2-3

 最近、五六四組の受けるクエストの内容は比較的楽なものが多い。

 ボスを討伐して大量のポイントを得た上に、クラス間戦争で一七五組に勝利を収めたからだ。無理してポイントを取りに行く必要は今ない。

 クラス間戦争で勝ってから知ったことだが、一七五組ってのはそれなりの実力を持っていたらしい。

 そんなオレたちの勝利がまぐれだったのかそれとも実力だったのか、他のクラスはそれを見極めるために様子見をしている段階のようで、クラス間戦争を仕掛けられることもない。

 正直、一七五組との戦いはギリギリだった。ここからさらに目立って厳しいく内容になるであろうクラス間戦争を繰り返すのは、あまりにクラスメイトたち、特に整備メンバーにかかる負荷が大きい。

 それゆえ今は無理をしない、という方針をとっているのだった。このあいだの海水浴も骨休めの一環である。あれは最後にボスが出てきたんであれだったけれども。

 今日、クラス間戦争で傷ついたロボの修理が進み、オレたちは少し難度の高いドール級の討伐クエストに取り組んでいた。

『追加きたっしょ! 前方10キロ、ドール級! 数は十一!』

『ブラット、砲撃して! 全員射線から離れなさい!』

 ツバサの索敵結果元にシェーレが指示を飛ばす。

 四九式機構鎧特遠型シモノセキが長大な15センチ砲を構え、砲撃姿勢に入ると同時、前衛でドール級と戦っていた機体が横へと動いていく。

 一歩間違えば味方も撃ちかねないがオレたちはそこらへんの連携もしっかり——

「ってあぶねえっ⁈」

 ゾワッとした感覚が背中を駆け上がると同時、オレは期待を大きく横に動かしていた。その至近距離を《シモノセキ》が発射した砲弾がかすめていく。避けてなかったら直撃してた。

 オレの機体ツワモノとニアミスをした砲弾はそのまま直進し、ツバサが索敵したドール級に命中して派手に爆発した。

『外したかー』

 大丈夫だ、ドール級には当たってるぞ。

「なんでだろうなブラット、ものすごい悪意を感じるぞ」

  文句を言っている間にもドール級と戦闘はこなす。これくらいはできないとな。

『あんまり動くなよートオルー外れるだろー』

「そこは当たるって言うところだろ⁈」

《シモノセキ》の構える15センチ砲は五六四組で最長射程・最大火力を誇る。狙われたら洒落にならん。

「オレが何したってんだよ!」

『忘れたのかーそうかー』

 クラス回線から届くブラットの声は、冷たいのに、熱かった。怒ってやがる。

『オレはー一つだけならいいと言ったぞー』

「…………………………」

 オレはようやくブラットの怒りの理由に行き当たった。この間お菓子をもらったんだが、うまくて二個食っちまったんだ。こっそりやったつもりだったんだが。食い物の恨みってやっぱ怖いな。

「悪かった、二袋買おう。勘弁してくれ」

『三袋だなー』

「いいだろう……」

 痛い出費だぜちくしょう。自業自得とは言ってくれるな。うまかったんだ。

 周辺のドール級を倒しきると、シェーレがクエストの達成を告げた。

『みんなお疲れ様。帰投しましょう』

 クエストは帰還するまでがクエストだ。油断してはいけない。いけないんだが、やっぱり気は緩む。帰り道はドール級を倒した道を、つまり敵がほとんど出ない道を戻るだけなんだから尚更だ。

 一応陣形は維持しつつも、他愛のない会話をしながらオレたちは進んでいた。

『そういえばよトオル、朝ロボアイドルがどうとか言ってただろ。興味あるのか?』

「ん、ああ。アイドル雑誌を読んでたら特集があってよ」

『ふーん、トオルってああいうキラキラした子が好きなんだ。ふーん』

 急にユイが割り込んできた。

「なんだよユイ」

『なんでもなーい』

 なんなんだ。

「いやあ、ロボと聞いたら気になるだろ、やっぱ。どんな機体なのか、パイロットの腕はどうか」

 だよなー、とか分かる、同町の声がいくつか聞こえた。

『それでなトオル、来るらしいぜ』

「何が」

『ロボアイドルがだよ。うちの学校のダンジョンを取材に来るらしい』

「……ほお」

『しかもこの近くに、だ』

 クラスメイト達も気になるみたいで、他の会話は聞こえなくなっていた。

 ユイが少し嫌そうな声を出す。

『えー、今から行くの? 今日はもういいんじゃないかな? せっかくロボに負荷がかかってないんだよ?』

『そのアイドルな、最新式のロボに乗っているらしい』

『うん、すぐ行こう、走っていこう』

「変わり身が早えええっ!」

 一転ユイが乗り気になった。

「しかし最新式のロボってどの機体だよ」

『それは不明だ。見てからのお楽しみってな』

「………………しかし、近くと言っても、正確な座標は分からない」

『そうなんだよなあ』

 このダンジョン《ランナウェイ》は難易度こそ非常に低いがめちゃくちゃに広い。近くが全然遠い可能性はある。

『ツバサ、早く探して早く早く』

『無茶言うなっしょユイ、ロボの反応は調べられても、機種までは光学カメラで見ないことには判別できねえっしょ』

 ユイの無茶振りをツバサは軽くいなす。そらそうだ。速度やサイズ、クラス間戦争では敵か味方かはDEWACSシクの探知機で調べられるが、そこまでだ。機種まではわからない。んなことユイも、いやユイなら当然知ってるはずなんだがなあ。

『ただ、代わりには遠いだろうけどいいもの見つけたっしょ』

「どした」

『未踏破エリアが近くにあるっしょ』

『ツバサ、そういうことは早く言って頂戴。具体的には行きの時点で』

『ごめんしょシェーレ。気づいた直後にドール級の群れが出たんで言いそびれたっしょ』

『その件については置いておくわ。それじゃあみんな、少し稼ぎに行きましょうか』

 未踏破のエリアをマッピングするとポイントを入手することができる。ここはあまり深い層じゃないし、変化の周期が短いサブダンジョンだからそれこそ小遣い稼ぎくらいにしかならないが、やはりポイントはあったほうがいい。

 何より、誰も入ったことのない場所へ行くのはどうしようもなくワクワクするもんだ。

 オレたちは未踏破エリアへと進入した。

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