気に入りのジュース、今は周りに友人はいないけれど。

何処か懐かしい気持ちになり、誰もいない公園で笑いだしてしまいそうになった。

大変だ、このままここにいたら本当に笑ってしまう。

薄ら笑みを浮かべた不審者が公園にいた、なんて回覧板に書かれてしまいそうだ。

 誰かに見られる前に退散しようか。

缶に入った残りを飲み干して、ゴミ箱に入れた。

高く短い音が鳴った以外、辺りは静まり返っているが。


 町が目を覚ますのは後。

というか、もう目覚めないかも知れない。

いや、そんなバカな事はありえないだろう。

浮かれて学生気分で変な空想してしまった。

 大抵は全く広がらない小さな空想ばかりで、そうしたらどうなる?っという所でいつも終わるんだ。

だからといって、それが嫌な訳じゃない。

いつもそれだけで楽しかったんだから。

楽観的、とはよく言ったもので、自分の単純さを褒めてやりたいぐらいだ。



誰もいない朝焼けの道を足取り軽く進んでいく。


暗い夜とはもうさよならの時間になった。


楽しかった時間はまたくる、次の夜に。

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