話し声

「え、その噂ほんとうだったんだ」

「だから言ったじゃん、あいつはヤバイって」

「ていうかさ、もうこの話やめた方がよくない?」

いつも教室の窓際で他愛のない噂話をしているグループだ。

誰の話をしているのか知らないが、どうせ作り話だろう。

噂なんて所詮そんなものだ。

 誰かから聞いたものに自己解釈を交えて伝えていく、内容が変わってしまってもおかしくない。

いつだったか、私も変な噂を流された事がある。

「ルーマニアに親戚がいる」と友人に話したのが元だった。

確か当時は叔父さんが仕事であっちに住んでいて、次の休暇に帰ってくると話していたっけ。

結局は「あいつの親はルーマニア人」というものになった。

 たぶん、噂を流す側に真偽はどうでもいいんだろう。

噂はあくまで話題に詰まった時に出てくる程度。

どうでもいい天気の話より盛り上がるのだろう。

噂を流された側としては、どちらも面白くないが。


「学校まじだるい」

「いつもそればっかりだな」

中休みでほとんどの生徒が教室にいる中、気だるげに戻ってきたグループだ。

 だるい、眠い、めんどくさい、が口癖で周りに集まるのもそういう連中ばかり。

理念の一致といえば聞こえが良いかもしれないが、実際は他にすることもないから同行しているだけ。

気だるいと言うだけで特に何もしない。

いつもそれだけ。

研鑽しあう仲ではないから、互いが将来どうなろうがどうでも良いのだろうが。

 学校がだるいと言いつつ休まないから、口先だけの”だるい”なのだ。

だとしたら、彼らと私には”だるい”という言葉に違う意味があるのかも?

 もしかするとそれは、彼らにとっての”カッコよさ”にも関わってくるかもしれない。

いつも制服を着崩す事で、他の生徒とは違うとアピールしているのと同じだというのだろうか。

仮定として挙げるなら、ファッションとして気だるさを演出しているのだろうか。

仮にそれが周囲から受け入れられてないと知りながら、彼らは続けているのかもしれない。

いや、周りと違う事をすることこそが彼らにとっての流行りなのかもしれない。

 いくら考えたところで結論は同じだし、彼らが集団で行っている時点で”周りと違う”事にはならないと気付かない。

言ってしまえば、考えた所で時間の無駄だというのが関の山だろう。


「うわぁ、次アイツの授業?」

「うん。萎えるよね」

「ね、面倒くさいし」

周囲の目も憚らず、お気に入りの雑誌を広げて雑談をするグループだ。

談笑しつつ本を読む者もいれば、ノートに何やら書いている者もいる。

類するなら文系となるのだろう。

 うっかり「何の本を読んでるのか」と聞けば、これは何処派の何先生の傑作だと語り出すのが特徴だ。

大体が教科書で聞いた名が挙がるだろうが、書店で何度か見かけた程度の名前を挙げたりもするらしい。

所謂、近づきがたい雰囲気のグループだが、自分たちは普通だと思っているらしいけれど。

 読書家な生徒などは話があうかもしれないが、先に聞こえてきた声の主たちには伝わらないものだ。

誰も彼も、全員と仲良くなれる訳でもないため、それも仕方がないと言えるだろう。

産まれ持った感性にそぐわない事は出来ないものだ。

だから、この教室内では無暗にこのグループと関わるないでおこう、というのが暗黙の了解になっていて、彼女らもそれで良いと理解しているのだから。


「落書きするなよ、もう授業始まるだろう」

「うえー、ちょっとぐらい良いじゃんか」

「書いたのちゃんと消すんだろうな」

嘆いているのはこの教室一のお調子者で、注意しているのは学級委員だ。

 大体はお調子者が注意され、委員長が喝を入れる立ち位置で、漫才に見えなくもない。

いや、もしかしたら本当に漫才のつもりかもしれないが。

学のないお調子者と勉強ばかりの学級委員とで、台本通りの漫才が成立する訳がなかった。

たぶん、素のままで面白いから飽きないのだろう。

 うるさいと思うところもあるが、見ていて面白いから良いと思っているのだ。

大体のクラスメイトは”あいつを止めるのは学級委員の役目でしょ”と高を括っているからか、騒いでいても誰も止めないのが常だ。

だからと言って、お調子者もノリの悪い先生に怒られたくないようで、黒板はきちんと消していった。

 多少、描いた後が見えなくもないが、全く消さないよりか良いだろう。

運が悪くも、次の授業は些細な事で癇に障る事をいう先生なのだ。

誰もがあの先生となるべく関わらないようにしている、と言っても過言ではない。

 嫌味を言うのが好きなのか、授業の度に誰かの気分を逆撫でしていく。

クラス全員が標的にされたくないと思いつつ、もしそうなった時の為に心構えをしながら席に座り先生を待つ。


 束の間の静寂、嵐の前の静けさとも言えるこの時間が、全員たまらなく嫌だろう。

薀蓄うんちくを垂れるあの顔が頭に過ぎり、それが次は自分に言われるかもしれないのだ。

誰だってそうはなりたくないし、自分以外に当たったら同情するしかない。

 いずれにしても、他のクラスメイトを見習い、私も心構えしておいた方が良い。



いつまでも”しりとり”なんか続けていないで。


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