第231話 休眠
満足げな表情を浮かべながら眠っているクリスを見て、カリオスは一つ息を吐いた。
彼が満足げな理由は、なんといっても左腕の籠手が原因だろう。
そんなことを考えたカリオスは、自身も休息をとるために瞼を閉じる。
他の皆も、既に眠りについているのだろう。
周囲はしんと静まり返っており、誰かの寝息だけが微かに聞こえているだけだった。
即席で作った枕の感触を感じながら、カリオスは先程聞いた話を思い返す。
アイオーンの語った話が、どれだけ昔の話なのか、今のところ分かっていない。
少なくとも、この都市が滅びた時の話だと考えるなら、かなり昔のことだと推測することは簡単だ。
しかし、一つ腑に落ちない点がある。
それはもちろん、サーナの存在だ。
アイオーンの話に出て来るサーナと言う人物が、カリオスの知るサーナと同姓同名で、同じような口調の別人という可能性はゼロではない。
話しだけで言えば、そう言えたかもしれない。
ところが、クリスの左腕にあるそれが、その可能性を消してしまったように思える。
『まず間違いない。同一人物だ。だとするなら……』
サーナとは何者なのか。
少なくとも、普通の人間と言うわけでは無いのだろう。
そんなことは、カリオスでなくとも分かる話だ。
そして、可能性の一つを、カリオス達は目の当たりにしている訳だ。
サーナと同じ時代を生きたというアイオーン。
彼の存在自体が、長い年月を生き抜く生物の存在を示唆しているのではないだろうか。
その考え方は、彼にもう一つの可能性を導き出させる。
『鼠人間と猿人と蛇とドラゴン。そして、アイオーンが受けた訓練と、都市への攻撃。それだけ考えると、まるで……』
兵器みたいではないだろうか。
だからこそ、グランという男は何かを懸念していた?
『いや、そんなことってあるのか? もし、それが事実だとしたら、サーナは生物を自由に作ったり、作り替えたり、新しく生み出すことが出来るってことになるぞ? そんなことが出来るんだとするなら、世界中にもっと……』
そこまで考えたカリオスは、背筋に寒いものが走ったような気がした。
何か、気づいてはいけない事に気づいてしまったような、そんな感覚。
『ウルハ族は……いや、亜人は、作られた生物なのか?』
確証はない、ただの想像。
妄想と言っても良いその考えを、カリオスはすぐにかき消した。
亜人の成り立ちについて、それほど詳しく知らない状態で、変な考えに固執するのは良くないことだ。
『考えすぎだ。もしそうだったとして、それがなんだ? ここまで一般的になってしまえば、それはもう、一つの生物だろ。それよりも、考えるべきは、サーナの目的だ』
アイオーンやグランの住んでいた都市で、サーナが何を行なっていたのか。
今この世界で、彼女が何を成し遂げようとしているのか。
初めから胡散臭いとは思っていたが、知れば知るほどに臭くなってゆく。
『クラリスを助けたら、一回サーナのところに戻るか。目的を全部吐かせてやる。場合によっては、クロムと同じように止めるべきか』
そもそも、既にカリオスとしてはサーナの言いなりになる必要性を感じていなかった。
ただ、クラリスを助けに行くこととクロムを止めること、その二つの目的が、偶然にもサーナの指示に近いだけなのだ。
それ以上のことをするつもりは無い。
ましてや、サーナの思い通りに動くつもりも毛頭ない。
少しずつまどろんでゆく思考の中で、カリオスは決意を新たにする。
そうして、彼の意識はゆっくりと沈んでいくように、眠りの底へと落ちていったのだった。
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