1-9

 オッセエ。

 オッセエナア。

 トマッテンノカ、オマエラ。


「ギャハハハハハハハハハハハハハッ!」


 ザクザク。

 ザクザク。

 ザクザクザクザク斬ラレルダケカ。

 ハンゲキノヒトツモシテミロヤ。


 すくらっぷ、ナンダロ?


「ハゴタエネエナアッ!」


 左肩ハイカレタケドヨ、マダマダ――


『もうやめてよ、トオル』

「――――――アァ?」


 ナ、ん、だ?


『もう、いいでしょ? もう相手も戦意はないよ』


 コノ声、は――


『それ以上弱い者いじめをしたって仕方ないでしょ? それに――』


 ユい、か――?


『それにもう《ツワモノ》も限界だよ。もうそれ以上、傷つけないであげて』


 泣いて……る?


「い、いや、違うぞユイ」

 最初に出たのはそんな言葉だった。

 やっべーまたキレちまったか。最近は気をつけてたんだけどな。

『何が違うの?』

「これは、あれだ、ほら、攻撃されたから、仕方なく……」

『あはは〜トオルは面白いなあ。トオルが先に攻撃してたのになあ』

 ぐっ、タツキに言われちまった。タツキがわかってるってことは、もうこの場にいる全員が気付いているということか。

「ちょっとシクの制御回路にバグが」

『システム面はオールグリーンよトオル。ハード面はどうか知らないけれどね』

 嘘つけ知ってるくせに!

 逃げ道がどんどん潰されていく。もともとあってなかったようなものだからあれなのだけれども。

《ツワモノ》のコンディションは、それはもう酷い有様だった。

 元から負荷のかかっていた左肩は本格的にアウト。

 右腕をはじめとした全身も警報だらけ、センサー類がいかれたんだろう、現状を把握できない部分も少なくなかった。フォルクス粒子の残量も限界が近い。地上まで自力で戻れるかなこれ。

「悪い、シク」

 思わず口からそうこぼれた。

『反省した?』

 ユイの声は、まだ少しだけ震えていた。

「したよ」

『そっか』

 全く、

『じゃあ、地上に戻ったらもっと反省させてあげる』

 そんなに怒んなくてもいいだろ、ユイ。

 やばい体の震えが止まらない。

「いやでもさあ、こうする他なかったと思うんだよ」

『ボクはさっきも言ったよトオル、トオルはもっと機体を丁寧に使ってってね』

 ねえ待ってユイの声がすごく低いんですけれど、中の人変わったりしてないよねこれ。

「落ち着こうユイさん」

『どうしたの、トオル、ボクにさん付けなんかして。ボクは落ち着いてるよ』

「ああやって動かないと避けられなかったんだよ」

『嘘だね。トオルの読みならもっと余裕を持って動けるはずでしょ?』

 ユイ、その声はもう容疑者を詰問する声だよ、仲間に向けるものじゃないよ。

「いざって時のためにどれくらい動けるか確認しておきたかったんだ。全力で動いてもまだ自立できてる。さすがユイの整備だ、これなら安心できる」

『……! そ、そうでしょ、そりゃあボクが整………………ごまかすなトオル!』

 くっそー!

 声は戻ったがそこまでだった。ちょろくない。

 こうなれば最終手段っ……!

『おっと』

「………………⁈」

 斧槍を持ち上げようとした《ツワモノ》の右腕を、クラスメイトの機体がつかむ。

『よっ』

 さらに左腕もつかまれた。

 な――

「なんだとぉっ⁈」

『読めてるよトオル、わざと強制帰還を入れて先に逃げようっていうんでしょ?』

「くうっ!」

 まさか回り込まれてしまうとは。オレの生態を完全に読まれている。

『その、あれだ、諦めろ、トオル』

『骨くらいは拾うぞー』

「おい待てお前ら、なんだこの空気⁈」

 なんとなくどんよりした空気が回線を満たす。

 誰も機体のメインカメラを合わせてくれない。気まずそうにそらしている。

『チョコレート、食うか?』

「いらねえよそんな優しさ! 誰ださめざめ泣いてるやつは! いやだ! オレは生き残ってやるからな!」

『それは楽しみだよトオル、ボクも全力で行こう』

「ちょっとは手加減してくれてもいいんですよユイさん!」

『思いっきりやってもいいわよユイ、壊れても私が魔法で治すから』

「余計なこと言うんじゃねえシェーレ!」

 こえーよなんだ壊れるって!

 がっちりと両側を固定されたままオレを乗せた《ツワモノ》はダンジョンの外まで運ばれ、

「………………ふふっ」

「うぎゃああああああああっ!」

そしてオレは小さな悪魔によって処刑された。

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