北海道の海
あかんかった。
あかんかったのは腕に深く凹んだドス黒流血噴き出す穴の群ではなく、床を歪曲させるヒビいった洋服箪笥の下敷きになっている顔が潰れても尚呻き続ける魅力のある女であった何かでもなく、仕事終わり飲みに行った合同コンパでその女何かを家に招き入れたからである。
合同コンパは非常に快活に盛り上がり、俺テンションハイで、場の雰囲気で碌に飲めもせん強い酒二三啜ったら余計にテンションハイのマックスハイで、ビジネスマンとして有るまじき数々を知り合いと女性陣に披露し、爆笑に爆笑を重ねたムードで俺更に酒煽って、マックスハイの二乗でそれを最後まで、他の方々だんだんと呆れて無視され始めても最後まで爆笑続けた女を俺いたく気に入って、二次会の声無視してその女、名前をユイという女を、どろどろの泥酔のまま混んでる電車で喚きながら、でもそれも笑うユイさんは最高やと人目はばからず騒ぎ、舌打ちと怪訝な顔の集合体たちに囲まれながら最寄り駅着いて、駅近くの安アパートであった事を神に感謝しながらざらざらとした安価な玄関ノブを鍵と共に回した。
まさか到底女が来るとは思わんかった俺の、床が単行本やら文庫やらと一体化したケイオスなワンケーにユイさん悠々と侵入していって、驚きと感動の酔いの俺は、なんか危ない女かも知らんなと、少し警戒して内鍵を閉めた。
ユイさんは看護師やっていて、男性の部屋くるの初めてとどろどろの俺と同じくらいのテンションハイ笑いで喋っていて、だんだんと酒を、アルコールの作用も勝ち越す、先程の危ない女やなという波が俺の心中の中心に押し寄せて来て、しかしユイさん顔面可愛いもんだからまあ、まあまあという第二の俺が諭してまあええかと会話を続けた。
しかしユイさんは酒あまり進んどらんかったような気がしてきて、このマックステンションハイはおかしいと、俺の脳内で懐疑心発生し、それと同時に、ユイさん笑い方がカラカラからキタキタに変わり、更にキタキタからウガガガ、ウグググググと変貌していって、表情も、可愛らしい真鍮のような目玉の黒が大きくなって白目剥き、触ってみたかった唇はガサガサと乾燥脱水、遂には笑いのボリュームが上昇していくと共に、大きく開いた口の縁が裂け始めてきて、それでもなおウグググググをやる血を垂らすユイさんであった何かに俺恐怖で立ち上がって、腰砕けて、また座り込んで、もうユイさんではない。怪物や。と瞬間的な思考を、俺はした。そんで。
ウグググググさんは急激に俺に襲い掛かってきて俺は腕でガードした故、ユイさんであった時のチャームポイント、八重歯から前歯にかけてが、ガードの腕に深く刺さって、俺痛みと畏怖でぐふう。と発して、まだまだ深く噛まれる腕の激痛に耐えかねて、骨達する前に、丁度壁際で事が起こっていたから、実家から持ち込んだ馬鹿でかい洋服箪笥を、ウグググググに向けて思い切り倒してやった。
ばたんびっしゃっ。
もの凄い音と一緒にドス黒の液体顔にかかって、箪笥の角が元ユイさんの後頭部に見事にクリーンヒット、物理的重責にも関わらず元さんウグググググ言いおってて、俺は過呼吸気味に腕に刺さった歯を一つ一つ取って何なんやこの状況はと、眼前の北海道の海を見て歪んでゆく宅配便業者の放尿に意識を支配されああなんて素晴らしい日なんだと結婚式会場であるにも関わらず私たちは遠足のバスに石を投げつけ死んでゆく鳥達と火葬場の匂いで飯食うてウグググググ
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