第230話 中身
アイオーンの背に乗ったカリオス達は、建物の屋上へと移動した。
と言うのも、アイオーンの姿を見た鼠人達による襲撃から逃げるためである。
崩れかけの廊下にしがみついたままのアイオーンは、意識せずとも目立ってしまう。
その姿を見て、彼らがどのような行動に移るのか、カリオスにも予想が出来ない。
先程まで炎の奥で舞っていた彼らの姿が無いことから、恐怖のあまり逃げ出していればいいのだが。
そんな希望的な願望を抱きながらも、松明を高く掲げる。
「痛つつつつ!」
「ちょっと、オルタさん! 急に動かないでください! ちゃんと縫い合わせておかないと、また傷が開いちゃうから!」
うつ伏せ状態のオルタに向かって、タシェルが声を上げている。
出血が治まったとはいえ、完全に傷が塞がったわけでは無いらしい。
蛇に噛まれてできた沢山の傷跡を、タシェルが縫合しているのだ。
そんな繊細な作業をしているのだ、灯りが必要とのことで、カリオスがこうして松明で照らしているのである。
そう言う意味では、治療をするためにここに来たとも言えるだろう。
一人で納得しながら、彼は周囲の様子を見まわしてみた。
何もない、だだっ広くて平らな屋上。
東へと果てしなく伸びているその様子を見て、改めてこの建物の大きさを実感してしまう。
『こんなデカい建物、どうやって建てたんだ? 見たところ、継ぎ目とかは見当たらないんだけどな……』
とても想像のできないことを考えた彼は、次にアイオーンへと目を向けた。
タシェルの邪魔にならない場所に居る彼は、ミノーラやクリスと一緒に、オルタの様子を伺っている。
初めにその姿を見た時は、絶望を抱いてしまったほどなのだが、今こうしてミノーラの背後に並んでいる様子を見ると、不思議な感覚に陥ってしまう。
『まぁ、仲間なんだと思えば、これ以上に心強い奴はいないか。それにしても、この山の中は一体どうなってんだよ……』
鼠人に猿人、巨大な蛇に、仕舞いにはドラゴンが出てくるなど、誰が予想できただろうか。
『ノルディス長官とマーカスは知ってんのか? いや、知ってたら、教えてくれるよな……そもそも、この道が誰でも通れる道だったとしたら、奇襲として成り立たないからな。むしろ好都合と考えるべきか』
「よしっ! できた! オルタさん、もう大丈夫だよ。でも、少しの間は、あまり急に動いたりしないでね」
「おう! ありがとうな、タシェル」
そんな言葉を交わしながら立ち上がった二人は、ゆっくりとアイオーンの元へと歩き出した。
その二人に着いて行くように、カリオスも歩き出す。
「さて、これからどうしようか。ちょっと色々ありすぎて、私は少し休みたいんだけど」
「そうだな、色々と聞きたいこともあるしな! でも、この下にあいつらが居るんだろ? こんなところで休んでても大丈夫なのか?」
タシェルの提案に対してオルタが告げた言葉を聞き、その場の全員がアイオーンを見上げた。
突然視線を浴びることになったアイオーンは、少し驚きながら首を傾げている。
「なに? 僕、何かした!?」
「……襲ってこないと思うけど、交代で見張りだけする?」
苦笑いしているタシェルは、全員を見渡すと提案した。
その提案を聞いたアイオーンが、即座に反応を示す。
「見張りなら、僕がやるよ! ここにいる皆以外の誰かがここに近づいてきたら、教えればいいんだよね? そんなことは簡単だよ。僕に任せて!」
「アイオーンはニオイで誰がどこに居るのか分かるらしいけん、大丈夫ばい! ばりすげぇよな! 俺もできんかな……」
「ニオイでそんなことまで……? そう言えば、ミノーラとクリス君はどこでアイオーンと出会ったの?」
クリスの言葉に感心したのか、タシェルは頷きながら問いかけた。
「この建物の地下で会いました! ね、クリス君」
「そうばい! アイオーン、さっき聞かせてくれた話ば、皆にもしてやってくれん? 絶対喜んで貰えるけん!」
「本当かい? それじゃあ、少し長くなるけど、聞いて貰おうかな!」
そうしてアイオーンは語り始めた。
生まれた時の事、グランの事、この都市の事、都市をいくつも滅ぼした事、この都市を山の下に埋めた事。
そして、サーナの事。
そのどれもが衝撃的な内容で、理解に苦しんだカリオスは、すぐさま箱の事を思いだした。
アイオーンが語り終えたと同時に立ち上がり、リュックの傍に置いていた箱を取り上げる。
そうして、皆が集まっている中心に箱を置いたカリオスは、その箱をひっくり返した。
そこに書いてある小さな文字を指差しながら、カリオスは皆の反応を待つ。
「その箱の中身は何が入ってんだ?」
誰もが沈黙する中で、唯一言葉を発したオルタが、おもむろに箱を手に取ると、こじ開けようとし始めた。
しかし、かなり頑丈に作られているようで、簡単に開けることは出来ない。
「アイオーンなら開けれるんじゃないですか?」
「僕かい? うーん、壊してしまっても大丈夫なら、やってみるけど」
「壊したら、中身まで壊れるばい! それよりもナイフでこじ開けた方が良いんやない?」
腰に携えていたナイフを抜き取ったクリスが、オルタから箱を受け取るが、開けることは出来なかった。
上手く行かなかったクリスは箱を置くと、ナイフをしまって黙り込む。
そうして、誰もが諦めを抱いた時、オルタがもう一度箱を拾い上げた。
「俺なら出来るかもしれねぇ」
そう言うオルタに向けて、さっきやったじゃないかと思ったカリオスは、しかし、様子を見ることにした。
箱を左手に持ったオルタは、力ずくで開けようとするのではなく、右手の人差し指ををぴんと伸ばした状態にして、力み始めた。
それだけ見れば、オルタが何をしようとしているのか、カリオスでも察することが出来る。
彼の人差し指から伸び始めた細い刃が、より細く薄く変化をし始める。
刃の状態をしばらく見つめて確認したオルタは、そのまま箱と蓋の間に出来ている狭い隙間へと差し込んだのだ。
そのまましばらく時間が経過したかと思うと、不意に、箱の蓋が音を立てて開いた。
恐らく、薄い状態の刃を隙間に差し込んだ後、刃を厚くしていったのだろう。
そうして開いた箱の中身を見たオルタは、カリオスへと目を向けながら呟いた。
「これって、カリオスのやつと似てるな……」
『俺のと似てる?』
何を言っているのかと思い、すぐに箱を覗き込んだカリオスは、すぐさま言葉の意味を理解した。
『籠手……俺のより少し簡素なタイプか?』
そんなことを考えながら、カリオスは自身の右腕に装着されている籠手に視線を落とす。
ゴツゴツと重量感のある籠手。
そんな自身の籠手に比べて、非常に簡素な作りのその籠手は、どうやら左手に装着する物のようだ。
「でも、ちょっと小さいね。カリオスさんじゃ入らないんじゃない?」
同じく箱の中を覗き込んでいるタシェルが言葉を溢す。
そんな言葉を聞いたクリスが、元気よく告げたのだった。
「俺! 俺ならどうなん?」
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