第23話 反撃

「あまり時間が無いので、手短てみじかに説明する。先程まで君がいた第1コロニーには影の精に精神支配されたトアリンク族が潜伏せんぷくしていた。つい最近まで親様のパトラは正気だったんだが、いつの間にか精神支配を受けていて、私はあえなくここに落とされたのだよ。運良くダンガンに助けられたがね。そのパトラを君の相方が解放したようだ」


 先程までのどこか飄々ひょうひょうとした雰囲気が消えてなくなったように、バートンが事務的に報告を始める。


 カリオスは何を言うまでも無く、ただ聞くことにした。


 正確には、猛然もうぜんと走りながら話を聞いている。


 雄たけびを上げたトアリンク族達は、落ち着きを取り戻したかと思うと、あやつった木々でスロープを作った。


 延々と上に向かって伸びてゆくそのスロープを、わき目も降らず駆けあがってゆく小人たちの後を追って、二人は走っているのだ。


 かといって、このままコロニーに辿り着いたとして、影の女王をしずめる方法は何かあるのだろうか?


 先程トアリンク族達が『反撃』と言っていたからには、何かしら作戦があるに違いない。


生憎あいにくだが、そんな作戦はありゃしねぇ」


 それは、カリオスの肩で胡坐あぐらをかいているダンガンの声だった。


『は? 作戦なしで突っ込んでるのか? そりゃまた無謀むぼうな話だ。せめて松明たいまつの一つでも持って行くべきだな』


「ふざけてんじゃねぇぞ、兄ちゃん。この聖樹の中で松明なんかかかげようもんなら、この俺が許さねぇ!」


「松明? あぁ、影の精に光で対抗するつもりか。だが、影の女王ともなると、必要な光量が足りない。日の光くらい強くないと、効き目はないだろうさ」


 ダンガンの言葉に反応したバートンが釘を刺すように口を挟む。


 言われなくても分かっていると反論したいが、これ以上時間を無駄にできないのでこらえることとする。


 つまり、日光に当てれば勝ち目があるのだ。


 しかし、どのようにすれば影の女王に日光を当てることが出来るだろうか。


 というか、影の女王は今どこにいるのだろうか?そんな基本的な疑問をダンガンに投げてみる。


『影の女王は、普段どこにいるんだ?』


「あ? そんなの知るわけねぇだろ? 聖樹の天辺付近にいるんじゃねぇか? あそこなら、分厚い雲と無数の枝葉で日光は当たらねぇだろうからなぁ」


「ということは、聖樹の天辺から影の女王を引きずり下ろし、おまけに、聖樹の足元から影のない場所まで引きずり出すしか勝ち目がないってことかな?」


 皮肉めいた口調でバートンがぼやき、ダンガンが肯定するかのようにうなった。


 どうしたものか、到底無理な話である。


『と言うか、日光が当たらない場所と言えば、聖樹の中に入ってこないのか?』


「なんでも、影の精はうるわしの森に充満してるあの光が苦手なんだとよぉ。聖樹が栄養として取り込めなかった分のエネルギーを、ああして光にして放出してるとかなんとか。少し弱いが、コロニー内も同じ光が出てるんだぜ? 気づいたか?」


 日光に弱い影の精と、日光を放出する樹木。


 その話を聞いたカリオスの脳裏に、一つの光景が浮かぶ。


 それは、トリーヌによってコロニーに運ばれているときに何気なく思ったこと。


『……』


 遠くを走り抜けて行くトアリンク族に目をやりながら、彼はゆっくりと足を止めた。


 不思議と息が上がったりしていない。まだまだ走ることはできる。それでも足を止めた彼は、近くでぼんやりと光っている樹木に手を添えて考え込んだ。


 その様子に気が付いたバートンとダンガンがいぶかしげに顔を見合わせている。


 そんな二人に構わず、カリオスはポーチからクラミウム鉱石を取り出し、樹木のそばに並べ始めた。


 そうして、心の中でうそぶく。


『落として転がせば、一件落着ってか』


 彼の考えを読み取ったのだろう。肩の上でダンガンが小さく呟いた。


「マジかい、兄ちゃん」

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